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第一章
~21~
しおりを挟む私が学院の教師として働くようになってから早二年
私は未だに教師業を続けている
旅の資金は十二分に溜まった。
それこそ私とルークの二人が諸国漫遊するのに何の問題もない程に
今現在の地場価格にしておうとの土地を買い上げる事が出来る程には私個人の資産は充実している
ならば何故旅に出ていないのか
「えぇえ・・と、つまり暖かい空気が冷たい空気に押し上げられて・・?」
「空気の流れが左回りで・・気圧?えっとなんだっけ・・」
引き継ぎが出来ていないからだ。
「・・・・・」
思わず顔を顰めてしまいそうになるが、ここは耐える
いつ如何なる時でも余裕を持って貴族としての気品を保ち続ける
それしきの事が出来ず未来の国母は勤まらないというものだろう
「御二方、私が作った指導書の通りにして頂けたなら充分ですよ
そう無理に理解しようとしなくとも」
私が作った指南書通りに授業を進めれば良いのだよ、卒業認定試験も十二通り準備したのだし、教師が理解出来なくとも平気なように図書室の書庫も充実させたのだから
お前達はただ指導書に書かれたように授業をしてさえしてくれれば良いというのに
「そういう訳にはいきませんよ!」
「教育者として内容を理解してからでないと・・」
真面目か
相手の頭を叩いて突っ込む心理描写を追い払いながら
「その必要はありません
私の計画書は既に見せてますよね?」
私が事前に提出した計画書は学院教師陣全員に渡している
私が不在の間の授業の進め方、実験内容、卒業認定試験の採点方法。必要な物は全て揃えてある為教本に従って黒板に書き写すだけでも授業が問題なく進められるようにしたのだ。
つまり、この二人は私を学院に引き留める為の存在だろう
冗談じゃない
「指導書の指示に従って頂ければそれで充分です」
私の今生における唯一の目的を邪魔しないで貰おうか
-------------
「無理でした」
「聖女様マジ怖す」
学院内にある数多くある図書室の一つ
そこに二十数人程の教師達が集まっていた
「あー・・・無理だったかぁ」
「この計画書穴無さすぎなんだよ!」
「ミーシャ様居なくなった後どーすんのよアレら」
「・・もう、諦めるしかなくない?」
「はいはい、皆さんちゅうもーく
ミーシャ嬢の引き留め計画はどれも失敗に終わりました。
残り一年、ミーシャ嬢に手伝いをして貰おうとか、雑用を押し付けようだとか、都合良く使いっ走りにしてたツケはしっかりご自身で払って下さいね」
「げ!学院長!」
「やっばバレてた!?」
「俺たち悪くないっす!ミーシャ様が優秀すぎるんですよ!」
図書室の入口に立つ三十代後半程の男性
新緑の髪から覗くその耳の上部は微かに尖って見える
「なんですかその言い訳、とにかくミーシャ嬢が学院を離職するまで一年です。
自分の事は自分でする!わかりましたね!」
「えーー・・・」
「そんなぁ」
「待って下さいよぉ学院ちょおー」
「黙らっしゃい!!しゃきっとせんかい怠け者共め!」
「はぁーい!」
「ごめんなさーい!」
次々と図書室を出て散り散りとなっていく教師達
「はぁ、情けない
本当に・・・情けない」
学院長と呼ばれた彼の手にある紙束
それは学院の所有資産からその有効な運用方、実験室の環境改善や不要物の処理方法等
実に多岐に渡る資料が綺麗に纏まっていた。
彼はそれを見て悟った
彼女が旅に出る事は絶対であり、それを引き留める事は不可能だろう事
そして、彼女は必ず再びこの学院に戻ってくるだろう事
彼にとって何より悔しいのは、これだけの事柄を
それこそ学院の在り方を大きく変革させかねない程でありながら存続を可能とさせうる妙案を僅か十歳の少女が出したと言う事実
僅かばかり、それこそ顔も名前も知らない程遠い祖先にエルフを持つだけの彼は″人生経験″それのみに関してはこの学院にいる誰よりも勝っていると自負していた。
だからこそ、彼女がこの資料を持ってきた時
『私がここに戻ってくるまでよろしく頼む』
と言われた時
負けた
と、思ったのだ
何か勝負をしていた訳でもない
実家を離れのらりくらりとその日暮らしをしていた頃も
ただただ知的好奇心を満たす為に興味本位で始めた教師としての生活も
先代の学院長の推薦を受け、学院を受け持つ者としての責任感と重圧も、今となってはあの頃は若かったと思えるようになった。
子供から大人になった、大人のまま老いが緩やかとなった、この王都での暮らしも二十数年もたっていた。
それでもまだ足りない
追いつける訳がない
そんな事有り得る筈はないのに、
そう思わせる″何か″が彼女にはあった。
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