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第六章 ようこそ、海賊船へ
第二話 もう一人の伊織
しおりを挟む『あっ、ごめんね』
私の体が強張ってるのに気付いたのか、謝りながら体を離してくれた。でも、腕は掴まれたままだ。
『すっごく、嬉しかったから。本当にごめんね。今、お茶の用意をしてたの。一緒に飲もうよ』
そう言いながら、私の腕を引っ張る。そのままテーブルまで連れて行かれると、座るように促された。
(見掛けによらず、強引な人だね……)
華奢な見た目に反して、その人は否と言わさない何かを持っていた。不思議と逆らえない。戸惑う私をよそに、その人は嬉しそうに私と自分の分の紅茶をティーカップに注ぐと、私の向かいに座った。
『どうぞ』
ニコニコと微笑みながら、私に紅茶を勧める。
私はティーカップを持つと口元に運ぶ。桃の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。ピーチティーだ。知ってるけど飲んだことがない。少しだけ口に含んでみる。
『美味しい!!』
思わず声が出ちゃった。桃の甘味と紅茶の苦味がこんなに合うなんて思わなかったよ~~。感動だよ、感動。
『口に合って良かったわ』
この時、ピーチティーが美味しいってことを知ったけど、人を惹き付ける笑みがあることも知った。それ程、その女性の笑みは私を惹き付けた。
私は紅茶を飲みながら、目の前に座る女性を観察する。美味しそうに紅茶を飲んでいた。
十代後半かな。いっても、二十代前半ぐらい。ストレートの黒髪は背中まで伸ばしていて、頭には天使の輪が出来ている。透き通る程の白い肌で、目鼻立ちがかなり整っていた。
何でかな、黙って紅茶を飲む姿を見てると、大切なあの人と重なって見えるんだよね。
(……伊織さんに、どことなく似てる気がする)
直感的にそう感じた。
『あの……貴女は誰なんですか? どうして、私のことを知ってるんですか?』
ティーカップをソーサーに戻すとズバッと尋ねた。
『ごめん、ごめん。自己紹介まだだったね。はじめましてかな、睦月ちゃん。私は伊織といいます』
(えっ……?)
聞き間違いじゃないよね。確かにその女性は、自分のことを伊織と名乗った。
『伊織?』
失礼かもしれないけど、訊き直す。
『ええ。なんでも本屋の元店主って、言った方がわかるかな』
(あの、ネーミングセンスのない)
『今、ネーミングセンスがないって思った?』
伊織と名乗った女性は、少し拗ねるように口を尖らせる。
(もしかして、顔に出てた? 無表情に近いんだけどな)
『聡もサスケも、錦も呆れてたんだよね。ネーミングセンスが無さ過ぎるって。違う店名にした方がいいって、何回もしつこく言われたし』
(そりゃあ、言うよね。私も言うよ。……で、サトル? ニシキ? って誰?)
知らない名前が、次々と伊織さんの口から出てくる。
(ほんと、分からないことだらけだよ)
まず、ここが何処なのか。少なくとも、あの世じゃなさそう。味覚があるからね。伊織さんの体温も感じたし。だったら、どうやってここに来たのか……。疑問が次々と浮かんでくる。
でも不思議と、恐怖や不信感は感じない。反対に、何故か妙な安心感さえある。正直にいうと、居心地がいいんだよね。絶対的な信頼感っていうべきかな……会って間もないんだけど。自分の身に起きたことなのによく分からなかった。情報が無さ過ぎる。
『……伊織さん(でいいんだよね)、サトルとニシキって誰ですか? それに、ここは……? 全然分からないことだらけで……』
素直に、伊織と名乗る女性に尋ねた。
『う~ん。何から話そうかな? 伊織からは何も聞いてないよね?』
伊織さんの問い掛けに、私は素直に首を横に振った。伊織さんは『そっか……』と小さく呟くと話始めた。
『……昔、昔、大昔にね、一人の女性が〈常世〉に界渡りをしてきたの』と。
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