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第一章
~20~
しおりを挟む「フゥッ」
風を斬るかのような音
「ハァッ!」
腕を、脚を振る音
「やぁっ!」
互いの隙をつき、打ち合う二人の男女
「テェッ!」
童顔の男子の振りは一つ一つが重く、風を斬る音が聞こえてくるかのよう
「せやっ!」
男子の振るう拳を、脚を避け、時に受け流しては投げ技を決める女子
「うわわっ」
「・・・ここまでとしよう」
学院の中央にある空いたスペース
剥き出しの土と雑草の生えたそこで組手をしていたのはミーシャ・フロイライトとエドガー・コロネであった
「う、まだやれるよっ!」
「私の体力が持たないのだよ。持続力においては私は最も劣っているからな」
女の身である事を言い訳にする気はないが、やはり体力的に男に勝るものが余りに少ない
実際、エドガー・コロネも二年前は自身の限界も知らずに動き回っては倒れていたりしたが
今ではどれだけ鍛練を重ねても顔色一つ変える事がない
力の差を埋める為速さや柔軟さ、技術に頼るしかないのが億劫ではある
「ほらよっと!姿勢を低くすんのは良いが背ぇ丸めんじゃねぇぞ」
「っ・・・!」
少し離れた位置では木槍を持った狗と
木剣を握り向かい合うライネル・サズワイトがいた
「・・・っすぅ」
「さっきから、似たような攻撃ばっかだぞっと!」
どうやらライネル・サズワイトは切り裂きや振り下ろしよりも刺突攻撃が得意なのか、もしくは癖となっているのか
腰を落とし、剣を握る手が腰の近くにある状態が良く見られる
あれではこれから突き刺そうとする意図が丸わかりだろう
しかし、
「・・・・っ!」
「またそこかっ!」
再び同じ姿勢、同じ攻撃
それを何度か繰り返しパターンをつくる
「・・・ーーっ!」
それを一気に覆す
パターン化された動きを相手に気取られず急激に変化させる事で流れを変える
しかし、
「よっと、」
カランッ
槍で簡単にいなされ、剣を弾き飛ばされる
「・・・は・・・また負けた・・」
「まぁ落ち込むな、まだまだこれからだろ」
「槍の方が良いのかなぁ」
「お前はあれだ、レイピア?っつったか、それのが合う気がすんな
動きも速くなったし、
最後無理に切り上げようとしてたろ、慣れない動きするよか得意な突きを伸ばした方が良いと思うぜ」
「そうだな、同じ刺突でも槍と剣では勝手が違う
一度試しにレイピアの模造刀を作って貰って戦ってみたらどうかね」
木で作られた模造の武器で実戦に近い形での訓練
将来兵士となる願望のある学生の為にこういった生徒同士の練習試合等は学院では良く見られる光景だ。
「おー、ミーシャまだ体力残ってるか?」
「簡単な組手くらいならば付き合おう」
二十歳近い青年の姿のルークと五歩半程の距離を開け向き合う
動いたのは同時だった
ブォンッ
槍が振られる音
音もなくそれをいなし
相手の懐へ
そこに膝蹴を打とうとする脚
それを避け、背後へ
そこに槍が横から近づく
頭部に近づく腕
互いの声もない、無音の攻防
互いから離れることなく、至近距離で休む事なく腕が、脚が、槍が交差する
「・・・すごいな・・」
「ねー、ミーシャってなんであんな強いんだろ」
ともすれば演舞のような、芸術作品を眺めているかのような心境に陥る
あの二人が特別強い訳ではない
王国騎士団等には屈強な戦士が多数存在するし、身体を鍛える事に生きがいを感じる人も珍しくはない
第二王子である自分にはそういった存在と会う機会は幾らでもある
しかし″何か″違うのだ。
あの二人はそういった強さとはまた違った″強さ″を感じる
上手く言葉に言い表せないけれど
例えるならば戦士達が硬く巨大な岩とするならば
あの二人はそんな岩を削り小石へと風化させていく風や水のような
目には見えない、不定形のモノ
そんな印象だろうか
「っと、ここまでか」
「・・・・」
途端に動きが止まる
「あれ、もう終わりー?」
「こいつが疲れてるみてーだからな、しゅーりよーだ」
「流石にこれ以上は付いていけないからな」
「オレはまだ出来るが、どっちか相手するか?」
「じゃー次ボクね!」
ライネルの持っていた模造刀をエドガーに渡し、ミーシャ嬢と彼らの模擬戦を眺める
「座りますか?ミーシャ嬢」
「いいや、その必要はない」
「そうですか・・・・」
本当はもう少し話をしたい
教師として充実した生活を送れているのだろうか
忙しそうだがちゃんと身体を休めているのか
最近何か面白かった事とか、何か興味のある事とか、そんな対した事のない、何気ない、日常の会話を彼女としてみたい
そう思っているのに、話掛けることが出来ない
怒られたくない
嫌われたくない
呆れられたくない
以前に彼女に話掛けた際、余計な会話は好まないと言われた
何の実入りにもならない話題に価値等ないと言われた
学院内では、勉学についての話以外は必要最低限に留めるようにと言われた
かといって互いの家では第二王子と侯爵家令嬢としての立場を決して崩そうとはしてくれない
どこか一線を引かれている
距離を置かれている
そんな気がしてならない
エドガーと打ち合うルークさんを見て、誰にも聞こえないよう口内で呟く
「僕は貴方が羨ましい、ミーシャ嬢がただ一人、傍に居る事を許された貴方が・・・・」
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