殲滅された小国の姫

とうたら

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ノアの懸念

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◇◇◇

 一方、先に食事を終えたアルバート、シルヴィア、ルフ、マリー、アルバート専属執事バトラー兼護衛のノアは、シルヴィアの公室に集っている。

 皆、ルフに聞きたいことが沢山あり過ぎて、落ち着かない。

 口火を切ったのはシルヴィアだ。

「ルフは、どの様なことを御出来になりますの?普段はどの様な御姿ですの?お住まいは?お歳は?お食事は?何をお好みで、何をお厭いですの?思いきりモフモフしてもご気分を害したりなさいませんか?」

 目を輝かせ息急き切って問いかけるシルヴィアに、ルフは愉快そうに笑った。

『シルヴィア、落ち着け』
わたくしったら、はしたのうございましたわ」
「ヴィー。私もお伺いしたかったことだよ」
「お兄様」

 両手で顔を隠し、項垂れていたシルヴィアの頭を、アルバートは優しく励ますように撫でた。大好きなアルバートに撫でられたシルヴィアは、もうご機嫌だ。

 ルフはゆっくりと質問に答え始めた。

『我は、天変地異を起し、この世を滅ぼすことも出来る。が、死から蘇らせることは出来ぬ。人語を理解し、人間の性質を見分ける。普段は狼の姿をしておるが、精霊と同じく、人には見えぬ。住処は山頂や洞窟。齢千年の若輩。糧は魔力。シルヴィアを好む。偽りを厭う。シルヴィアの思うように存分に我を愛でよ』
「ルフ!」

 話を聞きながら、徐々にルフへとにじり寄っていたシルヴィアは最後の一言で、もう辛抱たまらん、とばかりに抱きついた。

 艶やかな毛はサラサラ、陽だまりのような森林のような香りと温もりに心が落ち着き離れがたい。
 私のルフ。
 私は一人ではない。

(ルフ!嬉しいわ。末永く共に歩んで参りましょう)
『末永く共に』

 周囲の目を気にも留めず、心を通わせ戯れるシルヴィアとルフ。

 為すがままのルフとご満悦のシルヴィアを眺めながら、ノアは疑問を口にした。

「ルフ様。神は人の姿に権現なさると伺っておりますが真でしょうか」
『真なり』
「是非、拝見しとうございますわ。ルフ、お願い致します」
『・・・はぁ、・・・。其方の願いとあらば、叶えぬ訳にいくまい』
「「「!!!!!!」」」

((さすが、シルヴィア嬢!フローラ様譲りのお見事なお手並みでございます!))

 到底、見ることなど叶うまいと思っていたことを、あっさりと承諾させてしまった。

 シルヴィアは純粋な好奇心で頼んだだけなのだが、一同、シルヴィアの手腕に舌を巻いた。

 マリーは、今か今かと固唾を飲んで見守っている。
 ルフの〈番〉宣言からずっと気になっていたのだ。シルヴィアの伴侶となるルフが、どの様な容姿の殿方であるのか。
 既に、気が遠くなりそうなほど緊張している。

 ルフは身体を起したかと思うと、瞬く間に姿を変えた。

 眼前に現れたのは、とても美しく若い、彫刻のような男性の姿だ。

 すらりとした長身。
 鍛え上げられた肉体。
 大理石のように滑らかな瑞々しい白い肌。
 艶やかなストレートの長い髪は月光のような白銀色。
 切れ長の目。
 吸い込まれそうな虹色の瞳アースアイ

 皆、この世のものとは思えない神々しい姿に魅入られ、放心状態になった。

 一番に動いたのはノアである。

(しまった。想定外だ)

 ノアは急いで隣にいるマリーの目を自分の手で覆った。

「どうか、ルフ様。何かお召しいただけますか」

 ルフは、腰に絹布《けんぷ》を巻いた装いである。

 ご婦人には刺激が強すぎる。と言うか、マリーに見せたくない!

 残念ながら、ノアの行動は、手遅れであった。
 その神々しく芸術的な御姿を一瞬でも目にした者が、どうして忘れられようか。

 ただ、ノアの懸念を他所に、マリーは芸術としてその姿を心に留めおいているのだが、これはノアの知らぬ所である。

◇◇◇
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