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14話 やらかし②

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 半ば無理やりリリアを店から引き剥がす。

「わわっ! どうしたんですかマリウス様?」

「あまり他の奴とべらべら話すな。俺とお前は一応お忍びで来てるんだぞ」

 だというのに、彼女は能天気なものだ。

 それもリリアの魅力といえば魅力なのかな? 交際経験ゼロすぎてサッパリわからんが。

「あ……そうでしたね。すみません」

「わかればいい。それよりほら、串焼きだ。火傷しないように気を付けろよ」

「ありがとうございますマリウス様。いただきます……」

 もぐもぐもぐ。
 何の躊躇もなくリリアは一口。
 よく噛み締めてから笑みを浮かべた。

「なんだか不思議な味がします。味付けが濃いのでしょうか?」

「もぐもぐ……そうだな。調味料を多く使った荒い味付けだな。満足感優先なんだろう」

 俺やリリアみたいな貴族、王族とは違い、一般市民は基本的に品質より量を取る。

 その上で味付けが雑なのは、それが一番手に入りやすい調味料だからだろう。

 前世日本でも、安いものは庶民に好まれていた。俺もよく買ってた。格安の食べ物とか。

「なるほど。これはこれで美味しいですね。一本で十分ですが」

「同感。水が欲しくなる」

 すでに喉がからっからになっている。

 ただでさえ焼いた肉なのだ。そこにスパイスの味が余計に水分を求めようとする。

「でもマリウス様は三本買ってませんでしたっけ? 大丈夫ですか?」

「ああこれか。あと一本は俺のじゃないよ。向こうでこっちを睨んでるお嬢様のだ」

「セシリアの?」

「一緒なのにのけ者にするのは嫌だろ? あとは餌付けだな。賄賂賄賂」

「賄賂……ふふ。マリウス様は悪人ですね」

「まあな。俺は極悪人なんだ。秘密にしてくれよ?」

「わかりました。婚約者として私も悪女になりましょう」

 リリアが悪女って……。
 お前、れっきとしたゲームのメインヒロインなんだぞ。
 悪役どころか主役だ。

「おいセシリア」

「な、何よ」

「お前も食べるだろ串焼き。こういう経験もいいものだぞ」

「串焼き? わざわざ私の分まで買ってきてくれたの……?」

「ああ。一応、一緒にいるしな」

 そう言って俺は残り一本の串焼きを渡す。
 毒味がなんだと回りはうるさいが、焼いた物だし平気だよ多分。
 仮に毒があってもリリアがいるから平気だ。

 俺から串焼きを受け取ったセシリアは、串焼きと俺を交互に見たあと一口食べた。

「……意外と美味しいわね」

「だよな。味は濃いけど」

「私は嫌いじゃないわ。疲れた時にはもっと美味しく食べれそう」

「疲れたとき……か。そういう見方もあるんだな」

「私はむしろ疲れた時はさっぱりしたものが食べたいですけどね」

「人それぞれだな。どちらかと言うと俺はセシリア派だ。ガッツリしたものを食べたくなる」

「へぇ……意外ね。リリアと同じだと思ってた」

「言ったろ、人それぞれだって。まあ気分にもよるだろうが」

「確かにね。もぐもぐ……ごくん。ごちそうさま。串焼きありがとう。お金出すわよ」

 そう言ってセシリアが懐からお金を取り出そうとする。
 俺は手を前に出して止めた。

「それくらい奢られろ。たいした額じゃない」

「嫌よ。あなたに貸しを作りたくない」

「別に貸しとは思ってないから安心しろ」

「ダメ」

「いらん」

「「…………」」

 バチバチバチ。
 俺とセシリアの間で不毛なやり取りが発生する。
 先に折れたのは俺の方だった。

「わかったよ。なら、今度何か奢ってくれ」

「……は? それって……っ!?」

 俺の言葉をどう解釈したのか、セシリアの顔が真っ赤になる。
 俺が首を捻ると、彼女は勢いよく踵を返して後ろを向いた。

「ば、バカ! リリアがいるのになに言ってるのよ! いいからさっさとお金を——」

 キレながら懐から硬貨を取り出すセシリア。
 動揺してまたしても勢いよく振り返った彼女は、しかし今度は地面に躓き体勢を崩す。

「おっと」

 それを俺が前へ出て支えた。
 ちょうど彼女の顔が俺の胸元にすっぽり埋まる形になる。

「————」

「おい平気かセシリア。落ち着かないと危ないぞ。怪我なんてしたら俺が怒られる」

 俺の胸元に顔を埋めるセシリア。
 話しかけているのに反応がない。
 そう思っていたら突然、小刻みに震えだした。
 そして、

「…………ッ!?」

 声にならない叫びを上げて、彼女はバッと俺から離れる。
 先ほどより更に顔を赤くさせて、

「い、いや————————!!」

 絶叫。
 次いで、一目散に彼女は彼方へと消えていった。

「な、なんだ? バグッたのか……?」

 どこかへ消えたセシリア。
 俺は困惑しながら彼方を見つめる。

「あらあら……これは実に、面白いことになりましたね」

「リリアはなにか知ってるのか?」

「いえ。私にもサッパリわかりません。どうしたんでしょうね、セシリアったら」

 そう言いながらも彼女は満面の笑みを浮かべていた。

 この顔は絶対に知ってる奴の顔だ。
 しかし言えないということは……女同士のなにかだろう。
 異性のあれやこれやに興味がない俺は、一瞬にしてセシリアの奇行を頭の片隅に追いやった。

 食べ終えた串焼きをゴミ箱へ放り捨て、リリアとのデートを再開する。
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