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ノア
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◇◇◇
翌日のお茶の時間、アルバートはノアと共にフローラの部屋を訪れた。
「ノア、覚悟は出来てる?」
「……正直、逃げ出したいです。エドワード様の元へ行っては……」
「駄目だ。逃げるな」
「……はい」
滞在中のエドワードはというと、ナイトレイ家専属医師ギルバート・ハリスと庭師のトムじいに師事を乞い、帰らないと言い出しそうなほど、生き生きと研究をしている。
◇
「早速だけど、ノア。マリーのことはどうなっているのかしら」
フローラも普段は、貴族の嗜みである本題に入るまでの長い挨拶話などを、内心あくびをしながら流暢に語るのだが、家族同然のノアには、ナイトレイ家らしい直球を投げた。だが、マリーの胸の内は明かさない。
唯単に、ノアとマリーの恋物語を静かに観劇したいだけなのだが、もどかしさが勝ってしまった。
「四年もグズグズとして、やっと告白したかと思えば、どうしてマリーではなく兄のエドワード殿に感けているの?」
「母上、マリーはヴィーが一番です。それでも、ノアは五番目くらいにはなったと思いますよ」
「あら、そうかしら」
心の準備はしてきたつもりだったが、次々と命中し続ける言葉の矢に、ノアは息の根を止められそうである。
五番目か。一番はシルヴィアお嬢様で相違ない。二番はナイトレイ侯爵家、三番は実家のガルシア伯爵家。四番は…、もしかしてルフ様なのか。フィル(フィル・グレイ男爵 ウィリアム専属執事兼護衛)やケリー卿(アッシャー・ケリー伯爵 騎士団長)でないことを祈る他ない。
「ノア聞いているの?今年中に五番目の座も確実に奪われるわよ」
「えっ?!誰にですか」
「ハンナが子を授かったわ」
「ハンナ、おめでとう!」
「アルバート様、ありがとう存じます。」
「確実にマリーはこの子の虜になるわ」
「……」
ノアは頭を抱え込んだ。マリーはノアより三歳年上で、今年二十歳になる。
この国では、伯爵令嬢の婚期は、十七、八が適齢とされている。高位貴族の婚約となると、六歳の洗礼の儀式を終えて直ぐに約定を交わすのが習わしだ。
マリーが誰とも婚約していないのは、奇跡的な幸運と言っても過言ではない。
◇◇
グランドール大国の成人は十七歳。
婚姻は成人のみ認められる。
但し、生年月日ではなく、生まれ年で認められている。
◇◇
今年でやっと、十七歳になる。婚姻を認められる年になったというのに、マリーを奪われる。焦りで頭の回線が切れたのか、ノアは支離滅裂な事を口走った。
「その子を私に下さい!」
「落ち着いて、ノア。ヨハンに追い出されるよ」
「あー…、マリー嬢」
「「「……」」」
ノアをからかい過ぎたようだ。
フローラはノアがどれ程の努力家であるかをよく知っている。三歳で孤児になったノアをウィルが保護した。血の繋がりはなくとも、ノアは家族だ。身分を理由にノアを退けようものなら、相手が誰であろうとナイトレイ家が牙を剥く。ガルシア卿がその様な方ではない事は承知している。もう少しノアが私達に甘えてくれても良いのにと寂しく思うことがある。ただ、ノアはそれを望まない事も承知している。
本当に、もどかしい。
「ノア、ガルシア伯爵夫妻が滞在中に、婚姻まで話を進めます。異存はないわね」
「母上、婚約ではなく婚姻ですか」
「この子にも同年代の遊び相手が必要よ」
「楽しみですわ」
「ヨハンもノアも子煩悩な良い父親になると思うよ」
「はい!ありがとうございます!」
いまだ弟認定のままなのに礼を言う脳天気なノアに、フローラは呆れて溜息を吐いた。
◇
その日の晩
いつものようにノアはエドワードの部屋で語らい合った。ノアは、自分の気持ちや茶会での会話などをエドワードに全て告白した。エドワードは、見栄を張らず、包み隠さず、真摯に打ち明けてくれるノアを、益々好ましく思った。
「さすがノア殿。我が妹を見初めるとはお目が高い。マリーの婚約話は、未婚の私を口実に利用して、全て断っているけど、さすがの両親もしびれを切らしている。我がガルシア家とナイトレイ家との縁もより堅固になるとあらば、此方から希いたい良縁だ」
「エド、ありがとう!」
「ノアと義兄弟か。最高だな!もしかして、私と入れ替わりでお世話になる両親の滞在中に式を挙げるつもりなのか?私は結婚式に立ち会えないってことかな?」
「エドにも立ち会って欲しい。フローラ様曰く、上の礼拝堂で互いの家族だけ参列する挙式がマリー嬢の理想だそうだ」
「そうこなくちゃ。あと、必要なのは…」
「全てフローラ様が用意して下さるそうだ」
「至れり尽くせりだな。よもや日取りも既に決まっているとか?」
「五月十一日のつもりでいてくれ」
「おぉ!その日までここに居たいが、そうはいかないか」
「ああ。ガルシア卿が出立できまい」
「そうだよなぁ」
名残惜しいのはエドワードだけではない。ノアもエドワードとの別れが辛い。だが、ガルシア伯爵家の次期殿に「ナイトレイ家に仕えませんか」とは言えない。
「なあ、ノア。隼をくれないか?」
「それ、良い!」
隼なら早馬を飛ばすより早く連絡できる。王都から飛ばしても一日で帰ってくる。
情報網を張り巡らすことは、辺境の地ナイトレイ領の命綱でもある。いつの世も情報を制する者は戦いを制すのだ。
翌日、ノアはヨハンの許可を得て、伝書使の隼を一羽、確保した。
◇◇◇
隼豆知識
隼は非常に強い帰巣本能を持ち、落ちるスピードは世界一!
獲物を見つけて急降下する最高時速は三百九十キロメートル。
国内最速新幹線(最高時速三百二十キロメートル)よりも早いです。
翌日のお茶の時間、アルバートはノアと共にフローラの部屋を訪れた。
「ノア、覚悟は出来てる?」
「……正直、逃げ出したいです。エドワード様の元へ行っては……」
「駄目だ。逃げるな」
「……はい」
滞在中のエドワードはというと、ナイトレイ家専属医師ギルバート・ハリスと庭師のトムじいに師事を乞い、帰らないと言い出しそうなほど、生き生きと研究をしている。
◇
「早速だけど、ノア。マリーのことはどうなっているのかしら」
フローラも普段は、貴族の嗜みである本題に入るまでの長い挨拶話などを、内心あくびをしながら流暢に語るのだが、家族同然のノアには、ナイトレイ家らしい直球を投げた。だが、マリーの胸の内は明かさない。
唯単に、ノアとマリーの恋物語を静かに観劇したいだけなのだが、もどかしさが勝ってしまった。
「四年もグズグズとして、やっと告白したかと思えば、どうしてマリーではなく兄のエドワード殿に感けているの?」
「母上、マリーはヴィーが一番です。それでも、ノアは五番目くらいにはなったと思いますよ」
「あら、そうかしら」
心の準備はしてきたつもりだったが、次々と命中し続ける言葉の矢に、ノアは息の根を止められそうである。
五番目か。一番はシルヴィアお嬢様で相違ない。二番はナイトレイ侯爵家、三番は実家のガルシア伯爵家。四番は…、もしかしてルフ様なのか。フィル(フィル・グレイ男爵 ウィリアム専属執事兼護衛)やケリー卿(アッシャー・ケリー伯爵 騎士団長)でないことを祈る他ない。
「ノア聞いているの?今年中に五番目の座も確実に奪われるわよ」
「えっ?!誰にですか」
「ハンナが子を授かったわ」
「ハンナ、おめでとう!」
「アルバート様、ありがとう存じます。」
「確実にマリーはこの子の虜になるわ」
「……」
ノアは頭を抱え込んだ。マリーはノアより三歳年上で、今年二十歳になる。
この国では、伯爵令嬢の婚期は、十七、八が適齢とされている。高位貴族の婚約となると、六歳の洗礼の儀式を終えて直ぐに約定を交わすのが習わしだ。
マリーが誰とも婚約していないのは、奇跡的な幸運と言っても過言ではない。
◇◇
グランドール大国の成人は十七歳。
婚姻は成人のみ認められる。
但し、生年月日ではなく、生まれ年で認められている。
◇◇
今年でやっと、十七歳になる。婚姻を認められる年になったというのに、マリーを奪われる。焦りで頭の回線が切れたのか、ノアは支離滅裂な事を口走った。
「その子を私に下さい!」
「落ち着いて、ノア。ヨハンに追い出されるよ」
「あー…、マリー嬢」
「「「……」」」
ノアをからかい過ぎたようだ。
フローラはノアがどれ程の努力家であるかをよく知っている。三歳で孤児になったノアをウィルが保護した。血の繋がりはなくとも、ノアは家族だ。身分を理由にノアを退けようものなら、相手が誰であろうとナイトレイ家が牙を剥く。ガルシア卿がその様な方ではない事は承知している。もう少しノアが私達に甘えてくれても良いのにと寂しく思うことがある。ただ、ノアはそれを望まない事も承知している。
本当に、もどかしい。
「ノア、ガルシア伯爵夫妻が滞在中に、婚姻まで話を進めます。異存はないわね」
「母上、婚約ではなく婚姻ですか」
「この子にも同年代の遊び相手が必要よ」
「楽しみですわ」
「ヨハンもノアも子煩悩な良い父親になると思うよ」
「はい!ありがとうございます!」
いまだ弟認定のままなのに礼を言う脳天気なノアに、フローラは呆れて溜息を吐いた。
◇
その日の晩
いつものようにノアはエドワードの部屋で語らい合った。ノアは、自分の気持ちや茶会での会話などをエドワードに全て告白した。エドワードは、見栄を張らず、包み隠さず、真摯に打ち明けてくれるノアを、益々好ましく思った。
「さすがノア殿。我が妹を見初めるとはお目が高い。マリーの婚約話は、未婚の私を口実に利用して、全て断っているけど、さすがの両親もしびれを切らしている。我がガルシア家とナイトレイ家との縁もより堅固になるとあらば、此方から希いたい良縁だ」
「エド、ありがとう!」
「ノアと義兄弟か。最高だな!もしかして、私と入れ替わりでお世話になる両親の滞在中に式を挙げるつもりなのか?私は結婚式に立ち会えないってことかな?」
「エドにも立ち会って欲しい。フローラ様曰く、上の礼拝堂で互いの家族だけ参列する挙式がマリー嬢の理想だそうだ」
「そうこなくちゃ。あと、必要なのは…」
「全てフローラ様が用意して下さるそうだ」
「至れり尽くせりだな。よもや日取りも既に決まっているとか?」
「五月十一日のつもりでいてくれ」
「おぉ!その日までここに居たいが、そうはいかないか」
「ああ。ガルシア卿が出立できまい」
「そうだよなぁ」
名残惜しいのはエドワードだけではない。ノアもエドワードとの別れが辛い。だが、ガルシア伯爵家の次期殿に「ナイトレイ家に仕えませんか」とは言えない。
「なあ、ノア。隼をくれないか?」
「それ、良い!」
隼なら早馬を飛ばすより早く連絡できる。王都から飛ばしても一日で帰ってくる。
情報網を張り巡らすことは、辺境の地ナイトレイ領の命綱でもある。いつの世も情報を制する者は戦いを制すのだ。
翌日、ノアはヨハンの許可を得て、伝書使の隼を一羽、確保した。
◇◇◇
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