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第九章 アルベート王国に乗り込みます
これも恩返しの一つです
しおりを挟む「――わかった。コウとシアが許可したなら、俺は何も言わない。だが、これから住む場所は王宮じゃない。自分のことは自分でやれ」
相変わらず、レアルさんはブレませんね。アーウィン殿下と一緒に現れた時は、珍しく驚いた表情を見せていたのに。
「昔から一人でやっていた。大概のことは一人でできる」
レアルさんの口調に苛立つことなく、アーウィン殿下は答えます。その様子を見て、レアルさんはさっきの話が、大袈裟なものではないと確信したようですね。
「それで、荷物はそれだけか?」
やや柔らかくなったレアルさんの質問に、アーウィン殿下は小さく頷きます。
アーウィン殿下の手には大きい鞄が一つ。その中に、学用品や制服、普段着る衣服などの日用品が入っているのです。一年分のね……平民の方がまだ物を持っていますよ。
「ああ、これで全部だ。取りに戻る物は何一つねーよ」
これには、殿下もレアルさんも顔を歪めます。とうぜん、私も。
アーウィン殿下に支給されるはずのお金は、一体何に使われたのでしょう。
国王陛下が全て公にすると仰っていましたが、おそらく、自分の美容と地盤作りで大半は消えたのでしょうね。
血は繋がってはいなくても、息子である殿下を暗殺しようとし、色なしだからという理由で、切り捨てた実子のお金を勝手に使う。王妃殿下は私の毒親よりも毒親で屑ですね。民の税金を本来の目的以外に、私利私欲のために使っただけでなく、年端もいかない子供の時から搾取し続けたのだから。
そしてそれは、長年バレずに行われ続けた。
王妃殿下一人ではまず無理でしょう。甘い汁を吸い続けた者も多数いたでしょうね。それも、かなり高位の役職に就いている者が。例えば、財務相の中枢とかね。確か……王妃殿下の実父は財務大臣だったはず。実兄たちも文官や騎士として、それなりの地位にいましたね。
腐り切ってますね。
王妃殿下を中心として、時間を掛けて伸ばしていた根は、もはや、アルベート王国の政治の根本まで伸びています。国王陛下、どこまで切り込めるでしょうか? 見ものですね。
まぁ一掃できたとしても、大ダメージを受けるでしょうし、息子である殿下とアーウィン殿下は完全に見切りを付けているので、自ら手を貸すことはないでしょう。
王妃殿下に関しては、彼女が墓穴を掘っただけですし、それに、両殿下とも乗ったに過ぎません。とはいえ、間接的に手を貸したことにはなるかもしれませんね。おそらく、今回が最後でしょう。私としては、殿下が両手を赤く染めなかっただけで、良しとしましょうか。今はそれよりも、やるべきことがあります。
「一度屋敷に戻って着替えてから、王都に買いに行きましょうか。冒険者の訓練所に、アーウィン殿下の入学申し込みをしなくてはいけませんし」
「はぁ!? 訓練所って!?」
何故、驚くのでしょうか?
「アーウィン殿下、平民か臣下に下るにしても、手に職がないといけませんよ。なんでもいいです、手に職を付けていれば、お金を稼げます。お金さえ稼げれば、最低限の生活はできます。少なくとも、それなりに剣は使えるのでしょう? なら、冒険者を目指すのも手ですね」
ニッコリと微笑みながら言うと、殿下とレアルさんは呆気に取られ、アーウィン殿下は険しい表情をしています。
「何故、俺が剣が使えると思った?」
「剣タコですよ。以前、私に言い寄って来た時、私の手を握ったでしょ、その時に気付きました」
「えっ!? なんで、貴族令嬢が剣タコを知ってるんだ? それに、訓練所も」
かなりの訓練をしている手でしたよ。私はタコが出来たら、直ぐに回復魔法を掛けてましたから、タコはありません。なので、貴族令嬢という認識なのでしょう。もしくは、魔術師。少なくとも、剣からは遠い場所にいると思っていたのでしょうね。
「…………言い寄っただけでなく、手を握ったのか……」
殿下の地を這うような低い声が、私たちの会話に入り込んできました。
私もアーウィン殿下もギョッとします。どうやら、地雷を踏んでしまったようですね。
「あれ一回だけですよ、コウ。それに、あの時、アーウィン殿下は本気で私を口説く気ははかったと思います。ですよね、アーウィン殿下?」
必死で事実だけを伝えます。
アーウィン殿下は俯き、視線を自分の手に移してから、ぽつぽつと話し始めました。
「……口説く気はなかったけど、興味はあった。いや、妬みの方が強かった。俺と同じような生い立ちの奴なのに、兄上によって、あの地獄から救い出されたことが無性に腹が立った……」
アーウィン殿下から見たら、そう見えますよね。私の存在を憎憎しいと感じても仕方ありません。彼は諦めながらも、救われたいと願っていたのでしょう。
「それは違う。俺は救ってはいない。フリーシアは自分で自分の道を切り開いた。俺はそこに惹かれたんだ」
殿下の台詞が意外だったのか、アーウィン殿下が顔を上げ私を見ます。
言葉にされると、ちょっと照れますね。でも、嬉しいです。
「私一人の力で成し得たことではありませんけど……それを言うなら、コウもそうでしょう」
そう、私は一人の力で成し得たわけではありません。だからこそ、その恩返しをしたいとずっと思っていました。アーウィン殿下に手を貸すのは、その恩返しの一つですわ。
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