殲滅された小国の姫

とうたら

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ルフ

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◇◇◇

シルヴィアの寝室

 清潔な寝具からは、ほのかにローズマリーの香りが漂う。シルヴィアはルフと共に横たわった。

 シルヴィアは、戸惑っている。ルフと二人きりになった途端、己の感情を制御できなくなってしまった。呪縛を解かれたように、涙が溢れ出した。ルフに縋り付き、シルヴィアは堰を切った様に泣き崩れた。

 ルフは何も言わず、シルヴィアを優しくしっかりと抱きしめた。張り詰めた緊張の糸が切れたように泣きじゃくるシルヴィアを落ち着かせるように、頭や背中を撫でた。

 泣き疲れたのか、気が済んだのか、やがて、シルヴィアは微睡み始めた。

 前世のシルヴィアは、我と同じ色彩の髪と瞳の少女であった。それが何を意味するのかは、分からぬ。
 だが、全ては必然。偶然など存在しない。
 ならば、シルヴィアの転生は、魂の片割れ故か。
 まあ、いずれにせよ、貴女から離れはせぬ。

 ルフは、シルヴィアの安らかな寝息を確かめ、安堵した。

 二人で過ごす初めての夜が更ける。

◇◇◇

翌朝

 シルヴィアは、気持ち良くすっきりと目覚めることが出来た。

 目の前にルフがいる。ルフの匂い、ルフの温もり、ルフのさらさらの毛並み、ルフの穏やかな寝顔、ルフの微かな寝息。全てが愛おしい。

 シルヴィアはルフの鼻先にそっと口づけた。名残惜しいが、シルヴィアには欠かせない日課がある。そっと寝台を降りようとしたのだが、ルフに抱きしめられた。

『シルヴィア、何処へ行く』
「ルフ、ごきげんよう。起してしまい申し訳ございませんわ。わたくし、鍛錬の為に毎朝走っておりますの」
『共に』
「えっ!嬉しゅうございますわ。支度を致しますから、少しお待ちになって下さいまし」

 シルヴィアは優雅に寝室を後にし、素早く顔を洗い、身支度を整えた。

「ルフ、お待たせ致しました。参りましょう」



 彩づき始めた空。ルリビタキのさえずりが聞こえる。

 まだ冷たい空気が気持ち良い。シルヴィアは走りながら、ルフに館の案内をした。

「トムじい、ごきげんよう。この子はわたくしのルフですわ」
「シルヴィアお嬢様、おはようございます。お嬢様のお犬様でございますか。なんと立派で美しい。ルフ様、シルヴィアお嬢様をしっかりとお守り下さい」
「ふふ。ルフは愛らしいだけでなく、とっても強くて賢いのよ」

 この様な調子で、見かけた家人にルフを紹介し惚気ていたら、いつもの倍の時間を費やしてしまった。



 ルフは、シルヴィアしか眼中にない。シルヴィアに仇なすものは滅す。シルヴィアが望むのであれば、犬の姿で側に寄り添う。

 精霊たちも皆、シルヴィアに心酔している。シルヴィアが何処で何をしていようが、ルフには手に取るように分かる。分かるのだが、離れがたい。

 千年の間、一人だった。昨日、シルヴィアと出逢い、魂がシルヴィアを強く求めた。

 人の命は儚い。神が手助けしても、長くて百年。神にとっては刹那だ。

 シルヴィアなしでは生きられぬ。シルヴィアと共に黄泉国よもつくにへ参ろうぞ。

「ルフ。温泉へ参りましょう」
『ああ。楽しみだ』

 シルヴィアはルフの全てとなっていた。

◇◇◇
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