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次の日、朝食を終えて庭の薬草を見に行こうとするとレオナルド様に呼び止められた。
「許可なく馬車を出したのは何故だ?城下町でフォーゼット家の家紋の馬車を見たと報告があったが、お前だろう?」
急に怖い顔で言われたため僕はアワアワするだけで何も言えなくなってしまった。
上手い言い訳でも考えておけば良かった。
「旦那様、ルーファス様は何も悪くありません。私の息子の見舞いに来てくれたのです。悪いのは私でございます。」
マリアが急に出てきて僕とレオナルド様の前に平伏した。僕はびっくりして固まってしまった。
騒ぎを聞き付けたヘンリーもやって来て馬車を勝手に出したのは自分だから罰を与えるなら自分に、とレオナルド様の前に跪いた。二人に呆然としていたが、これは僕が勝手にした事で二人には関係のない事だ。それをレオナルド様に伝え、罰なら僕にとお願いした。レオナルド様は何か言おうとしたが踵を返し部屋に戻ってしまった。
残された僕達は互いに謝りながら後はレオナルド様に委ねようという事になった。
部屋に戻ってぼんやり考える。
婚約破棄されて実家に戻されるかもしれない…。
両親に申し訳なくてぽろりと涙が溢れた。憧れていたレオナルド様からは邪険にされ、ここへ来てもう半年近く経つのに結婚の話は進まない。望まれずに嫁ぐどころかその前に捨てられるのかと思うと悲しくて仕方なかった。
ロジェ様のように美しかったらもう少し違っていたのだろうか…。
また涙が溢れた。
コンコン、とノックが聞こえたため涙を拭って返事をするとロイとハンナがお茶のワゴンを押して入ってきた。僕の顔を見るとハンナが悲しそうに顔を歪めた。泣いていたのがバレでしまったな。
「旦那様も昔は優しくて慈悲深いお方でしたのに…。」
「えっ?」
「若くして辺境伯を継いで大変でしたが、いつもお優しくて素晴らしい方でした。」
「そうなんですね。」
……優しい人……
僕は初めてレオナルド様を見たときの事を思い出していた。演武も素晴らしかったが集まった子ども達に向ける優しい笑顔がとても素敵だった。
僕はここへ来てから一度も見た事のない笑顔を思い出し胸が痛くなった。
「ロジェ様と出会われてから変わられてしまって…。」
「ハンナ。」
ロイがハンナを咎めるように制した。
ロジェ様?ロジェ様と出会ってから変わってしまった?まあ恋は人を変えると言うし…。
二人はこれ以上話したくないみたいだ。庭の薬草の話をし始めている。
レオナルド様は変わってしまうほどロジェ様の事が好きなのか。また胸がチクリと痛んだ。
あれから3日経ったが、レオナルド様からは何も言われぬままだった。
マリアとハンナに刺繍を教わりながらお茶をしていると来客を伝えるベルが鳴った。
しばらくするとロイがオズベルト様とサフィーア様を連れて僕の元に現れた。
お二人はレオナルド様の学生時代からの友人でハンナ曰く悪友というやつだ。お二人はたまにレオナルド様に会いに来られるが、最近は来てもレオナルド様が不在な事が多い。そんな時は暇潰しに僕にちょっかいをかけて帰って行く。
「まだここに居たのか?とっくにレオに追い出されたかと思ってたよ。」
オズベルト様はベータだが王様に仕える騎士団の団長だ。口は悪いが本当は努力家で真面目な人なのだろう。
「もうすぐ追い出されるかもしれません。」
冗談に力なく答えた。いつものように返さない僕を変に思ったのかサフィーア様が心配そうな顔をする。サフィーア様はアルファだが学生時代からの番がいらっしゃる。
「どうした?レオと何かあったのか?」
サフィーア様にフォーゼット家の馬車を無断で使用し怒られた事を話した。急にオズベルト様が真面目な顔をして僕を見た。
「前のオメガは3週間で追い出された。その前は2週間だ。もっと短いヤツもいる。お前はもう半年近くここに居る。レオはお前を追い出そうと思えばいつでも出来るんだ。でもそれをしない。出来ないと言うべきか…。この意味が分かるか?」
僕は分からず首を振る。オズベルト様がサフィーア様をチラリと見て目配せをした。
「俺たちはこの時を待っていたんだ。」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
お二人が言うにはレオナルド様は3年前、ロジェ様に出会われてからおかしくなってしまった。何かに取り憑かれたようで、それはロジェ様が結婚されても変わることはなかった。
元々レオナルド様は理知的で優しく平等な方だった。現にベータのオズベルト様ともバースを気にせず仲良くしていた。
お二人ともレオナルド様でも恋に溺れることもあるのか、と思っていたがどうもおかしい。ロジェ様の事以外は全く興味を失い、力を入れていたボランティアやこの辺境のフォーゼットの地に医者を常駐させる計画もパタリとやめてしまったのだ。ふらふらと王都に出かけては高価な宝石を買いロジェ様に贈っていた。
「そうです。3年前からです。それまではそのような事をするお方ではありませんでした。ロジェ様への贈り物はかなり高価な物です。その…それは今でも続いております。」
最後の方は言いにくそうに僕の顔を見ながらロイが口を挟んだ。
今でもロジェ様に贈り物をしているのか…。
また胸が痛くなる。
「レオはバカな男ではない。人のものになったオメガにそんな事するはずが無いんだ。そこで俺たちはいろいろ調べてみたんだ。」
オズベルト様たちが調べた所、何人かのアルファがレオナルド様と同じように今でも高価な宝石をロジェ様に贈っていた。グリード公爵家の次男ラザウェル・グリード様、レイモンド侯爵家の三男パトリック・レイモンド様、他にも何人かいてどの方も皆優秀なアルファだった。
どういうこと?僕は怖くなってハンナとロイを見た。二人とも恐ろしいものを見た様な顔をしている。
オズベルト様が口を開いた。
「魅了の魔法だ。」
「許可なく馬車を出したのは何故だ?城下町でフォーゼット家の家紋の馬車を見たと報告があったが、お前だろう?」
急に怖い顔で言われたため僕はアワアワするだけで何も言えなくなってしまった。
上手い言い訳でも考えておけば良かった。
「旦那様、ルーファス様は何も悪くありません。私の息子の見舞いに来てくれたのです。悪いのは私でございます。」
マリアが急に出てきて僕とレオナルド様の前に平伏した。僕はびっくりして固まってしまった。
騒ぎを聞き付けたヘンリーもやって来て馬車を勝手に出したのは自分だから罰を与えるなら自分に、とレオナルド様の前に跪いた。二人に呆然としていたが、これは僕が勝手にした事で二人には関係のない事だ。それをレオナルド様に伝え、罰なら僕にとお願いした。レオナルド様は何か言おうとしたが踵を返し部屋に戻ってしまった。
残された僕達は互いに謝りながら後はレオナルド様に委ねようという事になった。
部屋に戻ってぼんやり考える。
婚約破棄されて実家に戻されるかもしれない…。
両親に申し訳なくてぽろりと涙が溢れた。憧れていたレオナルド様からは邪険にされ、ここへ来てもう半年近く経つのに結婚の話は進まない。望まれずに嫁ぐどころかその前に捨てられるのかと思うと悲しくて仕方なかった。
ロジェ様のように美しかったらもう少し違っていたのだろうか…。
また涙が溢れた。
コンコン、とノックが聞こえたため涙を拭って返事をするとロイとハンナがお茶のワゴンを押して入ってきた。僕の顔を見るとハンナが悲しそうに顔を歪めた。泣いていたのがバレでしまったな。
「旦那様も昔は優しくて慈悲深いお方でしたのに…。」
「えっ?」
「若くして辺境伯を継いで大変でしたが、いつもお優しくて素晴らしい方でした。」
「そうなんですね。」
……優しい人……
僕は初めてレオナルド様を見たときの事を思い出していた。演武も素晴らしかったが集まった子ども達に向ける優しい笑顔がとても素敵だった。
僕はここへ来てから一度も見た事のない笑顔を思い出し胸が痛くなった。
「ロジェ様と出会われてから変わられてしまって…。」
「ハンナ。」
ロイがハンナを咎めるように制した。
ロジェ様?ロジェ様と出会ってから変わってしまった?まあ恋は人を変えると言うし…。
二人はこれ以上話したくないみたいだ。庭の薬草の話をし始めている。
レオナルド様は変わってしまうほどロジェ様の事が好きなのか。また胸がチクリと痛んだ。
あれから3日経ったが、レオナルド様からは何も言われぬままだった。
マリアとハンナに刺繍を教わりながらお茶をしていると来客を伝えるベルが鳴った。
しばらくするとロイがオズベルト様とサフィーア様を連れて僕の元に現れた。
お二人はレオナルド様の学生時代からの友人でハンナ曰く悪友というやつだ。お二人はたまにレオナルド様に会いに来られるが、最近は来てもレオナルド様が不在な事が多い。そんな時は暇潰しに僕にちょっかいをかけて帰って行く。
「まだここに居たのか?とっくにレオに追い出されたかと思ってたよ。」
オズベルト様はベータだが王様に仕える騎士団の団長だ。口は悪いが本当は努力家で真面目な人なのだろう。
「もうすぐ追い出されるかもしれません。」
冗談に力なく答えた。いつものように返さない僕を変に思ったのかサフィーア様が心配そうな顔をする。サフィーア様はアルファだが学生時代からの番がいらっしゃる。
「どうした?レオと何かあったのか?」
サフィーア様にフォーゼット家の馬車を無断で使用し怒られた事を話した。急にオズベルト様が真面目な顔をして僕を見た。
「前のオメガは3週間で追い出された。その前は2週間だ。もっと短いヤツもいる。お前はもう半年近くここに居る。レオはお前を追い出そうと思えばいつでも出来るんだ。でもそれをしない。出来ないと言うべきか…。この意味が分かるか?」
僕は分からず首を振る。オズベルト様がサフィーア様をチラリと見て目配せをした。
「俺たちはこの時を待っていたんだ。」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
お二人が言うにはレオナルド様は3年前、ロジェ様に出会われてからおかしくなってしまった。何かに取り憑かれたようで、それはロジェ様が結婚されても変わることはなかった。
元々レオナルド様は理知的で優しく平等な方だった。現にベータのオズベルト様ともバースを気にせず仲良くしていた。
お二人ともレオナルド様でも恋に溺れることもあるのか、と思っていたがどうもおかしい。ロジェ様の事以外は全く興味を失い、力を入れていたボランティアやこの辺境のフォーゼットの地に医者を常駐させる計画もパタリとやめてしまったのだ。ふらふらと王都に出かけては高価な宝石を買いロジェ様に贈っていた。
「そうです。3年前からです。それまではそのような事をするお方ではありませんでした。ロジェ様への贈り物はかなり高価な物です。その…それは今でも続いております。」
最後の方は言いにくそうに僕の顔を見ながらロイが口を挟んだ。
今でもロジェ様に贈り物をしているのか…。
また胸が痛くなる。
「レオはバカな男ではない。人のものになったオメガにそんな事するはずが無いんだ。そこで俺たちはいろいろ調べてみたんだ。」
オズベルト様たちが調べた所、何人かのアルファがレオナルド様と同じように今でも高価な宝石をロジェ様に贈っていた。グリード公爵家の次男ラザウェル・グリード様、レイモンド侯爵家の三男パトリック・レイモンド様、他にも何人かいてどの方も皆優秀なアルファだった。
どういうこと?僕は怖くなってハンナとロイを見た。二人とも恐ろしいものを見た様な顔をしている。
オズベルト様が口を開いた。
「魅了の魔法だ。」
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