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第三章 働き始めていきなりこれですか
第四話 鬼書
しおりを挟む小太が補足してくれたけど、よく分かんない。
(思念? 変わったもの?)
首を傾げる。
鬼が本に閉じ込められたのなら、まだ何とかギリギリ理解出来るけど、思念とか言われたら完全にお手上げだよ。そんな私に、桂が仕方なさそうに説明してくれた。
「悪鬼っていう魔物を本の中に閉じ込めたやつと、人間が描いたものの思念が鬼になったやつの、二種類があるんだよ」
「人間が描いたもの?」
「良い例が地獄絵図だな」
「……地獄絵図?」
「そんなことも知らねーのかよ」
呆れて口が悪くなる桂の頭を、廉が軽く叩く。
桂の言葉と態度にムッとした私は黙り込む。
普通の女子中学生は地獄絵図なんて身近にないよ。ある筈ないでしょ。歴史の教科書に数行載ってるかどうかのレベルだよ。何となく想像は出来るけどね。
「(学習しようよ、マジで)口が悪いよ、桂。睦月は常世の出身じゃないんだから、僕たちの常識を知らなくて当然だよ」
(うん、うん。廉の言う通りだよ)
「あぁ!! 地獄絵図は日本のものじゃねーのかよ」
「そうだけど……」
桂が一方的に廉に突っ掛かる。さすがの廉もムッときたのか、今にも取っ組み合いの喧嘩に発展しそうだった。前科があるからね。私は慌てて気を逸らせる。
「ちょっと待って。地獄絵図って、確か……針の山とかの地獄の刑を想像して描いたものだよね」
そう言ったら、桂と廉は顔を見合わせ軽く溜め息を吐いた。
(何で? 何か間違ってた?)
「想像で描いたものは、鬼にならないよ」
廉が答えた。
「そうなの?」
「例えば、処刑場とかで地獄の刑を現実に再現して、それを見て描いたのを、本当の地獄絵図っていうんだよ。絵の具に被害者の血を混ぜて描いたものも多いよ」
小太が教えてくれた。
「昔は写真とかなかったからな」
桂が当たり前のように言った。
(処刑場!? 地獄の刑を再現!? 絵の具に血を混ぜた!?)
人間の残酷さに寒気がする。軽く吐き気がした。
昔は今と違って冤罪が多かったって、図書館の本に書いてあったのを読んだことがある。
それが真実なら、処刑された人の中には、無実の罪で処刑された人もいた筈。だとしたら、怨念がこもるのも理解出来るよね。
ましてや、地獄の刑を再現するなんて正気じゃない。依頼する方も描く方も。考えるだけで血の気が引くよ。鬼書に変化するのも分かる。分かりたくないけど。
同時に、こういう話を淡々とする子供たちに驚きを隠せなかった。
しかし、不思議と気味悪いとは思わなかった。
桂たちは私より幼く見えるのに、実際は私より大人びている 所がある。素直にそう思えた。それは、色々なことを知っているからかもしれない。
そんな桂たちが言うには、そういった訳ありの書には怨念が溜まり、やがて一つの人格を持つことがあるそうだ。
それが〈鬼書〉であるーー。
そういった書物は意思を持ってるので、日本に置いとくと危険らしく、回収しては鑑定に持って来るそうだ。
ということは、あの老紳士も魔法使いなの? ふと……疑問に思う。 その時だ。
「グルル。……凄く、嫌な臭いがする」
刀牙がマズルに皺を寄せながら言った。
自然と私たちの視線が、 老紳士の持つ風呂敷袋に集まる。
刀牙が放った言葉のせいか分からないが、 周りの温度が一度下がった気がする。
老紳士はサス君と暫く話をしていたが、終ったのか、サス君に風呂敷袋を手渡した。そして軽く会釈をすると、店を出て行く。
サス君は老紳士を見送ると、そのまま私たちの側まで来た。手には風呂敷袋を持ったままだ。何かを迷ってる様子だった。
「どうしたの?」
サス君に訊ねる。その隣で、刀牙が低く唸り続けている。それを見たサス君は軽く溜め息を吐くと言った。
「……睦月さん。これを奥の部屋に持って行くので、少しの間、留守番を頼めますか? くれぐれも外に出たら駄目ですよ」
サス君は何度も私に釘をさすと、風呂敷袋を奥の部屋に持って行った。
奥の部屋は伊織さんとサス君しか入れない。
あの小町さんでさえ、入室が許されていない。当然、私がドアに近付くだけで怒られる。あの部屋には、そういった曰く付きの危ない本が集められているんだろう。怒られた理由が分かったよ。
「……過保護だね」
呆れたように廉が言った。他の子たちも、うんうんと頷いている。
「私もそう思う」
そう答えながらも、内心は嬉しさ七割、窮屈さ三割だった。素直じゃない自分に苦笑する。
その時だった。
「私は、サスケ殿の気持ちはよく分かるがね」
私と桂たち以外の声が、いきなり背後から聞こえたのはーー。
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