100%のオメガ

みこと

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ふわふわとした気持ちで学園を出ると、外で両親が待っていた。

「潤!どうだった?」

「オメガは来たの?」

「…へ?」

心配そうな和成と智恵美は潤に詰め寄るように聞いてくる。しかし潤は心ここに在らずといった様子だ。

「来たのか?潤!」

「楓?来たよ。来てくれた。」

潤の言葉に二人は大きく息を吐いた。智恵美は潤に抱きついて泣き出す。

「良かった!そうよ。だって潤は100%なんだから。潤のオメガよ。」

「そうだ。母さんの言う通りだ。はぁ、でも良かった。良かったな、潤!」

「え?あ、うん。」

テンションの高い両親とは反対に潤はずっとぼーっとしている。顔も締まりがない。

「潤、どうしたんだ?何があったんだ?」

「…何もないよ。」

「何もないって。オメガに会ったんだろ?」

「うん。楓、来てくれた。写真よりもずっと可愛いくて、良い匂いで…可愛い。すごく可愛い。あの子が俺のオメガ…。あんな可愛い子がこの世にいるんだな。」

両親が目を丸くして顔を見合わせた。
どうやら幸せでぼーっとしているようだ。
そんな潤の様子に二人とも声をあげて笑った。



楓が自室に戻るとタイミング良く潤からメッセージが届いた。
『今日はありがとう。すごく嬉しかった。これからもよろしくお願いします。』
真面目そうなメッセージだ。楓もすぐに返信した。
『こちらこそよろしくお願いします。』
『今日の夜電話しても良い?』
『はい。』
良かった。
迷ったけど自分の気持ち信じて本当に良かった。
以前送られてきた潤の写真から少し怖そうなアルファを想像していたけど、実際は穏やかで優しそうな男だった。
見た目は筋骨隆々としていて所謂マッチョというやつだ。本人が作ってきた釣り書きには188cm78kgと書いてあり、趣味は格闘技でムエタイで優勝したこともある。
黒い髪に大きな強い目、でも笑うと少し垂れて優しげな顔になる。やはりアルファらしく男前だ。
そしてずっと良い匂いがする。見た目の男らしさと違い、ジャスミンのような爽やかな匂い。
楓が潤の名前を呼んだ瞬間だけ甘さが加わりなんとも官能的な匂いに変化した。
幸せな気持ちでぼんやりしていると部屋をノックする音が聞こえた。
律だ。
律が心配そうに部屋に入ってくる。

「どうだった?」

「え、あ、うん。大丈夫だった。」

「そっかー。良かった。すごく心配したよ。」

「ありがと。」

本当にほっとしたように微笑む律の顔を見ると胸が痛んだ。
潤はずっと楓を思っていてくれた。手違いでこんなことになってしまったが、100%のアルファと会うことが出来たのだ。週末も出かける約束をしている。潤が申請書を出してくれるので、外へ出ることが出来るのだ。
でも律は…。

「良い人だった?怖くなかった?」

「うん。良い人だったよ。で、あのさ僕、今週末なんだけど…。」

「ん?あ、もしかして出かけるの?アルファと?」

「うん。」

「うわぁ!すごい!良かったね!楓、本当に良かった!」

律は本当に喜んでいる。それは楓にも分かる。律はそういうやつだ。純粋で優しくて腹黒いところがない。だから尚のこと辛い。

「楓、そんな顔しないで。僕のことは気にしなくていいからね。今までの分まで楽しんできなよ!」

「ありがとう。あ、そういえば…。再マッチングどうなったって?」

「うーん、それが…。」

楓と律が再マッチングをしたちょうど同じ時期に政府のコンピューターに異常が見つかったのだ。
どうやらシステムの更新の際に不具合が生じてしまったとバース庁の男が言っていた。
楓の再マッチング相手は異常が起こる前に選び出されたのだが、律の相手は異常が起こってから確定されたためやり直しとなってしまったいた。

「再マッチングまでどれくらいかかるの?」

「分かんない。システムの見直しもするんだって。」

「そっか。じゃあかなり時間がかかるんだ…。」

「うん。でも平気。待つのは慣れてるしね。それよりもちゃんとしたマッチング相手を見つけてもらう方が大事だよ。」

律は気にしていない様子で楓にマッチングしたアルファのことをあれこれ聞いてくる。
律に隠し事はしたくないので潤が持ってきた釣り書きを見せた。

「うわっ、潤さん大きいね。」

「うん。制服着ててもマッチョなのが分かったよ。毎日筋トレしてるんだって。」

「楓との体格差がすごいね。アルファは皆んな大きいのかなぁ。」

楓も律もオメガらしく小さめだ。楓は165cm、律に至っては160cmしかない。

「僕たち、並んで座ると子どもと大人みたいだった。」

大きな身体の潤を思い出す。手も肩幅も全て大きかった。あんな身体で組み敷かれたら…。それにあのフェロモン。特に甘さが加わったときのフェロモンは官能的だった。あのフェロモンをマーキングされたらどうなってしまうのだろう。
楓は自分のふしだらな考えに顔を赤らめた。

「楓、幸せになってね。」

「うん。って、律もだよ?再マッチングしたら教えてね。」

「もちろん。」

律はふわふわと幸せなフェロモンを纏う楓をぎゅっと抱きしめて自室に戻った。




「楓、キラキラしてたな。」

100%のアルファに会うことが出来たからだろう。幸せフェロモンを纏った楓はいつもよりずっと綺麗だった。
楓の幸せは心から嬉しい。でもやはり寂しくて仕方ない。
再マッチングはいつになるか分からないが、それを待ち望んでいるのとも違う。
100%のアルファ。
自分はそれを諦めなければならないのだ。
マッチング解除の通知は相手にももう届いたはず。
それでも何も言ってこないのはやはり律のことがどうでもいいからだろう。
律は枕に顔を埋め声を殺して泣いた。



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