おれの、わたしの、痛みを知れ!

えいりす

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第四章 王都防衛戦

136.王都防衛戦3

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「アイスアロー!」

「ウォーターカッター!」

 エイシェルとフルームが魔法を唱える。ふたりそれぞれの手に氷の矢と水の輪が現れる。エイシェルはそれを弓で構えて放つ。それをみたフルームも水の輪を思いっきり投げ放った。
 すると、まだかなり距離があるにもかかわらずそれぞれの攻撃が魔物に当たるのが確認できる。攻撃を当てたふたりは小さく喜びどんどん攻撃をするのだった。

「あの距離でよく当たるわね……流石にあの距離だと私の剣はまだ届かないもの」

「わたしも、さっきのやつ以外って言われると当てられる自信がないわ……フルーム、竜玉の中身減ったら言ってね。補充するから」

「あ、それなら私の分を渡すわ。補充も時間かかるでしょ?」

 攻撃に参加できないフラムとアリスはサポートに徹するようだ。

 アリスのおかげで無尽蔵に魔法を使えるエイシェルとフルームは好き放題魔法を使っている。2人とも最初はひとつずつ魔法を使っていたがすぐにフルームが両手でふたつ魔法を使い、今は魔物を倒せるギリギリまでひとつ一つの威力を抑えて指10本分の魔法を使っている。エイシェルもフルームにコツを聞き矢を同時に5本生み出すことに成功していた。さらにはその5本の矢を束ねて弓で放ち、5体の魔物に当てるという摩訶不思議な芸当までやってのける。
 途中で魔王が『ほんと、なんなの……指一本で魔法ひとつ使うとか有り得ないでしょ……あっちはもうよくわからないし……あの弓もどうなってるのよ……』などと愚痴を言っていた。はたからみると魔王が言っているのかアリスが言っているのか分からなかったがアリスも同じ感想の為どちらでも変わらない。
 そんな調子でバンバン魔物を減らしていくエイシェルとフルーム。正直ふたりだけでかたがつきそうだったが徐々に押され始めていた。そして、魔物の先頭がかつての森の入り口付近に差し掛かったところでフラムが動き出す。

「ここまで近づいてきたら私の出番ね。アリス?補充中の竜玉貸して?」

「まだ半分くらいだけどいい?」

「問題ないわ」

 フラムはアリスから竜玉を受け取る。アリスが言うにはまだ竜玉の半分しか魔力が溜まってないとの事だったが、そもそもアリスが竜玉の容量を増やしていたこともあり半分でも十分すぎる量の魔力が込められている。そして、フラムが使うのは"一回"で済む為少しだけでも問題はなかった。

「エイシェル!フルーム!先頭の方は私がやるから遠いところにいるやつをお願い!」

「分かった。近くのは頼んだぞ」

「お姉ちゃんふぁいとー」

 フラムが声をかけるとそれぞれ反応を返してくる。エイシェルとフルームが標的を変えると魔物の進行スピードが一気に速くなった。
 それをみたフラムはひとり前へと歩き出し青白い剣を構える。そして次の瞬間フラムが横一閃に剣で薙ぎ払った。

「いっけええええええ!」

 フラムが声をあげると手元の剣が地面に対して水平に一気に伸びていく。そして気づいた頃には近付いていた魔物の体が上下に分断されていた。一回の攻撃にも関わらず巻き込んだ魔物は1000体は下らないだろう。それだけフラムの攻撃範囲がデタラメという事だ。
 一気に魔物の前線を下げたフラム。その下がった前線を目がけてエイシェルとフルームが攻撃をする。見事な連携で魔物の進行を抑えることが出来ていた。
 すると、魔物の勢いも弱くなりいつの間にかエイシェルとフルームで押し返せるほどになっていた。そして気が付けば最後の一体を倒していた。

「ふぅ……本当に抑えきれたな。もう腕が限界だ」

「お疲れ様。3人ともすごかったわよ」

「最初のアリスには敵わないわ。私なんて一振りしか活躍出来てないし」

「私なんて剣を抜いてすらいないよ。私の本業、剣士だと思うんだけど」

「魔法しか使ってなかったわね。でも一番活躍してたんじゃない?」

『……フルームは魔法使いとして活動した方がいいんじゃないかしら』

 4人と1箱が戦闘を終えた余韻に浸っていると後ろから呼びかける声が聞こえる。戦闘を終えた4人の様子を見ていたアイトネが様子を見にきたのだ。

「すみません。最初の爆発で何事かと思い途中から見させてもらいました。みなさんとんでもないですね……。特にフラムさん。たしかにあれは周りに人がいたら巻き込んでしまう。人払いしたのも納得です」

 やはり最初の爆発後にアイトネも不安になったようだ。万が一最前線で何かあればアイトネ達が相手をしなくてはならない。数によっては即撤退し橋を落とす決断をしなければならなくなる。判断が遅くなると街に被害が出るかもしれない。そんな状況であった為アイトネが確認するために4人の元へ近寄るのは当然だった。
 実際に4人が見えるところまで来てみると前方にあったはずの森が無くなり焦土と化していた。
 アイトネが驚いたのは言うまでもないが、それだけではなく4人のうちエイシェルとフルームのふたりだけで戦っていた事にも驚いていた。さらにはふたりとも魔法を使っているのだ。ひとりは矢を生成する程度であったが放った矢が信じられないほど遠くまで届くし、もうひとりも剣士だったはずなのに魔法で十分に戦えている。いや、もはや魔法使いと言われても納得するレベルに戦えていた。
 それでも押されていたのは魔物の数が多すぎるからであろう。尋常じゃないペースで魔物を倒しているのにも関わらず魔物は少しずつ近付いてきていた。そんな時に動き出したのがフラムである。
 フラムはずっと見ているだけだったのに魔物が近づいたと分かるとゆっくりと前に歩き出し構えていた剣を横に一閃振り切った。すると青白い炎が剣から瞬時に伸びていき迫っていた魔物を薙ぎ払ったのである。
 アイトネはその様子を見て珍しく興奮してしまった。一騎当千とはこの事であろう。たった一振りで戦況が大きく変わってしまうのだ。
 その後エイシェルとフルームの攻撃で全ての魔物を倒してしまった。アイトネはその光景を見ることしかできなかった。いや、見入ってしまったのだ。これがAランクかと思い実力の差を感じてしまう。しかし、不思議と悔しい思いはなくただただ賞賛する思いが込み上げてきた。
 ここまでくると当然残りのひとりにも考えが及ぶ。そう、アイトネが見てから最後まで攻撃に参加していない人物がいたからだ。なぜ攻撃をしなかったのか?その答えは既に分かっていた。分かってはいたが信じられないというのが本音である。その為つい確認してしまった。

「ちなみに、最初の爆発はアリスさんですか?……いえ、聞くだけ野暮ですね。」

 アイトネはつい確認してしまったが思い直して言葉を続ける。これを引き起こしたのがアリスでなければ誰なのか?きっとギリギリまで生命力を使って魔法を行使したのだろう。そうなると今は立っているだけでも辛いはずである。そんな状態の人に答えさせるのは酷である。アイトネはそう考えていた。
 実際にはエイシェルが魔法をバンバン使っていたことからもわかるようにアリスは終始生命力を回復させていた為何も問題が無かった。ただ、単純に攻撃役としての出番が無かっただけだったのはアイトネには想像も出来ないのだった。

「……それにしても本当に森が無くなるとは……昨日聞いた時は半信半疑でしたがなるほど納得です」

 そして爆発の結果を目の当たりにする。実は4人が魔王から提案を受けた後、すぐにアイトネに相談しに行っていた。道中になにか障害物があるのか?それは何か?壊してもいいのか?など詳細を確認していたのだ。
 北の町への途中、大きな橋を渡った後にちょっとした森がある。その森を通過しないと北の町に行けないのだが時たま通行人が魔物に襲われる被害があったそうだ。その為ギルドは魔物の討伐依頼を幾度となく受けていたのだが魔物を討伐しても被害は無くならなかった。いっそ魔物が住めないように森の木を全部切り倒そうかと考えたが木が多すぎる為実現できなかったのだ。
 アイトネとしても願ったり叶ったりであった為にできるならやってくれと森の前で迎え撃つことを承認したのだった。結果、そうぞうを遥かに超える大成功であった。

 その後アイトネが今後の流れを説明する。エイシェル達4人は討伐作戦終了とともに解散となるが他の冒険者はそうはいかないらしい。
 まず、魔物がどれだけ発生していたのかを確認するために魔物の死体を数えるのだとか。可能であれば魔物の素材も剥ぎ取り有効活用するらしい。その素材はギルドが一括で買い取る事になっており、今回の報酬に一部上乗せされるとのこと。普段素材を持ち込んで稼いでいる冒険者たちにとって確実に買い取ってもらえる今回の依頼はとても旨味のあるものであった。しかし、一万の魔物という話がありリスクが高いと判断した冒険者は逃げてしまっていたため恩恵は得られない。もはや勇気を出して王都を守ろうとした冒険者が得られる特権なようなものになっていた。
 他の冒険者の仕事は他にもあり、北の町の救助部隊を編成し生存者を探しに行くとのこと。望みが薄くともこのまま放置するわけにはいかないだろう。

 アイトネから「お疲れ様でした」と労いの言葉をかけられた4人は残りの作業を他の冒険者達に任せて一足先に王都へ帰るのだった。
 帰り道にまたアリスの体力が尽き休み休み帰ったのはご愛嬌である。



 そんな中他の冒険者が魔物の解体作業をしていた。

「この数の魔物を討伐できるなんて……Aランク冒険者ってもう人を辞めてないか?」

「すごく同意だけど口じゃなくて手を動かす!まだまだ沢山あるんだから」

「へいへい……後始末だけやらされるのも大変だわな……ん?なんだこれ」

「こら、遊んでないで早く」

「いや、魔物の中からこんなものが出てきたんだ。不思議な模様があるけど、綺麗な石だな。……宝石ってやつか?」

「……あんたそれどうするつもり?」

「……こんな獣の魔物からこんなものが出てくるなんて誰も思わないだろう。貰っちゃおうぜ」

「はぁ……怒られても知らないからね」

 そんなやりとりをして不思議な模様の宝石を懐にしまう解体作業中の冒険者。それが新たな問題を引き起こす事になるなんて夢にも思わないのだった。
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