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第一章
~23~
しおりを挟む「ああ!会いたかったよミーシャ!」
出会い頭に抱き締められた。
こいつ、精神が幼児退行してないか?
今年入学された殿下
まだ子供と言える年齢ではあるが、学院に入学した以上節度ある態度をとらなければならない
それが王族ともなれば尚更の筈
それがわからない殿下ではないだろうに
さて、これまでの文章を読んで違和感を覚えた者がいるのではないだろうか
そう感じた者はそれなりに頭のキレが良いようだ、私直々に褒めてやろう
私は今年で九歳となる。私の一つ年上で十歳である殿下が今年入学するのは当たり前だが
私の兄とも一つ違いになる筈の殿下が兄の入学の二年後に入学している事実を不思議に考え無かった者は文章理解能力を一からやり直したまえ
まぁ、学院の入学条件と私の兄上の誕生時期を知ってさえいればすぐ分かる事なので省略させて貰おう
ちなみに殿下の誕生時期は水の節の朝月である。
そう、よりによって水の節の朝月である。(二回目)
これを女王陛下から聞いた時思わず吹き出しそうになった私は悪くないと思うのだ。
まる一年待たされてようやくの入学にどこか精神が不安定にでもなってしまったのだろうか
その心当たりはある。
殿下と私は婚約者として最低でも節に一、二度は会って話しをしたりお茶をするようにしている
ここ一年近くだろうか、殿下の様子がおかしくなっていったのは
ある時は壁に押し付けられ手で逃げ道を塞がれたり(所謂壁ドンのようなもの)
ある時は顔の輪郭線を撫で顎下から顔を上向きにされたり(所謂顎クイのようなもの)
ある時は許可なく手を握ってきたり
ある時は脚に手を乗せてきたり(所謂ボディタッチのようなもの)
これらの行動が異性に対する性的目的の接触であるならば理解出来る
しかしそういった意図が殿下から全く感じられないのだ
どこか迷っているような、戸惑いや困惑、時に不安
そういった感情の籠った目をしているからどうにも困る
そこで私は考え、一つの仮説を立てた
そも殿下はまだ子供、性の知識は家庭教師から習ってもう知ってはいるが実感がまだ湧かないのではないだろうか。と
なら殿下が私に触れてくる理由は異性に対するそれではないのではないのか。と
そうして見えてきたのは一つの答えだ。
以前、淑女のマナーの一つであるお茶入れを殿下に披露した時
殿下は私が歩く度に目線で追ってきていた事がある
その時の殿下の目は時折後ろを振り向き親がそこにいる事を確かめる子供のそれだった
殿下は私に母性を求めている。
私はそう結論付けた。
成程、殿下ともなれば学院に入学するに当たって相当厳しい家庭教師が付けられる事だろう
王族が学院を卒業出来ない等という不名誉は絶対に避けなければならない
女王陛下はお優しい人柄ではあるが、誓約には厳しく、締める時にはきっちりと締める方でもある。
家庭教師が付けられるようになった頃から母子の時間を余り取れなかったのではないだろうか
だとすれば他に精神的抑圧を発散させられる機会は限られる。
私と会う時、私に良く触れるようになったのも、良く不安の滲んだ目をしているのも
普段母親に甘えられない分を私で補おうとしていたからではないのか
そう考えると辻褄があうのだ。
そこで私は殿下に対する対応を変える事にした
殿下が私にそうある事を望むのならば、私はそれに答えるのみ
殿下の望む母親代わりの私として甘やかしてやるだけだ。
「ああ、そうだな
レオクリス・サズワイト、人前ではないといっても誰が見てるかわからない、少し落ち着きたまえ」
王太子殿下に対して失礼な物言いだとは理解している、が
その王太子殿下が呼び捨てで構わないと、砕けた口調で構わないと言ったのでそうさせて貰っている
「そうだね・・ごめんよ」
まただ
不安の滲んだ目
ポン、ナデナデ
頭を撫でてやる
すると安心したような顔になる
全く、殿下はまだまだ子供だな
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