運命には抗えない〜第一幕〜

みこと

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「寝込みを襲うのはダメですか?」

「レオは剣の達人だからな。気配で起きるだろ。」

「階段から突き落とすとか?」

「死んだら元も子もない。」

 どうやって僕とレオナルド様がキスをするかを、みんなでああでもないこうでもないと話し合っている。
『魅了』の話を一番信じたのはハンナだった。何とかレオナルド様に目を覚ましてもらいたいと、少々危ない提案をオズベルト様たちにしている。正攻法は難しいらしい。レオナルド様の体の中の『魅了』が抵抗するからだ。
 キスしても何ともならなかったらどうしたらいいのだろう。殺されるかもしれないと怯えていると万が一の時にはオズベルト様とサフィーア様が守ると言ってくれた。

 みんなで話し合っているとガチャリとドアが開く音がした。ロイとハンナが急いで玄関に駆けつける。
 レオナルド様が帰ってきたのだ。
 ロイが応接室にレオナルド様を連れてやって来た。僕の顔を一瞥すると眉を顰めた。
…本当に運命の番なのだろうか。寧ろ嫌われている気がする。

「レオ、お前が探してた古代リーリア語の本を見つけたんだ。」

 サフィーア様が鞄から大きな古い本を取り出した。お二人はレオナルド様が気を引きそうな物を幾つか用意されていた。本はそのうちの一つだ。
 自室へ行こうとされていたレオナルド様はサフィーア様の隣に座ってその大きな本を読み始めた。

「これはどこで見つけたんだ?」  

 かなり興味を持っているようで熱心に読まれている。なんて美しい横顔なんだ、と僕はその様子を見つめていた。
 ふとオズベルト様を見ると僕に必死に手で合図を送っていた。『今だ、キスしろ!』声には出さないが口パクで訴えてくる。サフィーア様も必死で頷いている。ロイとハンナも期待満ちた目で見つめてくる。

 えーっ!今?

 レオナルド様は本に釘付けだった。
 
 よしっ!

 僕はお茶菓子を置くフリをしてレオナルド様に近づいた。ソファーの端に座るレオナルド様の横に立ちみんなの顔を見た。ゴクリと喉を鳴らす。大きい音だったようでレオナルド様が顔を上げた。直ぐ隣に立っている僕に驚いているようだったが、その美しい唇に僕の唇を押し付けた。

 ムードも何もあったもんじゃない。ゴチンとぶつかって痛かった。レオナルド様は右手で口を覆って俯いている。何も言わないし肩が震えている気がする。怒っているのかもしれない。

 僕は運命じゃなかったのだ。

 サフィーア様が立ち上がり僕を庇うように抱き抱えた。何だか不穏な空気が漂っている。肌がピリピリする。
 その時レオナルド様が立ち上がりサフィーア様に向かって言った。

「私の番に触るな!」

 サフィーア様がソファーに倒れ込むように座り大きく息を吐いた。オズベルト様が『よしっ!』言ってガッツポーズをする。ロイとハンナは抱き合っていた。僕はただ茫然と立ち尽くしていた。
 レオナルド様が立ち上がり僕を優しく抱きしめた。 

「ルーファス。私の愛しい番。」

 僕はレオナルド様の番だったのだ。涙が溢れて止まらなかった。



 僕たちは改めて今までの話をした。
 レオナルド様が仰るにはロジェ様と初めて会った日から頭に黒いモヤのような物が現れてロジェ様を喜ばせる事が生き甲斐のように感じた。黒いモヤはロジェ様を否定したりすると更に濃くなり頭が痛くなるらしい。ロジェ様を崇拝する事でモヤや頭痛はなくなる。モヤを無くしたくてロジェ様の言うなりになるうちにそれが正しい事だと思い込んでいく。他のオメガの匂いもモヤの原因になるのでオメガには極力近づかないようにしていた。
 オズベルト様たちが強く勧めるのでオメガと婚約してみたが匂いを感じただけでモヤが濃くなり苦しかった。
オメガたちもレオナルド様の態度に嫌気がさしたり、また嫌気がさすようにレオナルド様も態と冷たく当たっていた。
 初めて僕を見た時、モヤが一瞬だけ晴れたが直ぐにいつも以上に濃いモヤが頭を占領した。頭痛も酷く吐き気までしたのだ。ロジェ様の肖像画を観たり手紙を読むとモヤが消えていった。 

 僕の顔を極力見ずに過ごし、考えずにいようと思ってもどうしても僕の事が頭から離れない。黒いモヤと戦いながら僕の事ばかり考えてしまう。そうするとモヤと頭痛がまた襲って来るという悪循環だった。そのうちに黒いモヤが僕を追い出せと訴えてくる。でも追い出したくない。どうしたものかと悩んでいた時に修道院の事を思いついた。僕を修道院に入れれば安心できると思った。
 レオナルド様は涙ながらに話された。僕たちもみんな泣きながらそれを聞いた。
 僕とキスした瞬間にあんなに苦しめられていたモヤがスッと消えて今までにないほどスッキリした。
 何故あんなに僕の事ばかり考えてしまうのか。それは簡単な答えだった。

 ーー運命の番だからだーー

 頭がスッキリした今ならそれが分かる。何も言わずに下を向いていたのは単純に痛かっただけだった。サフィーア様が僕を抱きしめた瞬間に腹が立って威嚇してしまった。
『すまなかった。』とサフィーア様に謝っている。

 感動の再会?を果たした僕たちだったがこれで終わりではない。『魅了』は解けた訳ではないし、まだ『魅了』にかかっている人たちもいる。何とかして解決しなければならない。キスで正気に戻る時間は永久ではないらしい。どのくらいかも定かではない。

 ちゅっ。

 レオナルド様が僕にキスをした。

「効果が切れたら大変だからたくさんキスをしないと。」

 僕を膝に乗せたレオナルド様が何度もキスをしてくる。急に甘くなったレオナルド様にドギマギしてるとちゅっちゅっと忙しなくキスをしてくる。

「分かったから真面目に考えてくれ。レオ、これはお前の事だ。」

 オズベルト様が呆れた顔でレオナルド様を見ている。
 今後の段取りを話しているが肝心のレオナルド様は僕にキスする事に夢中だ。…は、恥ずかしいっ!

 オズベルト様とサフィーア様はロジェ様が何者かを調べる事になり、僕とレオナルド様は『魅了』の解き方を探す事になった。ロイとハンナは使用人たちのツテを頼ってロジェ様に『魅了』されている人達がどうなっているかを探る事になった。
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