100%のオメガ

みこと

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「あの、一条さん、大丈夫ですか?」

「え?あ、はい、大丈夫です。」

俊哉はハッとして律を見た。
そしていきなり床に土下座したのだ。

「え?一条さん?」

「律くん、ごめん。本当にごめんなさい。」

急に謝りだす俊哉に律が困惑する。
何故謝るんだろう。
マッチングのことだろうか。
俊哉はやっぱりマッチングを断ったんだと思うと悲しくなった。

「あの、頭を上げて下さい。僕は大丈夫ですから。」

「え?でも…。」

「僕とのマッチング、嫌だったんですよね。仕方ないです。」

「あ、いや、そうなんだけど…。でもそうじゃなくて…。」

やっぱりそうだったんだ。
そうも思うと涙がポロリと溢れた。

「り、律くんっ!」

涙をこぼす律に俊哉が慌てて俊哉が立ち上がりオロオロしだす。
それでも律は気丈に大丈夫ですと繰り返した。

「気にしないで下さい。僕は再マッチングしますから。だから…。」

再マッチング。
その言葉に俊哉の顔が青ざめる。
彼が他のアルファのものになってしまう。

「ダメだ!」

「え?」

急に大声を出した俊哉に律が驚いた。
俊也の顔は怖いくらい真剣だ。

「律くん。俺を許して欲しい。バカな考えに囚われて、君を四年も放って置いてしまった。失ってから気付くなんて遅すぎるけど、でも俺は君を諦めきれない。」

「一条さん?」

「再マッチングしないで欲しい。俺と…俺とやり直して欲しい。俺にチャンスを下さい。お願いしまう。」

深々と頭を下げる俊也に律は驚き目を丸くする。

「チャンスって、えと…。」

「律くんと番いになるチャンスを下さい。何でもします。一緒にいさせて下さい。他のアルファと番いになるなんて言わないで…。お願い、お願いします。」

何度も頭を下げる俊哉に律はただ唖然とした。
俊哉は律と番いになりたいと言っている。
この四年、何の音沙汰もなかった100%のアルファが今目の前にいるだけでも信じられないのに、一緒にいたいと頭を下げている。
律には何がどうなっているのか分からない。

「何で?どうして急にそんなこと言うんですか?」

頭を下げたままの俊哉は苦しい顔をした。そして正直にこの四年間のことを律に告げた。
一条のオメガに対する考え方。もちろん俊哉もそうだった。
マッチング通知の無視、潤がわざわざ教えてくれたことも無視した。
でも昨日、ゲームセンターで律に出会ってしまった。一目で分かった。律が俊哉の運命だと。
マッチングは解除されてしまい、律が他のアルファのものになってしまう。それを知って死ぬほど後悔した。マッチング通知を開封し、律の写真を見ただけで勝手にアルファのフェロモンが溢れ出てしまう。俊哉の身体はそれくらい律を求めている。

「一条さん…。でも僕はもう再マッチングしてしまったんです。昨日メールが来ました。きっと寮にマッチング通知が届いているはずです。」

「そんな…。嫌だ、律くん、お願いだ。お願い…。」

俊哉が膝から崩れ落ち泣き出す。
律にも俊哉の悲しみが伝わってきた。俊哉が悲しいと律も悲しいのだ。
それは二人が運命だという証拠。

「僕はあなたと幸せになれますか?」

律の正直な気持ちだ。
一条の家は律を喜んで迎え入れてはくれないだろう。
彼は守ってくれるだろうか。
自分は幸せになれるのだろうか。

「する。必ずする。俺が律くんを幸せにする。」

ガバッと顔を上げて律を見る。その顔は真剣だ。
ふわりと優しいフェロモンが律を包む。律を幸せにしたいと言っているのが分かる。
律はずっと待っていたのだ。マッチング通知を受け取った日からずっと。
何も持っていない律だけど唯一無二の100%のアルファがいる。それだけが律の心の支えだった。

「一条さん、僕、ずっと待ってました。あなたが来てくれるのを…。」

「律くん!ごめん、本当にごめん。」

「やっぱりあなたは僕の100%のアルファです。」

「うん。そうだよ。律くんは俺の100%のオメガだ。」

俊哉はベッドサイドに跪いでそっと律の手を取った。
フェロモンが混ざり二人を温かく包み込む。まるで化学反応だ。
そんなことが起こるのは唯一無二の存在、運命だけ。
律が俊哉を受け入れ、喜んでいる。フェロモンがそう言っている。

「俺のオメガ…。ありがとう、律くん。」

俊哉も涙を流して喜んだ。






「律、大丈夫かな?」

「ん?そうだな。遅いな。何話してるんだろ。」

楓と潤、総司、後から合流した美裕が部屋の外でソワソワしながら待っていた。
俊哉は一向に部屋から出てこない。
二人の間に何が起こっているのだろう。

「楓はどう思う?」

「僕?僕は…もちろん律が選んだ人が一番だけど、うーん、そうだな、律は一条さんを選ぶと思う。」

「え?何で?だって四年も…。あ、俺もだけど…。」

「ふふ。だって運命だもん。運命に会ってしまった。もうどうしようないよ。その人以外は無理だよ。僕だって…。」

楓が何か言いかけてもじもじする。それに気づいた潤がデレっと形相を崩した。

「俺もだ。楓を見た時からもう楓以外考えられない。一条だってそうだ。だから律も。」

「うん。」

「私たちだって。な?美裕。」

いつも間にか美裕を抱きしめていた総司もデレっとした顔で美裕を覗き込む。

「…うん。」

それを見た潤も楓に抱きつこうとするがするりと居なくなってしまった。
楓は律が心配なようでドアに近づき耳をくっつけている。

「うーん、何も聞こえない。」

「楓~。」

抱きつき損ねた潤が拗ねたような声を出すが、楓はしぃっと言うように人差し指を口に当てた。
そしてそーっとドアを開けて中を覗く。
そこにはベッドに座る律とその横で律の手を握り嬉しそうな俊哉の姿があった。二人は見つめ合い、楓に気が付かない。
楓はそんな二人を見てそっとドアを閉めた。
良かった。律のあんな顔を見るのを初めてだ。
幸せそうで少し恥ずかしそうな笑顔。
ほっとした楓だが、二人はすぐに厳しい現実を知ることになる。







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