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第一章
~4~
しおりを挟む「こちらのドレスはいかがでしょう奥様」
「良いわね!あぁ、でもミーシャちゃんにはこっちの淡い色も似合いそうだわ」
「髪をセットしましょうか?」
「お嬢様の滑らかな髪がいいのではありませんか!セットはせずリボン等の方が良いに決まってます!」
今日は登城の日である。母上と館のメイド達がここぞとばかりに私を着せ替え人形のように扱ってくるのが鬱陶しいが、普段は自分の身の回りの事を自分で済ませてしまう為メイド達が仕事を奪わないで下さいと騒がしいので時折任せるようにしているのだ
「お嬢様はリボンとカチューシャ、どちらがよろしいでしょうか?」
「知らんよ、それを決めるのが君らの仕事ではないのかね」
「ではリボンに致しましょう。ドレスにあわせたこちらの色で」
始めの方こそあれでもないこれでもないと忙しなく着せ替えをさせられたがやっと全体がまとまってきたようだ。
王家からの王太子殿下の婚約者として私を是非にという手紙が届き、それに了承の旨を綴った手紙を返してから早数日、正式に婚約者としての初顔合わせとして私の登城が決まったのだが
私と王太子殿下は今日が初対面という訳ではないので今更感が強いのだ。わざわざこのように着飾ってなんになるのやら
「ふむ、少し派手ではないのかね」
「お嬢様は普段が地味過ぎるのですわ!これでも控えめにしたのですよ?」
少し濃いめのアイボリー色のドレスは無駄に大きなフリルで装飾されており邪魔くさく感じてしまうが、レースやら刺繍やら宝石やらをジャラジャラとつけたドレスよりかはよっぽどマシだろう
過去にそういった派手であるほど家の威厳が示せるだのと着させられそうになった時は全力で阻止したものだ。
咄嗟に嫌悪感から言い訳を並べ立て母を言いくるめることに成功し、母の幼い頃の古いドレスをリメイクして私は四歳の頃私の社交界デビューと言う名の
我が家主催のパーティーに挑んだものだ。
思えばその時の当時六歳であった王太子殿下との出会いが初対面となるのだったか
私が挨拶をしてもあほ面を晒し続けた挙句、ろくに賛辞の言葉すら掛けてこないとは、紳士としても社交界における男性としても如何なものかと呆れたものだ。
後にも何度か社交の場で挨拶を交わしたが、その全てにおいて体調が優れていない様子であったり、こちらと目を合わせようともしなかったりと、失礼極まりない小僧だったと覚えている。
いくら子供といえど、未来の国王となる者があのような無様な醜態を晒すなどと、先が思いやられるしあのような婚約者を持てば将来的に私の負担がどれだけのものになるやらと頭痛が痛いと言いたくなるほど私は絶望感に苛まれたものだ。
だからこそ、将来的に結婚となる際の条件を返答の手紙に認めたのだ。
□ □ □ □
レオクリス・サズワイト
それが僕の名前だ。
サズワイト王国の王家の長男として生まれ、厳しくも優しい両親に育てられ、勉強が苦手で家庭教師から逃げては怒られたりもした。
なんてことはない充実した日々を送っていた僕に、人生の転機とも言える大きな衝撃的出会いは速くに訪れた。
六歳になってすぐの頃、代々王家に尽くしてくれている侯爵家のご令嬢が四歳にして社交界進出をするとの事で両親と一つ下の弟のライネルの四人で向ったのだ。
こういった王家と懇意にしている家が主催のパーティーには何度か行った事があるが、お母様曰く僕は女性からモテるのだとか
同年代の少女達から言い寄られる事にすっかり慣れてきてしまっていて、パーティーに出席することが億劫になってきていた僕は、今回のパーティーにも全く期待をしていなかったんだ。
彼女を見るまでは
まるで夜闇を溶かしこんだような、漆黒の髪と瞳
対象的に真っ白い肌に、僕の見た事のない彼女の為に誂えたかのような喪服を彷彿とさせる真っ黒のドレスは所々内に隠れた星のような控えめの白いレースやフリルがチラチラと見えていて
夜空のような人だ。と、僕は見惚れてしまったのだった
その日、僕は情けなくも彼女を目の前にどもってしまいろくに話す事が出来なかったのだ。
彼女について調べ、次会う時はちゃんとしようと思っていても上手くいかず、彼女を前にすると緊張してしまい、顔が熱くなり言葉が出なくなってしまう。
こんな気持ちになるなんて思わなかった。
お母様はそんな僕の気持ちに気付いていて、僕の七歳の誕生日に彼女を僕の婚約者にしようかと言ってくれたのだ。
嬉しかったけど、不安の方が大きかった。
僕は彼女と会話をした事がないし、彼女が僕の事をどう思ってくれているのだろうか
彼女の事ばかり考えている僕がいる。
お母様は彼女と結婚したいなら学院を卒業して賢さを示さないといけないぞ。と言っていたけれど
それについては自信がある。
ここ最近は苦手な勉強も頑張っているし、″あの学院″を卒業出来たのならばきっと彼女も僕を褒めてくれるだろう
その時彼女はどんな顔をしてくれるのだろうか
ああ、僕とお父様とお母様のいる中庭に彼女がやってくるのが見える。
僕は今日こそ彼女とちゃんと話せるだろうか
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