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15話 初恋なんて認めません!
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リリアとマリウスがデートを楽しんでる中、その場から逃走したセシリアは人の少ない路地裏で自らの胸元を必死に押さえていた。
「ハァ……ハァ……! ど、どうして胸がこんなにも苦しいの! ちょっとマリウスに助けられて触れられただけでしょ!?」
彼女は自問自答する。
おかしくなったのは何時からだと。
明確にそれを意識しはじめたのは、間違いなく洋服屋の時だろう。
マリウスが「あのドレスはお前に似合うと思った」的なことを言い、それを聞いた時から彼女の心臓はやたらうるさい音を立てる。
理由はよくわかっていない。
それはセシリアにとって初めての感情だったから。
これまで厳格な父のもとで真っ直ぐに成長してきた彼女。
付き合いも家族を除けばほとんどリリアとしか関わっていない。
無論、両親の意向もあるのだろうが、それにしても彼女は初心だった。
だからだろう。リリアと同じく絵本の王子様に憧れてしまったのは。
さらっと嬉しい言葉を告げるマリウス。
さらっと自分のことを気にかけてくれたマリウス。
さらっと自分を助けてくれたマリウス。
その全てがセシリアの胸をときめかせた。
「……しかし、男性の体は……意外と大きかったな」
頬を赤くしながら小さく呟くセシリア。
呟いてから自分が何か恥ずかしいことを口走ったと気付き更に頬を赤くする。
まるで茹ダコみたいになってた。
「——って、なんて馬鹿なことを言ってるんだ私は! ちょ、ちょっと自分より大きな体に触れたからと言って……触れたから、と言って……」
口にするとまた思い出してしまう。
マリウスの温かな体温。それに意外と逞しい胸板。
子供だからさほど胸筋はなかったが、それでもセシリアにとっては安心できる感触だった。
恥ずかしいようで嫌じゃない。複雑な気持ちすら思い出す。
すると、彼女を追っていた二人のメイドがようやく路地裏に隠れたセシリアの下に追いつく。
荒い呼吸を繰り返して彼女たちは言った。
「お、お嬢様……いきなり走り、出さないでください……」
メイドの二人は玉のような汗をかいていた。
それを見るとさすがにセシリアも申し訳なくなる。
「あ、ごめんなさい二人とも。ちょっと恥ずかしくなっちゃって……」
「恥ずかしく?」
呼吸を整えたメイドの一人が、汗を浮かべたまま顔を上げてから首を傾げた。
はっとセシリアは顔を真っ赤にさせる。
「っ! なんでもない! なんでもないわ!」
何度も否定するセシリア。
しかし、メイドの彼女はどこか悪戯めいた表情を作る。
「? 私はてっきりお嬢様がマリウス様に惚れたのかと思いました」
「はあ————!? どうして私があんないけすかない奴に惚れなきゃいけないのよ!」
「いや……ものすごい乙女の顔してたじゃないですか。きっとリリア王女殿下も気付いてましたよ。気付いた上で、「まあ幼馴染だからいっか」って顔してましたよ」
「なによそれ! 私、リリアにそんな勘違いされてたの?」
「勘違いなんですか?」
「当たり前でしょ! 私に恋愛なんてまだ早いし……マリウスは、リリアの婚約者じゃない……」
「マリウス様は公爵令息。同じセシリアお嬢様なら第二夫人になれますよ」
「だからちが————う!! 私はぜんぜんあいつに惚れてなんかないの!」
「はぁ……でしたらどうして逃げたんですか?」
「その……急に胸が苦しくなったのよ」
「マリウス様に抱かれて?」
「うん……」
「マリウス様を見ると恥ずかしくなると」
「え、ええ……」
「…………」
メイドがお互いを見合う。
その視線の中には、「これ絶対に惚れてるやつじゃん。初恋だから本人気付いてないよ」という言葉があった。
数秒後、メイドは頷きあい、
「セシリア様、おめでとうございます。それは間違いなく初恋というやつですね。優しくされて助けられてうっかり惚れてしまうなんてちょろ——ではなく、素敵な出会いかと」
「結局そうなるの!? 違うって言ってるじゃない! しつこいわよあなた達!」
セシリアは断固として認めない。
「確かにマリウスはわりと顔は整ってるし性格も変わったみたいだし前よりいい印象を抱いたのは確かよ? けど、それが=恋に落ちたなんて発想、陳腐すぎて笑っちゃうわ」
「……ですがセシリアお嬢様」
「なによ」
「お顔がものすごく真っ赤になってますよ?」
「なあっ!?」
赤い果実のごとく真っ赤に熟れたセシリア。
図星を突かれて狼狽する。
「もう、うるさいわよあなた達! いい加減にしなさい! 私は帰ります! 帰って勉強しないと……」
「あ、セシリアお嬢様! 待ってください! 今度は私たちを置いていかないでください」
くるりとその場で反転したセシリアは、ずんずんといじけて路地裏の奥へ行ってしまう。
その先には彼女の家がある通りへと出られる。
怒り照れながらも意外と彼女は冷静だった。
否。
「…………私が、初恋だなんて……なんて!!」
一周回って焦りすぎて早く自宅へ帰りたいのだろう。
ぶつぶつ独り言を呟きながら彼女はメイドを無視して早足で歩き続けた。
ちなみにその後の勉強は、まったく捗らなかったという。
「ハァ……ハァ……! ど、どうして胸がこんなにも苦しいの! ちょっとマリウスに助けられて触れられただけでしょ!?」
彼女は自問自答する。
おかしくなったのは何時からだと。
明確にそれを意識しはじめたのは、間違いなく洋服屋の時だろう。
マリウスが「あのドレスはお前に似合うと思った」的なことを言い、それを聞いた時から彼女の心臓はやたらうるさい音を立てる。
理由はよくわかっていない。
それはセシリアにとって初めての感情だったから。
これまで厳格な父のもとで真っ直ぐに成長してきた彼女。
付き合いも家族を除けばほとんどリリアとしか関わっていない。
無論、両親の意向もあるのだろうが、それにしても彼女は初心だった。
だからだろう。リリアと同じく絵本の王子様に憧れてしまったのは。
さらっと嬉しい言葉を告げるマリウス。
さらっと自分のことを気にかけてくれたマリウス。
さらっと自分を助けてくれたマリウス。
その全てがセシリアの胸をときめかせた。
「……しかし、男性の体は……意外と大きかったな」
頬を赤くしながら小さく呟くセシリア。
呟いてから自分が何か恥ずかしいことを口走ったと気付き更に頬を赤くする。
まるで茹ダコみたいになってた。
「——って、なんて馬鹿なことを言ってるんだ私は! ちょ、ちょっと自分より大きな体に触れたからと言って……触れたから、と言って……」
口にするとまた思い出してしまう。
マリウスの温かな体温。それに意外と逞しい胸板。
子供だからさほど胸筋はなかったが、それでもセシリアにとっては安心できる感触だった。
恥ずかしいようで嫌じゃない。複雑な気持ちすら思い出す。
すると、彼女を追っていた二人のメイドがようやく路地裏に隠れたセシリアの下に追いつく。
荒い呼吸を繰り返して彼女たちは言った。
「お、お嬢様……いきなり走り、出さないでください……」
メイドの二人は玉のような汗をかいていた。
それを見るとさすがにセシリアも申し訳なくなる。
「あ、ごめんなさい二人とも。ちょっと恥ずかしくなっちゃって……」
「恥ずかしく?」
呼吸を整えたメイドの一人が、汗を浮かべたまま顔を上げてから首を傾げた。
はっとセシリアは顔を真っ赤にさせる。
「っ! なんでもない! なんでもないわ!」
何度も否定するセシリア。
しかし、メイドの彼女はどこか悪戯めいた表情を作る。
「? 私はてっきりお嬢様がマリウス様に惚れたのかと思いました」
「はあ————!? どうして私があんないけすかない奴に惚れなきゃいけないのよ!」
「いや……ものすごい乙女の顔してたじゃないですか。きっとリリア王女殿下も気付いてましたよ。気付いた上で、「まあ幼馴染だからいっか」って顔してましたよ」
「なによそれ! 私、リリアにそんな勘違いされてたの?」
「勘違いなんですか?」
「当たり前でしょ! 私に恋愛なんてまだ早いし……マリウスは、リリアの婚約者じゃない……」
「マリウス様は公爵令息。同じセシリアお嬢様なら第二夫人になれますよ」
「だからちが————う!! 私はぜんぜんあいつに惚れてなんかないの!」
「はぁ……でしたらどうして逃げたんですか?」
「その……急に胸が苦しくなったのよ」
「マリウス様に抱かれて?」
「うん……」
「マリウス様を見ると恥ずかしくなると」
「え、ええ……」
「…………」
メイドがお互いを見合う。
その視線の中には、「これ絶対に惚れてるやつじゃん。初恋だから本人気付いてないよ」という言葉があった。
数秒後、メイドは頷きあい、
「セシリア様、おめでとうございます。それは間違いなく初恋というやつですね。優しくされて助けられてうっかり惚れてしまうなんてちょろ——ではなく、素敵な出会いかと」
「結局そうなるの!? 違うって言ってるじゃない! しつこいわよあなた達!」
セシリアは断固として認めない。
「確かにマリウスはわりと顔は整ってるし性格も変わったみたいだし前よりいい印象を抱いたのは確かよ? けど、それが=恋に落ちたなんて発想、陳腐すぎて笑っちゃうわ」
「……ですがセシリアお嬢様」
「なによ」
「お顔がものすごく真っ赤になってますよ?」
「なあっ!?」
赤い果実のごとく真っ赤に熟れたセシリア。
図星を突かれて狼狽する。
「もう、うるさいわよあなた達! いい加減にしなさい! 私は帰ります! 帰って勉強しないと……」
「あ、セシリアお嬢様! 待ってください! 今度は私たちを置いていかないでください」
くるりとその場で反転したセシリアは、ずんずんといじけて路地裏の奥へ行ってしまう。
その先には彼女の家がある通りへと出られる。
怒り照れながらも意外と彼女は冷静だった。
否。
「…………私が、初恋だなんて……なんて!!」
一周回って焦りすぎて早く自宅へ帰りたいのだろう。
ぶつぶつ独り言を呟きながら彼女はメイドを無視して早足で歩き続けた。
ちなみにその後の勉強は、まったく捗らなかったという。
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