オメガの香り

みこと

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「樹里、これで荷物は全部か?」

「うん。」

「ほら、樹貴。お父さんと手を繋ごう。」

「やだ~、お母さんが良い!」

「樹貴~。」

僕と樹貴は慎一郎のマンションに引っ越すことになった。保育園が変わらないように今まで住んでいたアパート同じ地区にマンションを借りてくれた。
荷物を全て運び出し、空っぽになった僕と樹貴の二人の城に鍵をかけた。

「不動産屋さんに鍵を返してくる。」

「俺も一緒に行くよ。」

慎一郎が車で近くの不動産屋まで送ってくれる。
後部座席にはジュニアシートが取り付けてあって、樹貴が大人しく座っていた。

慎一郎がどうしてもと言うので定食屋のバイトは辞めた。身体が心配だと言って泣かれてしまった。
スーパーはしばらく続けるつもりだ。社長や専務がすごく良い人で働きやすいようなシフトに変えてくれた。
社長の息子さんがオメガなので、オメガに対してすごく良くしてくれる。
事務所で何度か見かけた社長の息子さんはびっくりするくらい可愛い男のオメガだ。少しぼーっとしているが事務員として働いていて、みんなに可愛がられている。特に彼のお姉さんでもある専務が猫可愛がりしていた。
だからオメガに対して偏見もなく僕にもすごく優しくしてくれる。
午後の荷下ろしも本当はそんな時間帯のシフトはなかったのに、僕のためにわざわざその時間帯にしてくれていた。
出来ることなら辞めたくなかったけど樹貴の父親と暮らす事になったと言ったら、午前中のシフトに変更してくれた。九時から十三時までのシフトだ。

「あのビルの一階が不動産屋か?」

「あ、うん。ちょっと待ってて。行ってくる。」

車を横付けにしてくれたので、鍵を返してお礼を言ってすぐに戻った。




再開してから慎一郎の結婚してくれ攻撃はすごかった。
少し考えさせてと言ったのに勝手にアパートに転がり込んで来た。
樹貴にも『お父さんだ』と自己紹介したうえに、保育園の先生にも『父です』と勝手に挨拶していた。
それこそ毎日毎日結婚してくれ、愛してる、と言い続けた。
挙句、樹貴が寝た後は抱きついてきて自分の匂いを嗅がせてくる。

「ほら、どうだ。運命の番いの匂いだぞ。」

体を擦り寄せてこすり付けてくる。

「わ、分かったから。」

「あー、樹里は本当に良い匂いだな。堪らない。」

「擽ったいよ。」

「樹里、愛してる。俺の可愛い番い。」

こうなったアルファには何を言っても無駄だ。
アルファの執着はすごい。
シェルターに一時的に避難して来たオメガの子が言ってた。
そのオメガの恋人のアルファは一日中くっついてセックスしたがるらしい。何度言ってもやめてくれないので心身ともに疲れたと言ってシェルターに逃げてきた。二週間くらいそこで休んでまた戻っていった。
彼はどうしているんだろうか。アルファは懲りて反省したんだろうか。

「樹里、聞いてるか?」

「え?うん。聞いてるよ。」

「愛してる。結婚してくれるか?」

慎一郎の首に顔を埋めて匂いを嗅いだ。
僕の好きな匂いだ。森林のような癒される匂い。
胸いっぱいに吸い込む。

「分かったよ。」

「え?本当か?良いのか?」

「だってダメって選択肢はないんだろ?」

「樹里~、樹里~愛してる。樹里~。」

「そんな大きな声出さないでよ。樹貴が起きちゃう。」

「あ、そうか。ごめん。嬉しくて。明日、婚姻届持ってくるからな。」

「え?明日なの?」

「そうだ。善は急げだ。」

そう言って慎一郎はさらに強く抱きしめて身体を擦り付けてきた。

「じゃあ、良いか?」

「何を?」

「俺と樹里の心は繋がったんだ。だから身体も…。」

「ちょっと、ちょっと待って。」

「何でだ?恥ずかしいのか?」

「いや、それもあるけど、そういえば慎一郎の婚約者はどうなったの?」

「梨生か?断ったよ。かなりの慰謝料を請求された。」

「え?本当?どうしよう…。」

「おまえのせいじゃない。どっちみち無理だったんだ。俺は樹里以外の匂いを受け付けない身体になったんだ。」

「は?何それ。」

「おまえの匂い以外は吐き気がする。吐いたこともある。この匂い以外無理だ。だから俺は樹里以外、誰ともできない身体だ。」

そう言いながら器用にパジャマを脱がせてくる。

「待ってよ。」

「何だ。まだ何かあるのか?嫌なのか?」

「そうじゃないけど、僕、オメガだけど男だよ?発情期じゃないし。その…できるの?」

慎一郎はニヤリと笑って僕の手を取り股間を触らせた。
そこはすごいことになっていて…。

「おまえのことを考えるだけでこうだ。はぁ、ずっと樹里を抱きたかった。めちゃくちゃにしてしまうかもしれない。」

「えっ、怖い、やだ。」

口ではあんなことを言ってだけど、慎一郎は丁寧で優しくて僕はドロドロに溶けてしまった。しかも明け方まで終わらなくて…。
明日休みで良かったよ。
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