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第五章 保護者二人、愛し子を取り返すために奔走する
第一話 伊織とサスケ、神王都に降り立つ(1)
しおりを挟む伊織は非常に焦っていた。
表情は全く変わってないが、実のところ、凄く凄く焦っていた。
そして同時に、行き場のない怒りが蓄積され、いつ爆発してもおかしくない程危険な状態でもあった。
しかし何度も言うが、その表情はいつもと変わってはいない。それが一層、伊織の氷の美貌を際立たせていた。
伊織がそこまで焦る理由ーー。
それは、黒翼船の墜落事故だった。この大事故は常世中を駆け巡った。
神獣森羅様の化身である睦月が乗船していたことは伏せられていた。もし伏せられていなかったら、騒ぎはこれぐらいではすまなかった筈だ。常世全体が揺れたに違いない。
唯一得られる情報の新聞には、行方不明者が数人いるとだけしか書かれていなかった。その数人に睦月が含まれているかどうか、それを確かめる術が伊織とサスケにはなかった。
最強の魔法使いとして名を轟かせている伊織と、最高位の霊獣として名を轟かせているサスケをもってしても。
黒翼船は一か月で北の大陸から南の大陸まで行くことが可能だ。
でもこの帆船は、どう飛ばしても、一か月で聖獣麒麟様が統治する神王都に、どうにか辿り着けるかどうかだ。玄武様の所有する一隻を借りてもそうだった。これでもかなり速い方だ。民間の帆船はもっと遅い。
「伊織! もっと速い帆船はないのか!?」
苛々したサスケが伊織に突っ掛かる。
一刻も早く、黒劉山に行かなければならない気持ちが、更にサスケを苛立たせた。
睦月を目の前で連れ去れたことが、サスケの心と矜持を深く傷付けた。それは常に、サスケを苛み続ける。同時に、自分自身の怒りも重なった。正直、どうにかなりそうだった。
伊織も一杯一杯だったが、サスケも同じ様にギリギリの場所に立っていたのだ。
そんな状態の中で、【黒翼船墜落】だ。
それからサスケは、眠れなくなっていた。当然、心に余裕なんてなかった。
一応、御守りは持たせてある。
主である、睦月の命に関わることが起きた時、身代わりに死ぬよう細工をしている。だから、壊れたら直ぐに分かるようになっていた。
壊れていないってことは、睦月は生きている。
だが、命に関わる程のことが起きていなくても、無事だと言い切れない。御守りの力が弱くなっていることが、サスケを更に不安にさせ苛立たせた。
「あれば乗ってます!! これでも、十分に速い方ですよ!!」
サスケの苛立ちに同調するように、伊織の言葉の端々に苛立ちを感じる。
サスケはまだブツブツと文句を言っていたが、伊織の耳には入っていないようだった。何か考えているようだった。
「…………サスケ。神王都で降りますよ」
伊織はサスケに告げた。それは提案ではなく、決定事項として。
「はぁ~~!?」
何言ってんの、こいつ。サスケは耳を疑う。
文句ばかり言っていても、この帆船が黒翼船に及ばなくても、かなり速い帆船であることは重々分かっていた。玄武様が所有する帆船だ。当然だ。
ましてや、特別ルートで航行している。
現時点で、最速の方法。
それを途中下車すると、伊織は言っているのだ。耳を疑って当然だろう。
「確か……神王都には、錦が隠居生活をしている筈です」
「あっ!! 白翼船か!!!!」
サスケは伊織が何を言おうとしているねか、瞬時に理解した。
ーー白翼船。
それは、黒翼船と対の帆船である。
そのスピードは黒翼船と比べると若干落ちるが、常世において、黒翼船に次ぐ速さを誇っていた。
そしてその帆船を所有しているのが、先代の天狗族の族長、錦だった。隠居した時、一緒に持って出たと伊織は聞いて知っていた。それを思い出したのだ。
「まぁ……今回の件は、天狗たちの仕業だし、帆船を借りるくらい別に構わないでしょう(貸さなければ奪うまで)」
伊織は敢えて口にはしなかったが、サスケはきちんと意図を読み取る。
サスケは伊織の怒りの深さを感じながら、自分もまた同じ考えだったので、ニヤリと笑うと快く賛同した。
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