善夜家のオメガ

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奈緒

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「奈緒、そんなに緊張しなくてもいいから。」

「え?あ、うん。」

助手席でガチガチに緊張する奈緒の手を雪也がそっと握る。奈緒が仕事復帰をしてから二か月。それは怒涛の日々だった。
雪也はすぐに良いマンションを見つけてきて、諸々の契約や、家具、家電を揃えてあっという間に同棲が始まった。
R大の最寄駅から徒歩十分の好立地で、築浅のその物件はオートロックと敷地内に駐車場を完備し、雪也の条件を全て備えた物件だ。
そして恋人になった雪也は奈緒に対して激甘で奈緒が恥ずかしくなるほどだった。
今日は雪也の実家に挨拶に行く。雪也の実家は皆、運命と結ばれているのでオメガに対してとても好意的だ。
それでも奈緒はすごく緊張していた。
都心の高級住宅地にある雪也の実家は家というより邸宅だ。高い壁にぐるりと囲まれ、電動ガレージのシャッターが上がると数台の高級車が並んでいる。
空いている一番端に車を停めると玄関へと続く通路を歩いた。

「相変わらずすごい家だね。」

「はは。三年前に大幅に改築したんだ。覚えているか?昔と少し変わってるだろ?」

「うん。」

忘れるわけがない。何度か雪也の部屋で抱き合ったこともある。
『奈緒に運命が現れたら教えろよ?』
抱き合ったあと必ず言われた言葉。それに傷付き、でも悟られないように笑顔で頷いた自分。

「奈緒…。」

奈緒の様子に気付いた雪也が奈緒を優しく抱き寄せる。

「あのときは本当にすまなかった。辛いなら今日は…。」

苦しそうな雪也の口を手で塞いで奈緒は首を振った。

「大丈夫。今が幸せだから平気。」

奈緒が微笑むと雪也はほっとしたように頷く。そして今度はキツく抱きしめた。

「奈緒、愛してる。俺の運命はおまえだけだ。」

「うん…。」

見つめ合って自然と唇を寄せキスをする。奈緒から優しく甘いフェロモンが溢れる。
奈緒が嬉しくて幸せな証拠だ。
それを雪也は思う存分吸い込み、深いキスを仕掛ける。
奈緒の唇も唾液も甘く痺れるようだ。
意識が朦朧としながら身体を弄り始めると、雪也のスマホが鳴った。それを無視して奈緒にキスをしているが、しつこく鳴り止まない。
邪魔されてイラつきながら電話をとった。

「…はい。」

「ちょっと!庭先で何やってるのよ!全く、あなたって人は…。奈緒さんを早く連れてきなさいよ。みんな楽しみに待ってるのに!」

雪也の母だ。防犯カメラか何かで二人の様子を伺っていたのだろう。雪也が興奮して暴走しそうになるの止めるために慌てて電話してきたのだ。
我に返った奈緒も真っ赤になる。いくら広いとはいえ挨拶に来た庭先でいちゃついてしまったのだ。

「はぁ…。分かったよ。」

不機嫌な顔で通話を切ると、ころりと表情を変えて奈緒に向き直る。

「ごめんな。続きは帰ってからしような。」

すっかり萎縮してしまった奈緒を抱き寄せ腰に手を回しながら歩く。
両扉の玄関を開けると雪也の母が立っていた。

「遅いっ!全く、あなたは…。」

「うるさいな。邪魔するなよ。」

「あ、あの…」

険悪な空気になりそうなので奈緒がおずおずと声を掛けた。

「あ!あら、ごめんなさい。奈緒さんね?待ってたのよ~。大丈夫?寒かったでしょ?今日は真冬並みの寒さに戻ったのに、この子ったら…。ほら、上がって!」

「あ、はい。お邪魔します。藤代奈緒です。」

持っていたお土産を差し出して頭を下げる。

「わざわざありがとう。そんなに緊張しないで。自分の家だと思ってリラックスしてね。」

雪也の母自らスリッパを出し、雪也から奪うように奈緒の背中に手を回した。
奈緒はもう一度頭を下げて家に上がる。
そのままリビングに案内しようとすると。雪也が奈緒の腕を引いて自分の胸に抱き寄せた。

「え?ちょっと、雪也。何よ?」

驚いた母が雪也を見ると怖い顔で睨みつけてくる。

「俺の奈緒だ。勝手に触るな。」

「雪也…、ちょっと。」

困惑した奈緒が顔を上げるとこれまた怖い顔で奈緒を睨んでいた。

「奈緒も奈緒だ。他のやつに触らせるなんて…。」

唖然とする二人に構わず奈緒を抱きしめ頭や顔にキスをし出した。

「あははは。嫉妬は見苦しいぞ、雪也。」

三人が廊下で一悶着やっているとリビングから笑いながら近づいて来る男がいる。
雪也に良く似た男だ。雪也の父親だろう。

「奈緒さんだね?父の孝徳です。息子が世話になってます。」

深々と頭を下げる。奈緒は驚いて雪也から離れた。

「藤代奈緒です。世話だなんてとんでもない。こちらの方が迷惑かけっぱなしで。」

「迷惑だなんて微塵にも思ってない。むしろ俺の方が奈緒の負担になっていないか?」

「え?そんなこと…。」

「俺は体力は有り余ってるが、奈緒はそうじゃないだろ?でも我慢できなくて…。」

雪也の指先がするりと奈緒の顎を撫でる。そして意味深な目で奈緒を見た。

「え、いや、そんな…、」

察した奈緒がドギマギしていると父の孝徳がまた大笑いし、皆をリビングへ促した。
片側一面に大きな窓のあるリビングは明るくて暖かい。
その真ん中の淡いベージュのソファーに一組のカップルが座っていた。
雪也や孝徳に良く似た男とスラリと背が高くキリッとした風貌の男だ。
リビングに入ってきた奈緒たちを見ると立ち上がり笑顔を見せた。

「次男の鷹也です。」

「こんにちは。鷹也の番いの穂積です。」

「藤代奈緒です。よろしくお願いします。」

ぺこりと頭を下げて二人を見る。奈緒の顔を見た鷹也が一瞬驚いた顔をした。

「君は…。そうか、いや、何でもない。えっと、藤代奈緒さんだったね?雪也をよろしく頼むよ。」

鷹也は目を潤ませて奈緒を見る。奈緒が不思議に思っていると家政婦とともにお茶を運んできた雪也の母が皆を座らせた。




「へぇ、運命の研究を…。鷹也、僕たちもやってもらう?」

穂積は奈緒の研究に興味津々だ。奈緒の右隣を陣取りいろいろと質問している。

「穂積、そんなぐいぐい聞くなよ。奈緒さんに失礼だろ?」

呆れた声で鷹也が穂積を宥める。

「だって~。」

「いえ、良いんですよ。もし協力していただけるならこちらとしてもありがたいです。」

にっこり微笑んで穂積を見ると、彼はぐっと喉を鳴らして顔を赤くした。

「奈緒さんって…。はぁ、雪也君がメロメロなのも納得。オメガの僕まで骨抜きにされそうだ。」

「「おいっ!」」

穂積の言葉に鷹也が立ち上がり、奈緒の左隣に座っていた雪也が奈緒を抱き寄せ自分の腕の中にすっぽりと隠した。

「え、ちょっと、冗談だよ。全くこれだからアルファは…。まぁ、少し本当だけどね。」

戯ける穂積に雪也と鷹也が渋い顔をした。
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