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偉業
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◇◇
ノーブレス・オブリージュ
「位高ければ徳高きを要す」
財産、権力、社会的地位の保持には義務が伴う。
魔力を持つ者は、五万人に一人の割合だ。
魔力持ちによって、この世界は支配されている。
魔力持ちの子でも、魔力を持たない者もいる。
故に、原則、王位も爵位も世襲制ではない。
◇◇
時は、アルバート洗礼の儀式直後に遡る。
グランドール大国を治める現国王バージルは、ウィリアムの従兄だ。正確に言うと、ウィリアムの亡き母と国王バージルの亡き父は姉弟である。国王の兄弟姉妹は皆、夭逝した為、公爵位は存在しない。故に、能力だけではなく、血統においても高位貴族であるウィリアムは王位継承権一位に据えられている。バージルとウィリアムは年が近い皇族とあって、幼い頃より、比べられる事が多かったが、当の本人達は仲の良い従兄弟同士だった。
ウィリアムの豪快で竹を割ったような快活な性格がバージルは大好きだ。
見事な差配と細やかな気遣いの出来るバージルをウィリアムは尊敬している。
「陛下。ナイトレイ侯爵令息アルバート様の魔力鑑定結果をお持ち致しました」
「ほう。これは…」
【心眼】の特殊能力を持つ文官アイザック・モルガンの報告に、バージルは満足したようにほくそ笑んだ。
◇◇
【心眼】相手の真意を知る能力。
嘘偽りは通じない。本人すら気付かない本質や能力を見極める事が出来る。
◇◇
先日、シルヴィア婚約の一報を受け取った。受理したものの、為て遣られた感が拭えない。
間もなく洗礼を受ける第一王子ルーカスとの婚約を勧めようとした矢先に、先手を打たれてしまった。まあ、シルヴィアは四歳、ルーカスは六歳の子どもだ。この先どうなるか、神のみぞ知るところ。婚約など、どうとでもなる。
とは言え、ルーカスの魔力は恐らく平均値程度。素直な良い子だが、ウィルが納得するシルヴィアの婚約相手でないことは承知している。それにしても、アルバートの魔力は六歳とは思えん。一体どの様な教育を施しているのか、従弟殿に是非ともご教示願いたいものだ。このまま成長すればウィルを超えるだろう。加えて、フローラ譲りの美貌と知性の持ち主と聞く。楽しみがまた一つ増えた。
「この事、他言無用とする」
「御意」
魔力鑑定結果を知るのは、【祝福】持ちのモルガンと国王であるバージルのみだ。
モルガンの【心眼】は異質で、遠方にいる人物の能力を、媒体を介して見ることができる唯一無二の逸材だ。
優秀な人材を確保する為に始めた洗礼の儀式だが、悪用されてはならぬ。才能を見いだし、育て、守ることも国王の大切な務めだ。
バージルは、自分を王の器ではないと思っている。ただ、時勢が自分を王位に就かせた。
バージルは、我が子ルーカスに王位を継ぐことを望んでいない。原則、王位も爵位も世襲制ではないグランドール大国では、当然と言えば当然の事だ。グランドール国が、大国になり約三百年間、治政が安定しているのは、王位を世襲ではなく、実力で継承した結果だと考えている。我が子は可愛いが、王の器かと問われたら、はっきり否と答える。これからの成長次第では、と期待もしているが、恐らく、アルバートを超える事は出来まい。
バージルは、人の適性を見抜き、適所に配する能力に長けている。実は【心眼】の特殊能力を有する【祝福】持ちである。故に賢明王と名高い名君だ。
バージルの人々を心服させる力に、ウィリアムも敬意を抱いている。が、バージルに冷遇された貴族は、ウィリアムを担ぎ上げようと目論んだ。不穏な動きをいち早く察知したウィリアムによって成敗されたが、下らない権力闘争にうんざりしたウィリアムは王位継承権の放棄を一方的に宣言して、自領へ移った。
アルバートを次期国王に据えたいが、王位継承権を与えるのは時期尚早だ。ウィリアムに無体を強いたならば、独立すると言い出しそうだ。だが、かえって好都合なくらいだ。ナイトレイ家に大国の統治を任せれば、安泰だ。
魔力持ちも、万能ではない。なのに「生まれながらに選ばれし者」と自惚れる愚かな貴族も残念だが存在する。民あってこその国だと分かっていない。ナイトレイ家やガルシア家のような領民に慕われる貴族は稀なのが現状だ。
バージルは、王たる者の資質をウィリアムとアルバートの親子に見出していた。ある意味、執着とも言える程に王位継承を望んでいる。
「確か、ガルシア卿の嫡男が王都に居ったな」
「確認いたします」
どんな些細な情報にも価値がある。ガルシア卿の息女はウィリアムに仕えている。仲の良い兄弟であれば、頻繁に文のやり取りもあろう。
それにしても、ナイトレイ領は遠すぎる。ウィル自慢の温泉にも入りに行けぬではないか。
移動手段の確保は急務だな。荷の運搬の為に運河でも築くか。緊急の連絡だけでも、モルガンの編み出した水晶媒体を応用できぬものか。或いは、風魔法で鳥のように空を飛ぶ…、防音魔法の原理を応用して、遠方でも音を拾えるように…、光はどうだ!うーむ、光の信号では、天候に左右されるか…。ならば、異空間を繫ぐような特殊能力…は、聞いたことがないな。
やはり、運河だな。決めた。
「運河を築く。地図を持て。地理、地質に長けた者を呼んでくれ」
速やかな物流を建前に、ナイトレイ領と王都を結ぶ運河建設が急速に進められた。運河建設の予定地に選ばれた領主達は国から提示された経済効果予測に大いに喜び、助力を惜しまなかった。土魔法と水魔法を操る若い武官と文官は故郷の普請に尽力した。
運河には、新たな職を求め人が集まり、人が集まるところには商いが生まれる。運河沿いに商店や宿が軒を連ね、民は潤い、助力した領主へも富をもたらした。
やがて、運河は、大国全土へと伸びた。国王は各領地への御幸を積極的に行い、魔力を持たぬ民の教育にも尽力した。学び、知識を得た民は、更なる富を手に入れ、それを見た民は教養を求めた。様々な発明品が生まれ、生活水準が向上し、人口も増えた。
古代四大文明を育んだ大河のように、運河はグランドール大国を益々の繁栄へと導いた。
この運河建設は、流通の要となると同時に、民に知識という財産をもたらし、人々の人生を明るく楽しいものに変えた。徳高き賢明王バージルの偉業は、後の世まで語り継がれた。
無論、本来の目的が遊山だと言うことは、バージルとウィリアムのみが知る極秘事項である。
◇◇◇
ノーブレス・オブリージュ
「位高ければ徳高きを要す」
財産、権力、社会的地位の保持には義務が伴う。
魔力を持つ者は、五万人に一人の割合だ。
魔力持ちによって、この世界は支配されている。
魔力持ちの子でも、魔力を持たない者もいる。
故に、原則、王位も爵位も世襲制ではない。
◇◇
時は、アルバート洗礼の儀式直後に遡る。
グランドール大国を治める現国王バージルは、ウィリアムの従兄だ。正確に言うと、ウィリアムの亡き母と国王バージルの亡き父は姉弟である。国王の兄弟姉妹は皆、夭逝した為、公爵位は存在しない。故に、能力だけではなく、血統においても高位貴族であるウィリアムは王位継承権一位に据えられている。バージルとウィリアムは年が近い皇族とあって、幼い頃より、比べられる事が多かったが、当の本人達は仲の良い従兄弟同士だった。
ウィリアムの豪快で竹を割ったような快活な性格がバージルは大好きだ。
見事な差配と細やかな気遣いの出来るバージルをウィリアムは尊敬している。
「陛下。ナイトレイ侯爵令息アルバート様の魔力鑑定結果をお持ち致しました」
「ほう。これは…」
【心眼】の特殊能力を持つ文官アイザック・モルガンの報告に、バージルは満足したようにほくそ笑んだ。
◇◇
【心眼】相手の真意を知る能力。
嘘偽りは通じない。本人すら気付かない本質や能力を見極める事が出来る。
◇◇
先日、シルヴィア婚約の一報を受け取った。受理したものの、為て遣られた感が拭えない。
間もなく洗礼を受ける第一王子ルーカスとの婚約を勧めようとした矢先に、先手を打たれてしまった。まあ、シルヴィアは四歳、ルーカスは六歳の子どもだ。この先どうなるか、神のみぞ知るところ。婚約など、どうとでもなる。
とは言え、ルーカスの魔力は恐らく平均値程度。素直な良い子だが、ウィルが納得するシルヴィアの婚約相手でないことは承知している。それにしても、アルバートの魔力は六歳とは思えん。一体どの様な教育を施しているのか、従弟殿に是非ともご教示願いたいものだ。このまま成長すればウィルを超えるだろう。加えて、フローラ譲りの美貌と知性の持ち主と聞く。楽しみがまた一つ増えた。
「この事、他言無用とする」
「御意」
魔力鑑定結果を知るのは、【祝福】持ちのモルガンと国王であるバージルのみだ。
モルガンの【心眼】は異質で、遠方にいる人物の能力を、媒体を介して見ることができる唯一無二の逸材だ。
優秀な人材を確保する為に始めた洗礼の儀式だが、悪用されてはならぬ。才能を見いだし、育て、守ることも国王の大切な務めだ。
バージルは、自分を王の器ではないと思っている。ただ、時勢が自分を王位に就かせた。
バージルは、我が子ルーカスに王位を継ぐことを望んでいない。原則、王位も爵位も世襲制ではないグランドール大国では、当然と言えば当然の事だ。グランドール国が、大国になり約三百年間、治政が安定しているのは、王位を世襲ではなく、実力で継承した結果だと考えている。我が子は可愛いが、王の器かと問われたら、はっきり否と答える。これからの成長次第では、と期待もしているが、恐らく、アルバートを超える事は出来まい。
バージルは、人の適性を見抜き、適所に配する能力に長けている。実は【心眼】の特殊能力を有する【祝福】持ちである。故に賢明王と名高い名君だ。
バージルの人々を心服させる力に、ウィリアムも敬意を抱いている。が、バージルに冷遇された貴族は、ウィリアムを担ぎ上げようと目論んだ。不穏な動きをいち早く察知したウィリアムによって成敗されたが、下らない権力闘争にうんざりしたウィリアムは王位継承権の放棄を一方的に宣言して、自領へ移った。
アルバートを次期国王に据えたいが、王位継承権を与えるのは時期尚早だ。ウィリアムに無体を強いたならば、独立すると言い出しそうだ。だが、かえって好都合なくらいだ。ナイトレイ家に大国の統治を任せれば、安泰だ。
魔力持ちも、万能ではない。なのに「生まれながらに選ばれし者」と自惚れる愚かな貴族も残念だが存在する。民あってこその国だと分かっていない。ナイトレイ家やガルシア家のような領民に慕われる貴族は稀なのが現状だ。
バージルは、王たる者の資質をウィリアムとアルバートの親子に見出していた。ある意味、執着とも言える程に王位継承を望んでいる。
「確か、ガルシア卿の嫡男が王都に居ったな」
「確認いたします」
どんな些細な情報にも価値がある。ガルシア卿の息女はウィリアムに仕えている。仲の良い兄弟であれば、頻繁に文のやり取りもあろう。
それにしても、ナイトレイ領は遠すぎる。ウィル自慢の温泉にも入りに行けぬではないか。
移動手段の確保は急務だな。荷の運搬の為に運河でも築くか。緊急の連絡だけでも、モルガンの編み出した水晶媒体を応用できぬものか。或いは、風魔法で鳥のように空を飛ぶ…、防音魔法の原理を応用して、遠方でも音を拾えるように…、光はどうだ!うーむ、光の信号では、天候に左右されるか…。ならば、異空間を繫ぐような特殊能力…は、聞いたことがないな。
やはり、運河だな。決めた。
「運河を築く。地図を持て。地理、地質に長けた者を呼んでくれ」
速やかな物流を建前に、ナイトレイ領と王都を結ぶ運河建設が急速に進められた。運河建設の予定地に選ばれた領主達は国から提示された経済効果予測に大いに喜び、助力を惜しまなかった。土魔法と水魔法を操る若い武官と文官は故郷の普請に尽力した。
運河には、新たな職を求め人が集まり、人が集まるところには商いが生まれる。運河沿いに商店や宿が軒を連ね、民は潤い、助力した領主へも富をもたらした。
やがて、運河は、大国全土へと伸びた。国王は各領地への御幸を積極的に行い、魔力を持たぬ民の教育にも尽力した。学び、知識を得た民は、更なる富を手に入れ、それを見た民は教養を求めた。様々な発明品が生まれ、生活水準が向上し、人口も増えた。
古代四大文明を育んだ大河のように、運河はグランドール大国を益々の繁栄へと導いた。
この運河建設は、流通の要となると同時に、民に知識という財産をもたらし、人々の人生を明るく楽しいものに変えた。徳高き賢明王バージルの偉業は、後の世まで語り継がれた。
無論、本来の目的が遊山だと言うことは、バージルとウィリアムのみが知る極秘事項である。
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