おれの、わたしの、痛みを知れ!

えいりす

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第三章 王都への旅

70.指名依頼

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翌朝、再びギルドへ集まった4人は早速新しい依頼が張り出されていないか確認した。

しかし、そんなに都合よく昨日の今日で新しい依頼など来るわけもなく依頼ボードは昨日のままであった。


「そう簡単にはいかないか」

「昨日の今日だもんね……さすがに依頼増えてないかぁ」

「そんなあなた達に依頼ですよ?」


後ろから急に声をかけられる。4人が振り向くとセラスが立っていた。


「あなた達おはよう。今日はあなた達4人に指名依頼が入っているわよ?」

「指名依頼?」

「おれたちを指名して依頼されてるんですか?一体誰から?」


エイシェルとアリスはランクもCに上がり、そこそこ依頼もこなして来たが指名を受けるほどとは思えない。
ニックネームが売れているアリスなら指名の依頼が来てもおかしくは無いのだが、今回は4人を指名との事だ。
そうなると、今までの依頼者の中に絞られる。
エイシェルが、そんな事を考えているとセラスから答えが伝えられる。


「依頼人はセルロって人からね。ほら、薬草を1時間以内にもってこいって依頼の人。気難しそうな人に見えたけど、わざわざ指名してくるなんてあなた達気に入られたのかしら?」


何故指名されたのか、考えれば理由はいくつか考えられるが推論に過ぎない。
指名依頼は当然指名されるのだから依頼も割高になる。それでも指名してきたのだ。
だが、4人にとってこの依頼は非常に助かった。
手頃な依頼の無いタイミングだったため今日は休みにしようかと考えていたところだった。


「どんな依頼なんですか?」

「鹿の角の納品ね。南西の山に鹿がいるから、その角を持って来て欲しいみたいよ。」

「南西の山……」


フルームは少し引っかかった。南西の山って最近どこかで見たかがしたのだ。
フルームが考えていると、そんな事は知らないセラスが依頼書を渡して来た。

描かれた内容はシンプルだった。
回復薬の効果を高める為に試行錯誤しており、鹿の角を試したいとのこと。

依頼内容を確認した4人はこれならば問題ないだろうと依頼を受ける事にした。
エイシェルが代表して依頼を受注する。
何事もなく受付証明書を貰ってエイシェルが戻ってきた。


「場所が少し遠いからしっかり準備していこう。帰る頃には夕方になると思う」


エイシェルがそう言うと4人はそれぞれ出掛ける準備をするのだった。
3人が準備している間にエイシェルはセルロの家を訪ね依頼を受け付けた旨説明した。
セルロはすぐに引き受けてくれた事に感謝し喜んだ。
途中あの娘にもよろしく言っといてくれと言われ、アリスが余程気に入られているんだなと実感するエイシェルだった。




準備を終えたら町の西側に集合する事にしていた4人。
女子3人が準備を終えて待っているとエイシェルが籠を背負いやってきた。もはや見慣れた光景である。


「お待たせ。セルロさんにも報告してきた。それじゃあ行こう」

「場所はここから南西にある山よね?結構漠然としてるけど場所はわかるの?」

「私達も西側ってあまり依頼で行かないから詳しくないわよ?」


出発しようとしたところで根本的な確認が入る。
そもそも依頼内容が大雑把過ぎて場所がアバウトなのだ。
すると、エイシェルがため息をこぼす。


「あのなぁ……おれが分かるからいいけど、分からないなら依頼受ける時にひとこと言ってくれ」

「ごめんごめん。でもさすがエイシェルね。……そう言えばあなた西の方から来てたわね」


アリスは自分が旅立った日のことを思い出していた。なんとなく西の方に存在を感じたのが懐かしく感じた。
そして、それはエイシェルも同じだった。


「そうだな……こんなに色々起きたのに村を出てからまだ1週間しか経ってないんだな……」


オージンが見送ってくれてから色々あったが、実はまだ1週間しか経っていないのだ。村で過ごしていた頃は1週間なんてすぐに過ぎた印象だったが、ここ1週間は濃厚な時を過ごしており、時間の進むスピードが遅く感じていた。


「この前も話したけど、本当にここ数日濃厚よね」

「私は楽しいから濃厚でいいけどねー」


フラムもフルームも同意見だった。






そんな他愛もない話をしながら歩くこと約2時間。目的の山に到着した。
例の如くアリスは疲れていた。


「……ねぇ、エイシェル……?こんなに遠いなら……始めに言ってくれない……?」

「あれ?帰りは夕方くらいって言った気がするが……」

「山までが遠すぎるってことよ!普通時間がかかるって山に入ったり鹿を探す時間のことでしょ!それに、何度もスルーしたそれっぽい山にはいないの!?」

「いやいや、町に面してる南の山じゃないんだからこれくらいはかかるって。むしろ近い方だと思うぞ?」

「…….そうなの?」


あまりの距離にアリスが怒るが、エイシェルにとってはむしろ近い方だと感じていた。
そもそも時間がかかったのはアリスのスピードに合わせていたことが大きい。
エイシェルの話を聞いたアリスは半信半疑でフラムとフルームを見た。


「そこで私達を見られても……まぁ、エイシェルの言う通り、山に入るんなら近いんじゃないかしら?それこそ本当なら山に入るのって何日もかけて行くものだし」

「私達が山で修行させられた時は行くだけで3日かかったよ?」


フラムとフルームの回答にアリスはカルチャーショックを受けていた。
 
アリスにとっての山はイノシシを狩った町に面したあの山のイメージだ。そのため、町から南西の山と言われても少し歩けば着くだろうくらいに思っていた。
見積もりが甘くなるのも仕方がなかった。


「ごめんなさい……普通はそんなにかかるのね……勉強になったわ」

「分かってくれたなら良かった……。ただ、本当にキツかったら言ってくれ」

「うん、ありがとう」


アリスの機嫌が戻ったところで、鹿を探しに山へ入るのだった。
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