殲滅された小国の姫

とうたら

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魔力鑑定

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◇◇◇

 後発のアルバートが神殿に到着すると、速やかに洗礼の儀式は執り行われた。

 件の魔力鑑定媒体は、大柄なウィリアムの両手に余る程に大きな、透明度の高いクリアカラーのロッククリスタルだ。

「これは、見事な。同じ様な物が各領地の神殿にあるのか」
「左様にございます。大きさは様々ですが、公爵領から伯爵領にいたるまで全ての領地に置かれております」

 ウィリアムの問いに答えたのは、神殿長ゲイルだ。見た目の印象通り、物腰の柔らかい好々爺のゲイルは、神に身を捧げ、領民へも献身的に尽くしてくれている。

「ナイトレイ侯爵閣下。お気を付け下さい。触れれば立ち所に、魔力を吸い取られます」
「如何程だ」
わたくしは最低限の水魔法しか扱えませぬが、意識を保てませんでした」
「ほう。実に物騒な代物ではないか」
「誠に」
「魔力の主も特定できるのか」
「その様でございます。わたくしへは、学園への案内は届きませんでした」
「はっはっはっ。それは、残念であったな」
わたくしも若者に交じって学園生活を楽しみとうございました」

 ゲイルは、遊び心と好奇心も持ちあわせているようだ。

「他に知っていることはあるか」
「魔力鑑定の仕組みについては、存じませんので、お答えできません」
「ならば、誰が使っている」
「国王陛下に仕える【祝福ギフト】持ちにございます」
「魔力はその者が吸い取っておるのか」
わたくしが見た限り、読み取るだけのようでございました」
「読み取るとは、魔力量や特性も分かるということか」
「左様にございます」
「薄気味悪い。洗礼を拒むことはできぬか」
わたくしも同感にございますが、許されぬことかと存じます」
「相分かった」

 ウィリアムとゲイルに見守られ、アルバートはゆっくりとロッククリスタルに手を近付けた。指先が触れた途端、魔力を急激に吸い取られた。
 抵抗する術もなく、目の前が真っ暗になり、アルバートは気を失った。

 咄嗟にアルバートを支えたウィリアムは我が目を疑った。聞いてはいたが、瞬く間の出来事だった。クリスタルにはなんの変化も見られない。

「結果は既に、陛下へ届いているのか」
「アルバート様の洗礼は、国王陛下も楽しみにしておいででしたので、既にご承知かと推察致します」
「普段は、遅延するか」
「魔力量による差異が、数分から数時間程度、生ずるようでございます」
「【祝福ギフト】は陛下の傍近くに仕えているということか」
「左様にございます」

 滞りなく、洗礼の儀式は終わった。気を失ったアルバートを抱え、ウィリアムはその場を後にした。

 ウィリアムは護衛騎士にアルバートを託し、二人の護衛と共に館へと急ぎ駈け戻った。

◇◇◇

 執務室には、既に、側近達が集っている。

 伯爵位を持つ側近達は、我が子の洗礼に立ち会ってはいなかった。

 因みに、法務担当ゼン・サンチェス伯爵と財務担当エドウィン・コックス伯爵は妻子持ちで、子達は皆、洗礼の儀式を済ませている。
家令スチュワードヨハン・テオ男爵は愛妻家だが、子宝には恵まれていない。
騎士団長アッシャー・ケリー伯爵とウィリアム専属執事バトラー兼護衛のフィル・グレイ男爵は独身だ。

 ウィリアムの話と照り合わせ、信憑性を加味し、二年後のシルヴィア洗礼に益々危機感を募らせている。

「心身への影響はないようでございますが、シルヴィア様の魔力を吸い取られては、ルフ様の逆鱗に触れるのでは、と推測致します」
「うぉ!我々に対してか?あぁ、王室に対してか!」
「とりあえず、ルフ様はシルヴィア嬢が悲しむ事はなさらないだろうが、シルヴィア嬢が気を失った瞬間、瞬殺されそうだな」
「……、今のシルヴィア嬢には、領地のみが全世界であろう。だが、それ以外は、……あり得るな」

 人類生存の危機か!?否定できない可能性に、執務室は静まりかえった。

「うむ」と口火を切ったのは、ウィリアムだ。

「近々、王都へ行かねばならぬな」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、か」
「好奇心は猫を殺す、とも言うぞ」
「恐怖心は往々にして危険よりも大きいもの、であってほしいものだ」

 ドア近くに控えていたフィルが、ノック音に対応し、「御館様。ノアが報告に参りました」と告げた。

 ウィリアムは、アルバート専属執事バトラー兼護衛のノアを執務室へ招き入れ、報告を促した。

「御館様。アルバート様と共に無事帰還致しました」
「アルの様子はどうだ」
「失神されたままでございます。寝室にて、ハリス医師が診ておられます」



 アルバートはそのまま翌朝まで目覚めなかった。

◇◇◇
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