善夜家のオメガ

みこと

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「佑月、ごめん…。大丈夫か?」

「…うん。平気…。」

そう言いながらも佑月はうとうとと船を漕ぎ出す。
持っていたスプーンを落としそうになりハッと目を開けた。

「佑月…。」

日増しに濃くなるフェロモンと魅力に涼が我慢できず、毎晩遅くまでかわいがってしまう。昨日は特に濃厚にかわいがった。身体中を舐め回し何度も佑月の精液を吸い出した。
お陰で佑月はここ最近寝不足だ。今日はいつもより眠そうで朝ごはんを食べながらうとうとしている。
最近は涼も家事を少しづつ覚え、今朝は朝食を作った。佑月が作るものには到底敵わないが、ベーコンエッグとトースト、インスタントのスープを用意し、佑月に食べさせる。
それが終わると佑月を着替えさせ、洗濯機を回しておく。
最初の頃に比べたらとてつもなく進歩している。
『子どもが出来たら佑月ばっかりにさせられないからな。』
と言うと、佑月は恥ずかしそうに笑う。その笑顔を見ると俄然やる気が出るのだ。

「だいじょぶ…。ちょっと眠いだけ。」

「うん。今日はゆっくり寝よう。」

涼は出来るか出来ないのか分からない約束をして二人で家を出た。






「何かあったらすぐに連絡するんだぞ?」

「うん。」

工学部に佑月を送り届け、佑月の友達の佐川に佑月を託した。佐川はオメガなので問題ない。
後ろ髪を引かれる思いで自分の教室に行くと浩昭がニヤニヤしながら近づいてくる。

「毎朝お熱いこって。羨ましいよ。」

「おまえには関係ない。」

「まぁな。でもあんなべったりくっついて幸せそうな顔して…。」

「幸せなんだから仕方ないだろ。」

二人で教室に入り空いている席に座る。
前の方に麗華が座っているのが見えた。
あの後も何度か佑月に絡んできたのでその都度涼が佑月を守った。あまりにもしつこいので正式に天沢から麗華の実家に苦情を入れようと準備していると、麗華の嫌がらせはパタリと止んだ。
稔が言うには麗華に運命が現れたそうだ。そのオメガとべったりくっついて歩いていのを見たと言っていた。
ゲンキンなやつだ、と思ったが静かになったので放って置いている。
しばらくして稔も教室に入ってきて授業が始まった。

右隣の稔は早々に寝ているし左の浩昭はこっそりスマホをいじっている。年配ののんびりした教授ののんびりとした授業だ。
涼もうとうとしてきた。佑月が寝不足ということは涼も寝不足だ。ただ体力が違うので佑月の方がキツそうだ。
今日はいつもよりさらに眠そうだった。今日こそ寝かせてやろう。そう思っているとポケットのスマホが震えた。
そーっとスマホを取り出しメッセージを開く。

「え?」

涼は思わず声を出してしまった。

「どうした?」

隣の浩昭が小さい声で涼に声をかけるがそれに答えることなく立ち上がった。
皆が一斉に涼を見る。
涼はその視線も気にせず教室を飛び出した。
全力で走り工学部棟へ入ると感じる。いや入る前から感じていた。
佑月のフェロモンだ。
佑月に発情期が来たのだ。
メールの主は佑月の友達の佐川瑠衣で佑月がヒートを起こしたと書いてあった。
そのフェロモンたるやものすごくてアルファがみんな寄ってきてしまい、セーフティルームに辿り着けないとSOSを送ってきた。
善夜のオメガは発情期が遅い。二十歳過ぎが多いと聞く。佑月はまだ二十歳になっていない。
おそらく涼に毎日かわいがられ、大事にされているから早く来てしまったのだろう。
涼は必死で走り、フェロモンが流れてくる方へ急ぐ。途中、アルファが何人そちらへ向かおうとしていたが凪倒しながらフェロモンの主、佑月の元へ向かった。

「佑月!!!」

男子トイレの入り口にアルファが群がっていた。その中にはベータもいる。
皆抑制剤を飲んでいるはずだが、佑月のフェロモンの前では効果がないようだ。
もちろん涼も飲んでいる。
これは自分を守るためでもある。オメガ保護法で義務付けられているのだ。意図せず番いにならないよう、アルファは月一で支給される抑制剤を飲んでいる。
それでも皆の理性が吹っ飛ぶくらいのフェロモン。
善夜直系長男のフェロモンの威力だ。

「佑月!佑月っ!」

群がるアルファやベータたちを掻き分けようとするが、皆我先にと佑月の所へ向かおうとしていた。

「くそっ!とげっ!」

俺の佑月だ。
俺のオメガだ。
フェロモンを嗅がれることさえ腹立たしい。
涼は渾身の怒りのフェロモンを放った。
そのフェロモンに皆が怯む。その隙にトイレの奥に走る。
途中、何人かのアルファを殴り飛ばした。五つ目の個室から強烈なフェロモンを感じる。その扉をよじ登ろうとするアルファも引きずり落とした。

佑月がいる。泣いているようだ。
涼は扉を思い切り叩く。

「佑月!俺だ!」

「り、涼君…うっ、うぅ、涼君…」

佑月が泣いていた。泣いて涼を呼んでいる。佑月も初めての発情期に戸惑い怖がっている。
涼は深呼吸しもう一度扉の中に向かって優しく声をかけた。

「佑月、俺だよ。開けて?もう大丈夫だから。」

「涼君…。」

しばらくしてカチャリと音が聴こえ扉が開く。ぶわりと流れるフェロモンにぐらっと眩暈がした。
しかし頭を振り何とか理性を保つ。

「佑月…。」

「涼君。」

涼は佑月の腕を掴み抱き寄せる。
堪らない…、かわいい…。
理性が飛びそうな良い匂いだ。
その匂いにアルファたちが立ち上がりがまた佑月に近づこうとする。
涼はもう一度威嚇のフェロモンを放った。

「俺のオメガだ。」

そう言って佑月を抱き上げ、固まるアルファたちの間を悠々と歩きその場をあとにした。
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