もし世界が明日終わっても、私は君との約束だけは忘れない

井藤 美樹

文字の大きさ
32 / 46

大学一有名なモブになりました

しおりを挟む

 食堂で仲良くランチ。

 でも、周囲は緊迫した緊張感とどんよりとした空気に包まれている。

(温度差凄っ)

 多少は慣れてはいたけど、大学生となるとここまで赤裸々になるんだね……さすがの私も、うんざりするわ。中学当時も大概たいがいだと思っていたけど、可愛かったんだなって今になって痛感するよ。

 元凶である由季は、カレーとラーメンをがっついていた。

 相変わらず、気にせず、食べたいものを食べるのね。それにしても、外野、完全無視って……あまりにも飄々ひょうひょうとしているのを見て、成長したんだなってしみじみ思っていると、由季が顔を上げた。

「……その目、やめろ」

 不機嫌そうに、由季が言う。王様に変貌したら、言葉遣いも少し変化したみたい。

「ほんと、成長したわね……」

 そう答えると、更に由季の機嫌が悪くなる。珍しく、眉間にしわが寄ってるよ。思わず手を伸ばし、由季の眉間を指でグリグリする。昔、よくしていたし、されていた。されてる方が多かったけど。

 途端に、周囲から悲鳴があがった。甲高い声の中に、低い声も混じってるよ。どんだけ、魅了してるんだか。

「何、その上から目線」

 だいぶん変わってしまったけど、そのねた所は変わってない。懐かしく思っていると、由季が顔をそむけた。

「ん? どうかした?」

「……いや、別に。梨果も変わっただろ? 色々」

 唐揚げの件、まだ続いてるみたい。まぁ、食べてるからね。

「まぁ、三年離れてたら、多少は成長するでしょ」

「俺は納得してないけどな」
 
 由季の視線がキツくなる。今度は、私が視線を反らした。

「そうだね……悪かったと思うけど、後悔はしてない」

 あまりにも一方的過ぎた。悪かったと口にしつつ、今も牽制し線を引こうとしている。

(ほんと、ズルくて身勝手だよね)

 落ち込む私を、由季は険しい表情のまま見据えている。その視線の強さに、私はたじろぐ。

 由季がフッと笑った。免疫のある私でも、その顔に見惚れた。由季がおかしそうに笑い、手を伸ばして私の頬に触れようとした時だった。

「ちょっと、食事中失礼するわね。上原君よね、君、サークル決まってるの? 決まってないのなら、私たちが所属しているアウトドア部に入らない?」

「すっごく、楽しい部よ」

 お嬢様風、清純派の美女と正反対の派手系美女が声を掛けて来た。

(あからさまね~私、完全無視じゃない)

「え、嫌ですけど」

 速攻、由季は断る。考える余地すらない。周囲の空気は瞬時に凍り付く。

(この二人、学内で結構有名人のようね)

「……アウトドアが苦手なら、無理しなくてもいいのよ」

「そうそう、楽しい部だから、入って損はないわよ」

 清純派美女も派手系美女も諦めるつもりはないみたい。私は完全に傍観者。

(必死ね~)

 あくまで、アウトドア部だから断ったって思い込みたいのかな。その容姿だもの、今まで断られたことなんてなかったんじゃない。もしかして、由季が初?

「興味ないです。入る気ないので、どっか行ってもらえますか? 食事中なので」

 一応、上級生だから、敬語は使ってはいるけど超塩対応。言うだけ言うと、視界にさえ入れない徹底ぶり。私もならって、彼女たちを無視。始めにして来たのは彼女たちだし、文句は言えないでしょ。

 歯軋りすると、美女たちは食堂を出て行った。 

(美女が歯軋りって……見た目正反対だけど、内面は肉食系よね。由季が一番嫌いなタイプだわ)

「あれ、諦める気ないわよ」

 あの手のタイプって、やたら自分に自信があるからね、否定されることが許せないの。だから、全身全霊を使って勧誘に来るわね。

「心底、面倒くさい。生理的に無理」

 吐き捨てるように、由季は言う。その低く静かな怒声は、結構食堂内に響いた。

「一番嫌いなタイプの二人だったよね」

「二度と顔を見たくない」

「でも、来るよ」

(私にも手を伸ばして来そうよね……)

 この手の感はよく当たる。

「だよな~」

 盛大な溜め息を吐く由季に、私は苦笑する。このやり取り、中学時代に戻った気がする。

「久し振りに、色々対策しないといけなさそうね」

「じゃあ、行き帰りも一緒だな」

 至極当然のように、由季は言ってきた。

「なんで、そうなるの!?」

「一人は危ないだろ? あーいう奴らって、言うこと聞かすためになら、なんでもするだろ?」

 私もそう考えていた所なので、何も言えない。それを、由季は肯定と受け取ったようだ。

「決まりだな」

「…………分かったわよ」

 渋々、私はそう答えた。

 内心複雑だけど、正直言えば助かる。あれだけ赤裸々だった分、かなり狡猾こうかつになってる気がするんだよね。それに、あれだけ陽キャパワーを発していたら、それなりに発言権があると思うの。それを、間違いなく使ってくるわね。

 なので、出来る限り、一人になる時間は避けたかった。由季と行動することで、一人にならない時間が増えたとしても、色々仕掛けてくると思うけどね。

 それが成り行きなのか、由季の策略なのかは分からないけど、あっという間に、引いていた線がないものにされようとしている。

 大好きなのは変わらない。

 大切な人だというのも変わらない。

 だからこそ、私は自分の気持ちに蓋をする。

 今回は不可抗力。仕方ないこと。そう自分に言い聞かせる。

 私は最後まで、由季の幼馴染として振る舞うだけ。形を変えるつもりはないの。そう決意して、私は由季に声を掛ける。

「それで、午後の講義は何を取ってるの?」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月るるな
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません

紫楼
ファンタジー
 母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。  なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。  さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。  そこから俺の不思議な日々が始まる。  姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。    なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。  十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。

ヒロインの味方のモブ令嬢は、ヒロインを見捨てる

mios
恋愛
ヒロインの味方をずっとしておりました。前世の推しであり、やっと出会えたのですから。でもね、ちょっとゲームと雰囲気が違います。 どうやらヒロインに利用されていただけのようです。婚約者?熨斗つけてお渡ししますわ。 金の切れ目は縁の切れ目。私、鞍替え致します。 ヒロインの味方のモブ令嬢が、ヒロインにいいように利用されて、悪役令嬢に助けを求めたら、幸せが待っていた話。

復讐は静かにしましょう

luna - ルーナ -
恋愛
王太子ロベルトは私に仰った。 王妃に必要なのは、健康な肉体と家柄だけだと。 王妃教育は必要以上に要らないと。では、実体験をして差し上げましょうか。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...