綺麗な花には、棘がある ~短編集~

なる

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7話 ニーレンベルギア

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~神と人間~

ある日、神は病にかかってしまいました。

その病とは、恋。

神は、人間と恋をし、想いをつげたら死んでしまいました。

それから神の中では、人間との恋は禁止されてしまいました。

~おわり~

このお話は、あたしのお婆ちゃんがよく読んでくれたお話。

こんなのあるわけないってお婆ちゃんに言ったら、本当にあるんだよって言われた。

だけど、それは本当にあったんだ。

あたしは、彼と出会ってしまった。

決して、恋をしてしまってはいけない彼に。



「ねぇ、どうしたの?」

見知らぬ少年に話しかけられる。

あたしと同い年くらいだろうか?

「別に、大事な物をなくしたから探してんの」

あたしは、ぶっきらぼうに返事する。

「じゃあ、僕も探すよ」

そう言い、少年はあたしの真似をして草むらをガサガサと探す。

「そんなの頼んでないから!」

あたしは、何でか知らないけど無性に腹がたった。

大事なものをなくしたからってイライラしているのかもしれない。

「うん。別に君のためじゃないから。これは僕のただの自己満足のためにやってるだけだから」

あたしのことを少年は、お構い無しと探しつづけてる。

なんだ...こいつ?

あたしは、不思議でたまらなかった。

それと同時に興味が湧いてしまう。

「それで、どうゆうものを探しているの?」

少年が、こっちを向く。

少年の目は、青く澄んでいてとても綺麗だった。

「綺麗...」

あたしは、ついつい口にしてしまう。

「なにが?」

少年は首を傾げる。

「いや、ただ目がとても綺麗だなって思って」

「どうもありがとう」

少年は、朗らかに笑った。

とても嬉しそうに。

その笑顔が目に焼き付く。

「で、落とした物ってなに?」

「青いリボンがついたピン留め」

「えっ!もしかしてこれ?」

そう言って、自分のポッケをガサガサと探って出したものは、青いリボンのピン留めだった。

「これ!何であんたが持ってんの?」

「いや、たまたま拾っただけ」

「よかったー!」

「うん。よかったね」

少年は、まるで自分のことのように嬉しそうに笑う。

「ねぇ、名前は?」

「葵」

「いい名前だね」

あたしが、そう言ったら顔が真っ赤になる。

「なんで、顔赤くなってんの?」

「べつに!」

葵は、顔を手のひらで隠す。

「熱でもでたの?」

あたしは、心配して葵の手を取ろうとした。

「違うから!夕日のせいだから!」

「はぁ?」

意味の分からないことを言う葵。

葵って面白いなってこの時は思っていた。

ただ、それだけだった。

この時までは。

それから、あたしと葵は頻繁に会うようになり、あたしは葵のことが好きになっていった。

「葵はさ、好きなひといるの?」

「いるよ」

いるんだ...

きっと、あたしではないよね。

「告白しないの?」

「告白したら好きなひと困っちゃうから」

ああ、絶対あたしではない。

あれかな...彼氏がいる子かな?

「...そうなんだ」

失恋か...

「琴音は、好きなひといるの?」

葵が真面目な顔をして言う。

「うん...いるよ」

「そうなんだ...」

どうしよう。

葵にバレてないよね?

「僕さ、琴音のこと好きだよ」

「え!?」

「だから、琴音のこと好きだよ」

葵は、ニコニコして言う。

だって、さっき告ったら困るからって言ってたんじゃん!

「じゃあ、さっき言ってたのは、どうゆうことなの?」

「それよりも、先に返事聞きたいな」

葵がじっと、あたしの目を見るから恥ずかしくて葵の顔が見れなかった。

「す、好きだよ」

「そっかー!」

とても嬉しそうに葵は、はしゃいだ。

「で、さっきのはどうゆう意味なの?」

この話しに戻ったら、葵は悲しい顔をする。

「実はね、僕ね、人間じゃないんだよね」

「はぁ?なにそれ、ふざけてんの?」

「いやいや、ふざけてないよ。これからするのは本当の話しだよ」

「どうゆうことなの?」

「えっとね、んー、まあ簡潔に言うと、死んでるってことかな?」

なにそれ...

てことは、幽霊ってこと!?

あたしは、驚きすぎて口をパクパクしてしまう。

まるで、死にかけた魚のように。

「もちろん、生きてたときは人間だったよ。で、今はここの神様をやってるんだ」

葵が指をさしたのは、川だった。

なんとも、汚い川。

お世辞でも綺麗とは言えないくらいの。

お菓子の袋や、ペットボトルなど散乱している。

夏になると、臭いがキツイときもある。

「まって、どうゆうこと?あんまり、整理できてないんだけど」

「だから、僕は神様ってこと」

葵は、ドヤ顔でそう言う。

「誰がそんな、ふざけた話し信じるって、言うの!」

バカバカしくなってく。

自分でも何を信じればいいのか分からない。

葵を信じればいいのか、自分を信じるのか。

「琴音なら信じてくれると思ってたのにな...」

葵は、今までで1番悲しい顔をする。

もしかしたら本当なのかな?

そういえば、昔お婆ちゃんがよく読んでくれたお話...。

内容を思い出したら、顔が真っ青になってしまう。

だって、葵が本当に神様だとしたら、葵が死んじゃうのでは...?

「わかった。信じるよ」

「よかったよかった。だけど琴音ごめん」

「なにが?」

「僕ね、もうすぐいなくなるよ」

葵は、半泣きだった。

「どうゆうこと...?」

「神と人間っていう話知ってるでしょ?」

「うん」

「そうゆうことだよ」

「ちょっと待って!どうゆうことよ!どうして葵が死ななければいけないの!」

「神は、人間と恋をしてはいけない。そうゆうこと」

じゃあ、葵があたしのことを好きになったから?

じゃあ、嫌いになればいいじゃない!

「葵のバカ!葵なんか嫌い!」

あたしも、泣いてしまう。

ああ、葵のがうつってしまったのだろうか。

普通は、こんなこと信じないはずなのに、葵の顔を見たら信じてしまう。

「無理だよ。僕は、本当に琴音のことが好きなんだよ。嫌いになんてならないよ」

葵の体は、だんだん消えてしまう。

どうして、どうして!

「嫌いになりなさいよ!」

あたしが大声で叫ぶ。

きっと、生きていた中でこんなに叫んだのは初めてであろうくらいに。

「琴音大好きだよ」

葵の顔は、泣いてぐちゃぐちゃになっていた。

「なんで!どうして、あなたは、あたしの前に現れたりしたのよ!」

「どうしてって、それは琴音が困ってたからだよ」

あたしと葵が出会わなければ、葵は死なずに済んだのに。

どうしてこうなってしまうの。

そう言っている間に、葵の体はもう胸のところまで消えていた。

「葵!あたしも、大好き!これからもずっと」

あたしは、葵の唇にそっとキスをした。

葵との初めてで最期のキスは、涙の味で悲しいキス。

「琴音、ありがとう」

そう言った葵の顔は、今でも忘れられない。

葵が、消えたとき花びらが1弁だけ、あたしの手のひらに落ちた。

その1弁は葵の温もりを感じた。

その1弁を、しおりにして今でも持っている。




葵が消えてから、10年以上経った。

あたしは、今年で30歳になった。

「琴音センセー!まだ彼氏いないのー?」

「彼氏なんてたくさんいるよ?」

「いないんだ~!」

「いいから、早く教室に戻りなさい!」

あたしは、将来の夢だった先生になることができた。

葵が、琴音は先生になったら生徒に好かれそうな性格してるよね。って言われたのがキッカケかな。

だけど、生徒に彼氏がいないとかで、からかわられてしまう。

まあ、それもそれで楽しいからいいんだけど...

親にも、早く結婚しろって言われるけど葵のことが未だに忘れられない。

まるで夢のようだった頃。

今では、本当に夢だったのではないのかって思う。

だけど、夢ではない。

だって、ここに葵の花びらがあるのだから。

花びらのしおりは、いつもお守りとして持ち歩いている。

葵を感じるから。

「琴音先生、そろそろ帰っても大丈夫ですよ」

「ありがとうございます!」

あたしは、そそくさと職員室をあとにする。

すると、隣の部屋から何かの物が落ちた音がした。

あたしは、なんだろうと思い、音がした部屋に入ると、見たことない男の子がいた。

「こ、こんにちは」

「こんにちは」

挨拶してる場合じゃない。

だって、ここの生徒の制服ではないのだから。

「もしかして中学生?」

「はい!そうです!」

男の子は、笑顔で応える。

その笑顔が誰かに似ている気がした。

誰だっけな...?

「どうしてここにいるの?他校の生徒は入っちゃダメなんだけど...」

「すみません!えっと、来年ここに受験しようと思ってて、それで偵察に」

「はぁ、偵察にね...ダメに決まっているでしょ!大体、どっから入ってきたのよ」

「えっと、正門だと人がいっぱいいてバレそうだったので、裏門からこっそり入ってきちゃいました」

男の子は、テヘへと笑う。

その笑顔は、誰かと重なる。

「今回は、黙っといてあげるから早く帰りなさい」

「ありがとうございます!」

男の子の後ろ姿を見て、葵と重なって見えた。

「ねぇ!名前は...?」

「僕の名前ですか!?」

男の子は、葵の笑顔でこう言った。

「周防 蒼です!」

「......葵?」

そのとき、花びらがヒラっと舞い落ちた。

そういえば、あのお話には続きがあった。


生まれ変わって、また出会う。

また2人は、結ばれるだろう。




fin


ニーレンベルギアの花言葉
「心がなごむ」
「許されざる恋」
「楽しい追憶」
「清楚」
「平和」
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