戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

井藤 美樹

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第二章 人生最大の岐路に直面しました

第一話 私の居場所

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 都の中心部へと続く大通りから、一本外れた道の更に奥の奥、一軒の本屋へと続く細い階段がある。

 有に百段以上続く石畳の階段だ。

 その階段の先にその本屋はあった。

 普通の人なら、絶対敬遠する場所だと思うよ。 

 本を買うのに、わざわざ百段以上の階段を登って来る客がいるの。

 あくまで人間ならだけどね。ここに棲んでいるのはあやかしばかり。人間の常識は通用しない。

 私なら、絶対こんな場所には店を出さない。景色を売りにしている旅館なら話は別だけどね。

 そんな場所に、伊織さんが営んでいる本屋はあった。

 真冬だからか、窓から見える景色は一面真っ白に染まっている。

【常世】にも、日本のような季節があるんだって。

 因みに本屋があるのは、【常世】の北に位置する〈北の大陸〉。玄武様が治める大陸だ。

 この大陸の建物はどこか懐かしい感じがする。わりと古風な造りだ。玄武様の好みらしい(陣さん談)。

 今は真っ白で、あまり外の景色は代わり映えしないが、その町並みも、どことなく京都に似ているそうだ。写真に載ってる京都ね。本屋の外観も庄屋の蔵に似ていた。

 僅かな音も、降り積もる雪に吸い込まれて、外からは一切物音が聞こえてこない。聞こえてくるのは、暖炉の焚き火の木の弾ける音と、下から聞こえてくる話し声だけだ。

(こんな日にも、お客さんが来るんだぁ)

 どんなお客さんが来るのかな。

 興味があって、足音を立てないようにソッと階段を下りる。

 だが、僅かに軋む木の音に気付いたらしく、話をしていた二人が顔を上げて音をする方を見た。

「もう、起き上がって大丈夫か?」

 百七十センチ以上ある小町さんより、頭二つは有に大きい褐色の肌をした大男が、私に声を掛けてきた。

 二度程お見舞いに来てくれたから、誰だか分かる。小町さんのお兄さんだ。この本屋の店主、伊織さんの親友なんだって。そういう人がいるのって、少し羨ましい。私にはいなかったから。

「大丈夫です。陣さん」

 出来る限りにこやかに答えたつもりだったけど、ぎこちないものだって気付いてた。口角が少し上がっただけだって。

 完全に忘れたみたい。もう何年も笑ってなかったから……。

 無表情で何を考えてるか分からない。それが不気味だって、散々言われてきたし。

 陣さんを見れば、眉間に軽くだけどしわが寄っている。不快にさせたみたい。

「…………ごめんなさい」

 声にならない程の小さな声で謝る。二人には聞こえてなかったようだ。

「顔色が悪いけど、大丈夫? まだ寝てていいんだよ」

 小町さんが心配そうに駆け寄ってくる。暗い表情になったのを、しんどいんだと勘違いしたようだ。

「もう熱も下がったし、大丈夫」

「ほんとに?」

 小町さんは私の額に自分の掌を当てて、熱を計りながら尋ねる。いつも間にか、陣さんも私の直ぐ側に来ていた。二人とも優しくて温かい目で、私を見下ろしている。

 そんな目で見られることに慣れてない。

 いたたまれなくて、俯いてしまう。

 また、陣さんと小町さんに嫌な思いをさせてしまうって分かってるのに。ほんと、自分が嫌になるよ。

「本当に大丈夫だから、安心して」

 安心させたかった。

 ありがとうって、伝えたかった。

 だから勇気を出して顔を上げると、無理して笑った。笑ったつもり。何とか、自分の気持ちを伝えたくて。

    だけどやっぱり、陣さんと小町さんの表情が一瞬険しくなった。でも直ぐに、いつもの優しい表情に戻る。

 そんな二人を見て悲しくなった。

 こうして並んで立っている二人を見ると、全く似ていない兄妹だなと思う。肌の色も全く違うし、髪の色も違う。男女の差はあるけど、顔もあんまり似ていない。どちらも美形だけど。唯一同じなのは目の色だけだ。

「しんどくなったら、いつでも言っていいからね」

「そうだぞ。遠慮はいらんからな」

 全く似ていない兄妹だけど、漂う雰囲気はよく似ていた。やっぱり兄妹なんだなって思う。底抜けに優しくて日向ひなたのような二人。私には眩しすぎるよ……。

「……はい。ありがとうございます」

 頭を軽く下げた。

(えっ!?)

 フワッと体が浮いた感じがした。立ちくらみだ。横にいた小町さんが、慌てて私の体を支えてくれた。

「兄さん!!」

 小町さんの声と同時に、私の体は陣さんによって米俵のように担ぎ上げられる。そしてそのまま、三階の寝室に逆戻りしてしまった。

 陣さんの手でベッドに寝かされると、肩まで掛け布団を掛けてくれた。別にたいしたことじゃないから起き上がろうとすると、当然のように陣さんが止める。

「寝てろ。何か食べたい物はないか? 何でも持って来てやるぞ」

 掛け布団をポンポンと叩きながら陣さんは微笑む。ごつい体のわりには優しい手付きで、私を寝かし付ける。野太い声なのに、ホッと出来る温かみがあった。

 だからかな。つい我が儘を言ってみたくなった。

「……ちょっと寒いかな」って。

 声にして後悔する。慌てて訂正しようと思ったけど、それより早く陣さんが小町さんに一声描けると、外に薪を取りに行ってしまった。外は雪が降ってるのに。とても寒いのに。

 血の繋がった家族でさえ与えてくれなかったものを、ここにいる二人は当たり前のように無償で与えてくれる。

 私が欲しくて、欲しくて、仕方なかったもの。

 そして、諦めたもの。

〈居場所〉という名の愛情ーー。

 錯覚してしまう。ずっと、ここにいていいのかもしれないって。

 胸の奥がギュッと締め付けられた。熱いものが込み上げてくる。私は掛け布団を顔まで引っ張り上げると顔を隠した。


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