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第四章 王都防衛戦

117.暴走

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 後でと言うのがいつなのか曖昧だった為、エイシェルが泊まる部屋のドア越しで1時間後を指定するアリス。エイシェルは「今でもいいんだが……」と言っていたがアリスとしては色々準備が足りない。アリスは自分たちの部屋に戻るとすぐに準備を始めた。

「フラム、フルーム。先にお風呂もらうわね!」

「「!!?」」

 準備とは急いでお風呂に入ることだった。お昼にフードファイトしたせいで若干汗をかいたことから臭わないか気になったのだ。エイシェルに時間を告げて部屋に戻った瞬間お風呂の準備を始めたアリスを見てフラムとフルームが驚愕の顔をしていたがアリスは最初なぜ2人がそんなに驚いているのか分からなかった。
 お風呂の準備が終わり冷静になって考えてみると、男の子の部屋にアリス単身で突撃するのだ。その前にお風呂に入るなんて……2人が勘繰ってしまうのは仕方ない。その事に気付いたアリスは顔を真っ赤にし全力で否定するのだった。

「ち、違うからね!?汗かいちゃったから洗い流したいだけだからね!!?ただそれだけだから!!!」

 そう言い残すと足早にお風呂へ向かうアリス。残された2人は再び困惑するのだった。

「……どうだろう」

「どうだろうって……。流石に無いと思うけど……。アリスだしね……」

「だよね。ちょっと行動が読めないよね……。なんか緊張してきた」

「奇遇ね、私もドキドキしてきたわ」

 いつもはきゃっきゃしてる2人もこの事態に少し緊張するのだった。




 お風呂から上がったアリスはエイシェルの部屋の前までやってきた。一度自分の部屋に戻った時にフラムとフルームが「頑張って」と言ってきたが特に頑張ることは無いはずである。……無いはずである!まずは部屋に入れてもらわないと話が進まない為エイシェルに声をかけ部屋に入れてもらうのだった。

コンッコンッ

「エイシェル?お待たせ」

「あぁ、アリス。どうぞ」

 エイシェルはノックに返事をし、扉を開けるとアリスを部屋に招いた。 
 実はこの1時間エイシェルはアリスが来ないんじゃ無いかと心配になっていたが、アリスがきてそれが杞憂だと分かると密かに安心していたのだ。

「遅くなってごめんね。ちょっと準備が……ってそれは?」

「ああ、来るまでにちょっと試してたんだ」

 アリスが指をさした先には机の置かれた転魂箱が置かれていた。

「ひとりの時しか使えないとか条件があるのかと思ったんだが関係なかったな」

「そう……やっぱり明日道具店に行かなきゃね」

 せっかく高値で買った転魂箱をどうにか使えないかとエイシェルは試したが、残念なことに効果はなかった。また明日ステラの元へ向かおうと話したところでエイシェルが本題に入る。

「それで、ここに呼んだ理由なんだけど、これを受け取ってもらいたくて呼んだんだ」

「これ……袋?あ!あのお店の!?」

「……あのワンピースがとても似合ってたから、また着てもらえたらなって思って……」

 外袋を見てわかった。最初に服を試着した店の袋だと。事前にフルームに言われていたがぶっちゃけ半信半疑だった。そもそも試着してから武器屋までずっと一緒にいたのだ。いつそんな時間があったのか……そう考えた時に閃く。エイシェルがメルカに調理道具を依頼した時に一緒に買ってもらったのではないか?いや、それ以外に方法はない。アリスは今度会った時にメルカにお礼を言おうと心に決めた。そして、この服をメルカにお願いしてくれたエイシェルにも。

「……ありがとう!大切にするね!」

アリスはエイシェルからワンピースを受け取ると屈託のない笑顔を浮かべる。男の人からプレゼントを貰うなんて父親以外なかった為、嬉しい気持ちと共にキュンとしてしまったのだ。
 エイシェルもまたアリスの笑顔にノックアウトされていた。今この瞬間は自分だけにこの笑顔が向けられている。それがたまらなく嬉しかった。
 そんな幸せな2人だったがアリスが暴走し始めた。

「そうだ!せっかくだからここで着て見せようか?」

「え!?……あぁ、服の上から着てみるのか。見てみたいな」

 アリスはここで貰ったワンピースを着ようと言い出した。エイシェルは一瞬アリスがここで着替え始めるのではないかと妄想したが、現実的な思考に軌道を修正した。ここで着るということは服の上からだろう。常識的に考えてこのシチュエーションで着替えるのはあり得ない。少なくともエイシェルの中の常識では。

「え?ここで着替えるけど?」

「……え?」

 そんな常識はぶち壊された。混乱するエイシェル。何故この様な事態になったかというとただただアリスの暴走だった。
 男の人から、もっと言えばちょっと気になってる男の人からプレゼントを貰ったのだ。嬉しくないはずがない。……ここまでは良い、ここからアリスの思考は停止しており本能で動いている。アリスは事あるごとに恋愛脳を働かせ妄想していることが度々あった。先程のプレゼントが嬉しすぎて現実と妄想の境界が曖昧になってしまったのだ。
 その結果、今のアリスが出来上がっている。ただ、そうなってしまった原因は別にあった。そうとは知らないアリスの暴走は続く。

「エイシェルが後ろ向いてくれたらその間に着替えるよ?」 

「い、いや、だっておれが後ろを向かないかもしれないだろ?前にも言ったけど無防備過ぎないか!?」

 エイシェルにそう言われてアリスは口を尖らせる。まるで叱られた子供が全く反省していないような様子で。そんなアリスはさらに悪戯してやろうと考えているような顔で言った。

「……別に、みんなに対して無防備なわけじゃないもん」

「え?」

「エイシェルが後ろ向きたくないんならそれでも良いよ?」

「それって……どういう……?」

 アリスの小悪魔的誘惑にエイシェルが完敗しそうな瞬間。不思議な事が起きた。

『ぬぅわああああああ!!さっきからイチャイチャするんじゃないわよ!!』

「ええ?!」

「だ、だれだ!?」

 何処からともなくいきなり声が聞こえたのだ。その声の主を探しても見つからない。しかし良く声の聞こえる向きを探ると机の上に置かれた箱に辿り着いた。そう、声の発信源は転魂箱であった。
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