戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

井藤 美樹

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第一章 これって異世界転移だよね

第六話 記憶

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 伊織さんと小町さんのおかげで、楽に起き上がれるまで回復出来た。

 すると、当然行動範囲も広くなるわけで、私は小町さんの仕事の合間を見付けては色々と自分から話し掛けていた。

 かなり鬱陶うっとうしいだろうなって思ったけど、小町さんは嫌がらずに最後まで付き合ってくれた。本当に小町さんは優しくて、とっても良い人だと思う。私なら絶対ウザッと思うよ。

 その優しさのおかげかな。

 今まで出来るだけ人と関わらないように、ある一定の距離を保っていた私が、然程さほど警戒心もなく、自分から話し掛けられているのは。

 自分の周り全てに興味を失っていた私が、この世界に、この場所に、明らかに興味を持っているのが少し不思議だった。好奇心とはちょっと違うかな。

 神隠しに遭った十か月間。

 正確に言えば、常世での二か月間だけど、何をしていたのか全く記憶がない。

 日本に戻っても、それを不自由だと感じたことは一度もなかった。不思議だよね。当然、違和感も感じていなかったよ。

 だって、いなくなったのが二月で、発見されたのが十二月。せめて季節が違ってたら、少しは違和感とか感じたかもしれないけどね。

 ただ……悲しいことに、私の周囲の人間は違ったんだ。

 違和感を持たない私自身が、彼らにとって違和感そのものだった。

 彼らの中の違和感は、やがて不信感へと変わっていった。いや~~早かったね。

 十四歳になった今なら、彼らの気持ちは少しは理解出来る。納得はしないけどね。当時は四歳の子供だよ。納得なんて出来るわけないじゃん。それを求めるのも、かなり無理があると思うよ。

 せめて、十か月間の記憶があれば、何か変わったかもしれないけどね。大きくなって、何度も何度もそう考えたよ。見付からない答えだと分かってたけどね。

 その答えがね、今目の前にあるんだよ。興味を持たない方がおかしいよ。

 だから、迷惑だって分かってたけど、しつこく小町さんに尋ねたんだ。

 そして、知ったことが幾つかある。

 一度目の時も、伊織さんが私を保護してくれたことは、ついこの前聞いて知ってたけど、二か月間過ごした場所は、今寝泊まりをしているこの部屋だったこと。

 その時も、小町さんが伊織さんに代わって泊まり込みで看病してくれたんだって。感謝だね。

 小町さんは、私が椎茸が嫌いなことも知っていた。それは私しか知らないことなのにね。






 伊織さんが仕事で外に出てるのは知ってる。本の買い付けだって 。一週間以上帰って来れないことも珍しくないって、苦笑しながら小町さんが教えてくれた。

 その間、小町さんとサス君が店番をしてるんだって。サスケという名前なんだけど、小町さんはサス君と読んでいる。彼にはまだ一度も会っていない。元気になったら会えるかな。

 そして、この世界のことも幾つか教えてくれた。

 何も知らない私にとって、とても大事なことだ。

 小町さんが言うには、私のように違う世界から堕ちて来る人がまれにいるんだって。

 そういう人たちを、この世界の人たちはは〈堕ち人〉と呼んでいる。

 でも悲しいことに、五体満足で堕ちて来る人は少ないらしい。大概が、体の一部が欠損してたり、欠けていなくても、代わりに精神が壊れてしまってる人が殆どで、堕ちて来て直ぐに亡くなってしまうんだって。

 反対に、私のように熱を出すだけで済んだ人間は凄く珍しいと、小町さんは教えてくれた。ましてや、二度も堕ちて来てそれで済んだのは、まず普通ならあり得ないとまで言われたよ。私もそう思う。

 それから、これが最も大事なことなんだけど。

 日本に帰るには、伊織さんの力がどうしても必要らしい。っていうか、伊織さんしか帰せないんだって。その理由については教えてくれなかった。

 つまり、伊織さんが戻らないと日本に帰れない。

 そしてもし帰れたとしても、月日が流れていて、また……私はこの世界の〈記憶〉を奪われる。

 伊織さんのことも、小町さんのことも、陣さんのことも全部忘れてしまうんだ。

 それがこの世界、【常世】のことわりだった。


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