100%のオメガ

みこと

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「じゃあ、律。明日も来るからね。必要な物があったら何でも言って。」

面会時間が終わり、俊哉が名残惜しそうに律の手を離す。本来なら面会は不可なので一時間ほどで出で行かなければならない。

「はい。今日はありがとうございました。」

「そんな…。お礼を言うのは俺の方だよ。律、ありがとう。また明日ね。」

俊哉が離した手をまた握る。

「一条、そろそろ帰らないと。」

剛を煮やした潤が俊哉を急かすがなかなか手を離さない。

「律…。心配だよ。」

「大丈夫です。皆さん本当に良くしてくれるし、ご飯も美味しいし。」

「本当?そうだ、退院したら律の好きなものを食べに行こうね?何が良い?お肉?お寿司?」

「おい!一条!いい加減にしろよ!バレたら会えなくなるぞ。」

潤に喝を入れられ俊哉はやっと手を離した。そして引きずられるように部屋から出る。

「全く…。まあ気持ちは分かるよ。って、一条聞いてるか?」

俊哉はぼんやりと律の部屋の方を見つめている。
たった一時間ですっかり骨抜きだ。

「人に見られたら面倒だから階段から行こう。」

五人は非常階段で下に向かった。俊哉は相変わらずぼんやりしている。心ここに在らずだ。
潤と総司に引きずられて玄関ロビーに着いた。

「五十嵐くん、楓くん、今日は本当にありがとう。」

深々と頭を下げる総司を見て俊哉も慌てて頭を下げた。

「五十嵐、本当にありがとう。楓くんも。二人には感謝してもしきれない。ありがとう。」

「礼は良いよ。とにかく律をよろしく頼むよ。な?楓。」

「うん。律のこと、よろしくお願いします。」

「もちろんだよ。もう泣かすようなことは絶対にしない。必ず幸せにする。」

俊哉は二人にそう誓い別れた。




「あとはバース庁だな。」

帰りの車の中で総司が思案に暮れる。
問題はまだ全て解決したわけではないのだ。
俊哉と律のマッチング解除をどうするかだ。

「仕方ない。妹尾に頭を下げるか…。」

総司は大きくため息をついた。
可愛い甥っ子のためだ。
下げたくない頭を下げよう。
帰ったら青田に妹尾にコンタクトを取るよう頼む。

「俊哉くん、良かったね。」

助手席の美裕が笑顔で振り返る。

「はい。ありがとうございます。総司さん、お願いがあるんですが…。」

「ん?何だ?」

バックミラー越しに俊哉を見る。
俊哉の頼みはしばらく総司の家に置いて欲しいというものだった。
もちろん俊哉は快諾した。自分の運命を見つけた今、オメガ嫌いの家に帰りたくない気持ちは十分理解できる。
それから俊哉は寄るところがあるから駅で降ろして欲しいと言ったので桜ヶ丘駅で別れた。

家に帰り青田に用事を頼むと一息つく。
怒涛の週末だ。
美裕を呼び寄せ抱きつくとその匂いを吸い込んだ。

「お疲れ様。甥っ子のために奮闘するそうくん、カッコよかったよ。」

「ん?かっこいいのはいつもだろ?」

「ふふ。そうだった。」

「美裕はいつも可愛い。可愛くて癒される。」

ちゅうっと唇を吸うとそのままソファーに押し倒した。顔中にキスをしてまた唇を吸う。

「ん、ダメ…。」

「何でだ?今朝はしなかったから、ほら…。」

総司が硬くなった下半身をぐりぐりと押し付ける。

「あっ、待ってそうくん。」

「待てない。美裕、俺にご褒美は?カッコよかったんだろ?」

「もう…。分かった。俊哉くんが帰ってきゃうかもしれないからベッドに行こう?」

「了解。」

総司は嬉しそうに美裕を抱き上げ、ベッドルームに向かった。




途中の駅で降ろしてもらった俊哉は目的の店に向かっている。
駅から少し歩くとビルの合間に二階建ての小さな建物が見えた。その前に人が数人並んでいる。
一階がチョコレートの専門店、二階がその系列のカフェになっている店だ。俊哉もその列に並び順番を待つ。
フランス人のショコラティエが作るそのチョコレートは上品な甘さとコク、美しい見た目が人気だ。
律が甘党だと知った俊哉は是非ここのチョコレートを食べてもらいたいと思ったのだ。
俊哉自身は甘いものはそれほど好きではないが、ここのチョコレートを食べた時、その美味しさに驚いた。
今日は急だったので何も手土産を持たずに律に会いに行ってしまった。明日はこれと他にも何かデパートで見繕って律に贈るつもりだ。

カカオの香ばしい香りとミルクの甘い香りが混ざった店内へ入る。
ショーケースには色とりどりのチョコレートが並んで居る。
一粒千円から二千円、高価なものは一粒五千円というものまであった。俊哉はそれらをいくつか選び綺麗に箱に並べてもらう。
リボンでラッピングされたそれはとても良いチョコレートには見えない。高級ブランドの雑貨か何かだと思うような美しい見た目だ。
俊哉はそれを受け取ると、今度はデパートに立ち寄る。律に似合いそうな服や靴、鞄などをいくつか購入した。
自宅へ戻ると当面の生活に必要なものを持ち総司の家に戻った。
連絡先は交換しなかった。これ以上のルール違反は俊哉が不利になると皆で判断したからだ。
明日もこっそり会いに行く。
バース庁との交渉は総司に任せることにした。それまでは目立たないようこっそりと会うのだ。

「律…早く会いたい。」

こんなに明日が楽しみだったことはない。
俊哉は律の写真を抱きしめながら眠りについた。





「いた!一条、今おまえに電話しようとしてたんだ!」

教室の前で潤が俊哉を見つけて駆け寄ってくる。
切羽詰まった顔だ。

「どうしたんだ?」

「大変だ。律が、律が学園に連れ戻された。」

「え?」

退院は水曜日のはずだ。それが何故急に?

「今朝、バース庁の職員が病院に来たんだ。それで勝手に退院手続きをして連れていったんだ。」

「何だって⁉︎」

バース庁の職員と名乗る男たちは医師が止めるのも聞かず律を勝手に退院させてしまった。
強制執行だと言っていたらしい。今朝、潤のもとに伯父から連絡があった。

「物々しい雰囲気だったって。」

「嘘だろ…。」

良くないことが起こっている。それは何となく分かる。
呆然と立ち尽くす俊哉の手の先がひんやりと冷たくなった。

「一条!総司さんに…。」

「あ、ああ。」

俊哉は震える手で総司に連絡を入れた。
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