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19話 彼岸花

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僕は、決して愛していけない人を愛してしまった。

僕は喰種だ。

人間を捕獲しては食う。

そして、ある少女も檻の中に入れられ、食われるときを待っている。

「また、泣いてんの?」

少女は、鼻をすする。

「お母さんに会いたいよっ」

「そう...」

僕は、少女の監視役だ。

少女は、毎晩この時間帯に鼻をすすっては泣いている。

いい加減呆れてきた。

だけど、そんな姿もふと、ときめいてしまうんだ。

きっと、一目見た瞬間から恋に落ちてしまっていたんだろう。

不覚にもほどがある。

こんなことあってはならないのに。

必死にこの想いを消そうとするが、なかなか消えてくれない。

消えたと思ったら、また現れてしまう。

もう、うんざりだ。

僕は、腹が減ったので食堂に行こうとする。

「ねぇ」

後ろから声をかけられ、女に腕に胸を押し付けられる。

「やめろよ。離せ」

「そんなこと言わないでよぉ」

女の甘ったるい声が気持ち悪さを増してゆく。

「きめーんだよ」

「はぁ!?うざ!」

そう言いながら女はどっか行った。

普通ならあーゆー女にときめいたりするものなのだろうか。

だけど僕は不快しか抱かなかった。

ああ、早く少女に会いたい。

こんな想い初めてだ。

僕は、必要な食料だけ持って少女のとこへ戻った。

檻の中を覗くと、少女は気持ちよさそうにスヤスヤと眠っていた。

口をムニャムニャさせていて、可愛かった。

ついつい顔がにやけてしまう。

少しの間目を離すと少女は泣き出していた。

「お母さん!」

「どうした?」

「いやだ!家に帰りたいよぉ」

「それは...」

僕が言いかけたときに重ねて言われる。

「ダメなの?」

「ああ。僕に言われても無理だ」

「そっか...だけど、あなたは優しいから好きよ!お兄ちゃん優しいもん!」

「僕は優しくなんかないよ」

ああ、優しくない。

だって、君が逃げないように監視しているんだ。

君から見たら僕のことは敵になるだろう。

だけど...

君のためなら僕は自分を犠牲にしてでも救ってやるよ。

「大丈夫。お兄ちゃんは優しいよ」

そう言って、少女は大人びた表情をする。

ああ、やっと、決心がついたよ。

僕は君が好きだ。

「ねぇ、ここから逃げたいでしょ?なら、僕の言う通りにして」

「え?出られるの!?」

「うん。僕の言う通りにすればね」

「やった!ありがとう」

少女は、まるで天使のような微笑みをする。

そして、僕は檻の鍵を持ってきて少女を逃がしてあげた。

「早く逃げろ!!!」

「お兄ちゃんは?」

「僕のことはいいから、後ろを振り返らずに行け!僕もあとで行くから!」

「わかった!」

そう言い、少女は走っていってしまう。

本当は待って、と言いたい。

「あいつだ!人間の味方をした喰種は!」

後ろからどんどん近づいてくる敵の声。

「裏切り者!」

色々な罵声が聞こえてくる。

ちゃんと君が逃げられていますように。

家族のもとに戻れていますように。

元気でいられますように。

決して後ろを振り向かないように。


僕は死ぬ寸前まで少女の幸せを祈った。





「お兄ちゃん、まだかな?」

芝生の上に寝そべりながら、そう呟く少女。

その少女の横には、彼岸花が咲いていた。


fin

彼岸花の花言葉
「情熱」
「独立」
「あきらめ」
「再開」
「悲しい思い出」
「思うはあなた1人」
「また会う日を楽しみに」


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みんなの感想(9件)

花雨
2021.07.23 花雨

お気に入り登録させてもらいました(^o^)陰ながら応援してます。

解除
有魅絵 恵
2017.07.10 有魅絵 恵

アネモネ!
正直びっくりです。僕はClariSというユニットが好きなんです。いや、何の話をしてるんだこいつ?と思われるかもしれませんが曲を聴きながら書いていたらこの「アネモネ」が出てきました。曲はアネモネ。きせーきてきー!
という事なんでまたまた感想書いちゃいました。
やはり、おもしろ、かった……っ!
それではまたまたー!

《甘いものは苦手。 有魅絵恵でした》

なる
2017.07.10 なる

それはすごい偶然ですね!
毎回毎回いつも読んでいただき、ありがとうございます!
いつも感想を頂けて、励みにもなりますし、また書こう!っていう気持ちになります!
なるべく早く更新できるように頑張ります(*^^*)

解除
有魅絵 恵
2017.07.08 有魅絵 恵

アルストロメリア、ファンシーなあの世界観!僕の琴線に触れまくりました!恋の話、ではなかったですよね。妖精さんですし。
このシリーズは今とてもハマっています。いや今も、かな?
更新される度にとても嬉しくなります!
いろんな作品を見てきましたが特にアルストロメリア、好きです。
最後はいつも同じになってしまいますが、これからも執筆頑張ってください!楽しみにしております。僕の作品の命くんも応援してますよー!

《ハッピーエンドに魅せられた作家、有魅絵 恵より》

なる
2017.07.08 なる

いつもありがとうございます!
ふと、妖精さんを書きたくなり書いてみました!
次回も読んでいただけると嬉しいです!
執筆頑張りたいと思います!

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