善夜家のオメガ

みこと

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奈緒

23 最終話

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「あんなに怒らなくても…。みんな冗談で言ってるんだよ。」

「ん?だって仕方ないだろ。奈緒は俺のものだ。そのフェロモンも髪の毛一本だって他のやつに触られたくない。」

「そんな大げさな…。」

「大げさなもんか。俺たちは間違いなく運命だ。冗談でも俺の奈緒にちょっかい出すなんて…。」

雪也の実家をあとにして二人で近所のスーパーに買い物に寄った。
本当はみんなで食事をする予定だったが、この通り雪也が自分の家族全員に嫉妬して結局帰ることにしたのだ。
善夜のオメガである奈緒は雪也に愛され開花し、その美しさと色気に雪也の家族たちはメロメロだっだ。皆、雪也を放って奈緒にぐいぐい話しかける。
そして少し遅れて長男の龍也と番いの蓮、その子どもで三歳になったばかりの虎太郎もやって来た。
その虎太郎の興奮が誰よりもすごかった。奈緒をうっとり見つめたあとくっついて離れなくなってしまった。
雪也は三歳の甥っ子相手に本気で不機嫌になり奈緒を連れて帰ることにしてしまったのだ。

「全く雪也は…。」

恋人になった途端、独占欲丸出しの雪也に奈緒はむず痒いようや気持ちだ。
肝心の雪也はさも当たり前だと言わんばかりの態度。それに人目なんて全く気にしない。

「奈緒、どっちのジャムが良い?」

べったりとくっついて奈緒に買う物のお伺いを立てる。

「んー、こっちかな。この間、雪也が作ってくれたスコーン、すごく美味しかった。このジャムをつけて食べたいな。」

「そうか?じゃあ明日作るよ。」

「ふふ。やったぁ!」

奈緒が喜ぶとふわりとフェロモンが広がる。周りの客が皆チラチラと奈緒を見ている。
雪也は必死で威嚇し、奈緒を隠すように抱きしめた。

「やだ、雪也。外じゃダメって…。」

「奈緒。おまえは少し自覚した方が良い。俺は心配でおまえから離れられない。俺をこうさせるのも奈緒のせいだからな。」

「えぇ?」

奈緒を甘く責めながら耳やうなじに噛み付く。そして硬くなった下半身をぐりぐり押し付けてくる。

「や、ちょっと…」

「はぁはぁ…奈緒…。俺の奈緒…。」

「もう、本当に雪也は…。」

家の外でも中でも終始こんな状態だ。
この間は奈緒の職場に現れスタッフ全員に婚約の報告と挨拶して回っていた。
挨拶とは建前で本当は牽制だ。
笑顔で挨拶をするが、そのオーラは俺のオメガに手を出すなよ、と訴えていた。
そんな雪也を奈緒は半ば諦めて好きなようにさせている。
この十年、雪也がどういう風に過ごしてきたかを哲郎に聞いた。奈緒を想い、焦がれて狂ってしまったことも。
なので何も言わずにいるのだ。
それにやや暴走気味だが、何よりも奈緒のことを考え大事にしてくれる。
それに奈緒も幸せなのだ。
だからといってこんな場所で盛ってもらっては困る。
奈緒の匂いで興奮している雪也を引きずるように家に連れて帰った。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「で?いつ結婚すんの?」

久しぶりに哲郎と三人で食事だ。雪也がなかなか首を縦に振らなかったのでやっと実現した食事会だ。

「来月の七日だ。調べたらすごく良い日だって。な、奈緒。」

「うん。」

「そうか。良かったな。それよりも俺はもう一生奈緒に会えないのかと思ってたよ。何で奈緒に会うのにおまえの許可が必要なんだ?一緒に飯を食うのに一か月も待たせやがって…。」

恨みのこもった目で雪也を見る。そんな哲郎を雪也は鼻で笑った。

「当たり前だろ。おまえ、この間奈緒に何をした?覚えてないとは言わせないからな。」

「またそれか。あれは友情のハグだよ。記憶が戻って良かったなって。」

「俺の奈緒に抱きつくなんて…。こうやって俺同伴で会えることだけでも感謝して欲しいくらいだ。」

「あのなぁ…。もういい。奈緒、大丈夫か?ちゃんと人間らしい生活を送れてるか?こいつはおまえのこととなると頭がおかしくなるからな。」

哲郎が奈緒の方に向き直り真剣な顔をする。
奈緒はそれに苦笑いで頷いた。

「うるさい。当たり前だろ?俺は奈緒が最優先だ。奈緒が嫌がることは絶対にしない。ほら、その証拠に今だってこんな良い匂いのフェロモンを振り撒いて…はあ、堪らない。奈緒、人前でそれはダメだ。全く、奈緒はかわいくていやらしくて…はぁ、奈緒…。」

奈緒のうなじに鼻を擦り付けて匂いを嗅ぎ恍惚としている。

「雪也、外だから…。哲郎も見てるし。」

「ん?そうだな。早く帰ろう。またたっぷり愛し合おうな?」

蕩けるような笑顔で奈緒の頬を撫でる。

「雪也、おまえは本当に…。」

呆れた顔の哲郎だが、これはこれで良いと思っている。
毎日暗い表情で亡霊のように生きていた雪也に比べたらこっちのイカれ具合の方が断然良い。

「まあ、いいさ。結婚式には呼べよ。」

奈緒に夢中で哲郎の声は耳に入っていないであろう雪也にとりあえず声をかけた。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「よろしくお願いします。」

二人で区役所に行き婚姻届を提出した。無事に受理されて二人は夫婦になった。

「奈緒、これからもよろしくな。」

「うん。こちらこそ。」

仲良く手を繋いで帰る。
再開してからわずか四か月で入籍まで突っ走ってしまった。
しかし何の不安も心配もない。雪也は毎日たっぷり愛情を注いでくれるからだ。
奈緒の母親に会いに行こうとしたが、リュカが流行りの感染症に罹り自宅療養中となってしまった。幸いにも症状はほとんどないが、外出、面会禁止だ。
結婚したい旨をテレビ電話で報告すると母はリュカとともに泣いて喜んでくれた。いろいろ落ち着いたらあらためて顔を見せに行こうと雪也と決めた。

「奈緒、新婚旅行はどこに行きたい?」

「うーん。海が綺麗なところが良いな。」

「そうか。モルディブとかフィジーはどうだ?」

「うん。良いね。」

嬉しそうな奈緒からふわりとフェロモンが広がる。それは日に日に濃くなっている。おそらくもうそろそろ発情期が来るのだろう。
奈緒は自分の変化に気付いていないが、雪也には分かった。
善夜オメガの秘密を聞いた雪也は奈緒の初めての発情期がそろそろ来ると確信している。そして『その時』を今か今かと待っている。
たっぷり愛して大事にしよう。『その時』が来たら番うのだ。
楽しみで仕方ない。
ほんの数ヶ月前までの雪也は、自分の人生は終わったと思っていた。
でも今は毎日が幸せだ。すぐ隣に愛おしい運命がいる。

「奈緒、愛してる。」

「ふふ。うん。僕も…。」

雪也は照れて顔を赤くする奈緒を抱き寄せて何度もキスをした。



~fin~

お読みいただきありがとうございました。
次のオメガ~!の前に三組のカップルの番外編をどうぞ。


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