おれの、わたしの、痛みを知れ!

えいりす

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第三章 王都への旅

79.実験

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3人は順番にお風呂に入り、あとは寝るだけとなっていた。
そんな中最初にお風呂に入ったアリスは布団の中でうつ伏せになり何やらぶつぶつ言っている。


「私達そろそろ寝るけど、アリスはまだ寝ないの?」

「わたしはまだ起きてるわ。竜玉について実験中だから」

「そう言えばそんなこと言ってたわね」

「実験ってどんなことするの?」


アリスは予定通り竜玉の実験をしていた。
先程のやりとりに不貞腐れながらも黙々と魔力を込めていたのである。
フルームもちょっとからかいすぎたと反省しており、特にその後しつこく話を続けてはいなかった。
そのため、実験が捗りアリスの機嫌はすっかり直っていた。


「竜玉に魔力込めては竜玉の魔力で魔法を使うの繰り返しね。最初はわたし1人分の魔力を入れたら吸い込んでくれなくなったの。それで、竜玉の魔力を使ってみた後にもう一度魔力を入れてみたら、最初よりも魔力が入るのよね」

「それって、使えば使うほど蓄積できる魔力の容量が増えるってこと……?……って!?アリス!?大丈夫なの?最初に一人分入れて、そのあともっと入れたって言ったけど!?」


フラムが心配するのも無理はない。
魔力を使うには生命力から返還しなければならない。生命力を使い果たせば死んでしまう。
普通は使い切る前に体調に異常をきたし気を失うが、一気に魔力変換を行なった場合はその限りではない。
アリスはひとり分以上を使ったと言ったが普通はありえないことだった。
そして、フルームが推測を述べる。


「エイシェルの分があるから大丈夫なんじゃないの?それでも一気にやったらまたエイシェル走って来ちゃうよ?」


確かに今のアリスは生命力をエイシェルと共有している。合算している分生命力をひとり分使ったところで大したことはない。
しかし、アリスだってそう何度もエイシェルに迷惑をかけるつもりはない。もっと別の方法をとっていた。


「あぁ、確かにそうだけどそれも違うわ。……さすがに宿の場所知らないから来ないと思うけど、心配はかけたくないしね。2人とも生命力を回復する魔法って知ってる?」

「なにそれ!?そんな魔法があるの?」

「……私は一時期その手の本を読んでたから知ってるわ。……でもあれって結局魔法で回復する生命力以上に魔力変換に生命力を使うから全く意味がなかったはずだけど……」

「え?生命力を回復させるのにそれ以上の生命力を使ったら意味なくない……?」

「普通はそうみたいね。ただ、わたしの魔力変換効率ってかなり高いみたいで、使ってみたら少し回復するのよ」

「そうなの!?……さすがアリスね……私が使った時は生命力が減る一方だったのに……」

「やっぱりアリスはなんでもありだね……。あれ?でも今までそんな魔法使ったことないよね?」

「……恥ずかしかったのよ……。一回の魔法発動で少ししか回復しなくて、何度も何度も繰り返して魔法を唱えなきゃいけなかったから……」


ルミナドレインの魔法について話す3人。
アリスがここ最近使わなかったのは単に恥ずかしかったからである。
何回も連呼する姿があまりにも不恰好で他に人がいる場所ではやむを得ない場合を除いて使いたくなかったのだ。
ただ、それも今日で終わりだ。


「でも、それも解消されたわ!最近、必要以上の魔力を込めて魔法を発動させれば魔法の効力が上がることが分かってたから、この生命力を回復される魔法でもできるかと思って試したのよ。そうしたらなんといつもより多く生命力を回復させることができたの!……あとは今日、魔法の名前を言わなくても魔法を発動できることが分かったでしょ?それで魔法名を口に出さなくても回復できるかも併せて試してみたら、口に出さなくても魔力を込めればいつもより多く生命力を回復できたわ!……ただ、魔法名は口に出したほうが安定するっぽいけどね」


アリスは興奮気味に説明する。
思えば猿の魔物と対峙した時から魔法に魔力を込める事をやっていた。
今まで考えなかった事が不思議なくらいだが、もちろんルミナドレインにも使える。
魔力を余計に込めるということは魔法発動時余計に生命力を消費するということだが、魔力を多く込めた分しっかりと生命力が回復したのだ。

あとは口に出す出さないの差だが、ボソッとでも口に出せば生命力の回復量が安定する気がした。
あくまで感覚だが、口に出さないと回復量にばらつきがあるようだった。


「アリスにしか出来ない事だけど……本当に魔法を使い放題になったのね……」

「もう驚かないって思ってたけど、やっぱりアリスって規格外だよね……」


毎度のことながら驚くものの、アリスなら仕方ないかと思うフラムとフルーム。
仕方ないで済ませられるのはアリスのとんでも魔法を間近で見てきたため魔法関連に対する感覚が麻痺しているからである。

アリスは自覚がないが、アリスと竜玉のセットの価値は計り知れない。
アリスは理論上無限に魔力を生成でき、竜玉はその魔力を溜め込む事ができる。
誰でも使える魔力タンクの出来上がりである。
もしこの事実が広まれば各方面が黙ってないだろう。
……実験が思うように進み楽しくなってるアリスにはそんな事を考えている余裕はないのであった。


「そうだ!2人とも今から竜玉に魔力込めるから寝る前に使ってみてよ!」

「いいわよ。むしろこっちからお願いしようとしてたわ。その竜玉試してみたいと思ってたの」

「私も私も!使ってみたいと思ってた!」

「よかった!それじゃあ魔力込めるからちょっと待ってね」


そう言うとアリスは両手に竜玉を乗せて魔力を込め始めた。
……布団に潜ったまま亀のように手と首を出した格好のためなんとも締まらない上に地味な光景だったがやっていることは極めて高度だ。

両手で別々に魔力を込めながら無詠唱でルミナドレインを発動しているのだ。
左右の手から別々に魔法を使いながら生命力の回復魔法も並行しておこなっているようなもの。
つまり、無詠唱で三重魔法を発動させていることに他ならなかった。

そんなことは分からないフルームはワクワクしながらアリスの作業を待っている。
一方、少し魔法を勉強していたフラムはその事がわかってしまい、開いた口が塞がらないでいた。

少しすると魔力の充填が完了したようだ。


「はい!2人とも試してみて!」


フラムとフルームはアリスのそばで座り込みそれぞれ竜玉を受け取ると少し竜玉を観察し魔法を試してみることにした。


「じゃあ私から行くわね。ファイアボール!」


フラムはいつもの感覚で魔法を使った。
そう、"いつもの感覚で"


ゴゴオオォォ!

軽く1メートルを超える火柱が現れた。


「「「ぎゃーーーーーー!」」」

「お姉ちゃん!?なにやってるの!ウォーターボール!」

フルームが魔法を唱えると天井を覆うほどの水が現れる。

「「「わーーーーーー!」」」

「ち、ちょっと2人とも落ち着いて!フラムは魔法を解いて!フルームはそのまま維持で!」


アリスが指示をするとフラムとフルームはそれに従った。
まずフラムが魔法を解くと火柱も消えた。
これで火事になることはない。
次の問題はフルームが作り出した水である。

アリスは布団から出て起き上がると窓を開けて下を確認する。
部屋は2階にあったため下を見下ろす必要があるのだ。
下を見るとどうやら宿の裏のようだ。洗濯物を干すスペースなのか物干しが置かれている芝生の生えた場所がある。
ここしかないと判断してアリスは指示を出した。


「フルーム!その水を細くして窓から外に出せそう?」

「細くとかわかんないよ……今まで魔法で水を出しても制御するなんてことなかったもん……」

「じゃあ、あの剣をイメージ出来る?フルームが使ってた剣」


アリスはフルームに水を窓から出すように言うが、魔法をそこまで制御した事がないフルームには外に出すなんてイメージができず維持するだけで精一杯だった。
そこでアリスは一度目にしたものなら分かるだろうと思いフルームの使った剣をイメージさせたのだ。
魔法はイメージである。一度手にして使ったものをイメージさせる事で水を制御させようと考えた。


「剣をイメージ……あの綺麗な剣……」


フルームがつぶやくと天井を覆っていた水が圧縮されるように集まりフルームの目の前に降りてきた。
……そして、次の瞬間には目の前にあの剣が現れたのである。


「おぉ……なんかできた……」

「……えぇっと……流石にこれはわたしも想定外なんだけど……」

「えっと……どうなってるの……?」


アリスは剣をイメージさせることで窓を通れるくらいに細くし、外へ水を捨てるつもりだった。
しかし、なぜか目の前にはアリスがワイバーン戦でフルームの剣に魔法を付与した状態の剣がある。
これにはアリスもフラムも驚き何も言えなくなる。


「あの水の剣のことしっかりイメージしただけなんだけど……あの剣の感触、切れ味。あと見た目。すごく綺麗だったから……」

「イメージしただけでこんなにもしっかりと剣を作れるものなの……?いや、きっと剣だけじゃない。イメージする物に近い魔法を使って細かくイメージを落とし込めればきっと……」


フルームの答えを聞いてアリスが何やらぶつぶつ言い始めた。
魔法のことになると考えに没頭してしまうのは相変わらずだ。
スイッチが入って絶好調のアリスはもう誰にも止められないのだった。

一方で意図せず魔法から剣を生み出したフルームはいてもたってもいられなくなった。


「ちょっと試し切りしてくる!」

「今から!?もう真っ暗よ?しかもあなたパジャマじゃない」

「こんな時間に外に出る人なんていないって!それにさっきのお姉ちゃんの魔法があれば明るいから大丈夫!」

「あのね……見てたでしょ?全然制御出来てないのよ……危ないからアリスに頼んだ方が……」

「あぁ、その事なんだけど……たぶん"いつも通り"に魔法を使おうとしたでしょ?」


フラムの言葉を聞いてアリスが自分の世界から帰ってきた。

「そうだけど?何かまずかった?」

「これは推測なんだけど……考えてみて、いつもは生命力を魔力に変換してから魔法を使っているでしょ?その時に人によって変換効率が違う。つまり、わたしとフラムが同じ威力の魔法を使おうとするとフラムはわたしよりも多く生命力を消費しなくちゃいけない。……ここまではいいわよね?今回は竜玉にある魔力を使った。いつもの感覚で魔法を使おうとしたらどうなるか……もう分かるわよね?」

「……竜玉の魔力を直接使うから生命力を使って魔力へ変換する必要がない……つまり、いつもと同じように魔法を使おうとすると……いままで効率が悪くて無くなっていた分の魔力も使ってしまう……ってことね?」

「なるほど、変換効率が50%の人が同じように魔法を使うと威力が2倍になるわけだね」

「そういうこと。だからさっきは魔法が暴発したように見えたってわけ。使う生命力を四分の一まで抑えるイメージでもう一度魔法を使ってみて?」

「あ、危ないんじゃ?」

「いいからいいから!危なくなった時はわたしがなんとかするわよ!」

「そ、それじゃあ……四分の一ね……四分の一……ファイアボール!」


フラムが魔法を唱えると目の前に手のひら大の火の球が現れた。
それは以前フラムが見せてくれたサイズの火の球である。


「で、できた!」

「やっぱりそうなのね!これを使えばその人がどのくらいの変換効率なのかを調べることもできるわね!」

「……つまりお姉ちゃんの魔力変換効率は25%ってこと……?」

「うっ……思ってたよりかなり低い……」



一度は魔法を使ってみたいと勉強していた手前ショックを隠しきれないフラム。あからさまに落ち込んでいるのが分かる。
アリスは最後に余計な事を言ってしまったと後悔し、フルームも咄嗟に計算して口に出してしまった事を後悔していた。
この後アリスとフルームは頑張って励ますのだった。
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