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大学一有名なモブになりました
しおりを挟む食堂で仲良くランチ。
でも、周囲は緊迫した緊張感とどんよりとした空気に包まれている。
(温度差凄っ)
多少は慣れてはいたけど、大学生となるとここまで赤裸々になるんだね……さすがの私も、うんざりするわ。中学当時も大概だと思っていたけど、可愛かったんだなって今になって痛感するよ。
元凶である由季は、カレーとラーメンをがっついていた。
相変わらず、気にせず、食べたいものを食べるのね。それにしても、外野、完全無視って……あまりにも飄々としているのを見て、成長したんだなってしみじみ思っていると、由季が顔を上げた。
「……その目、やめろ」
不機嫌そうに、由季が言う。王様に変貌したら、言葉遣いも少し変化したみたい。
「ほんと、成長したわね……」
そう答えると、更に由季の機嫌が悪くなる。珍しく、眉間に皺が寄ってるよ。思わず手を伸ばし、由季の眉間を指でグリグリする。昔、よくしていたし、されていた。されてる方が多かったけど。
途端に、周囲から悲鳴があがった。甲高い声の中に、低い声も混じってるよ。どんだけ、魅了してるんだか。
「何、その上から目線」
だいぶん変わってしまったけど、その拗ねた所は変わってない。懐かしく思っていると、由季が顔を背けた。
「ん? どうかした?」
「……いや、別に。梨果も変わっただろ? 色々」
唐揚げの件、まだ続いてるみたい。まぁ、食べてるからね。
「まぁ、三年離れてたら、多少は成長するでしょ」
「俺は納得してないけどな」
由季の視線がキツくなる。今度は、私が視線を反らした。
「そうだね……悪かったと思うけど、後悔はしてない」
あまりにも一方的過ぎた。悪かったと口にしつつ、今も牽制し線を引こうとしている。
(ほんと、ズルくて身勝手だよね)
落ち込む私を、由季は険しい表情のまま見据えている。その視線の強さに、私はたじろぐ。
由季がフッと笑った。免疫のある私でも、その顔に見惚れた。由季がおかしそうに笑い、手を伸ばして私の頬に触れようとした時だった。
「ちょっと、食事中失礼するわね。上原君よね、君、サークル決まってるの? 決まってないのなら、私たちが所属しているアウトドア部に入らない?」
「すっごく、楽しい部よ」
お嬢様風、清純派の美女と正反対の派手系美女が声を掛けて来た。
(あからさまね~私、完全無視じゃない)
「え、嫌ですけど」
速攻、由季は断る。考える余地すらない。周囲の空気は瞬時に凍り付く。
(この二人、学内で結構有名人のようね)
「……アウトドアが苦手なら、無理しなくてもいいのよ」
「そうそう、楽しい部だから、入って損はないわよ」
清純派美女も派手系美女も諦めるつもりはないみたい。私は完全に傍観者。
(必死ね~)
あくまで、アウトドア部だから断ったって思い込みたいのかな。その容姿だもの、今まで断られたことなんてなかったんじゃない。もしかして、由季が初?
「興味ないです。入る気ないので、どっか行ってもらえますか? 食事中なので」
一応、上級生だから、敬語は使ってはいるけど超塩対応。言うだけ言うと、視界にさえ入れない徹底ぶり。私もならって、彼女たちを無視。始めにして来たのは彼女たちだし、文句は言えないでしょ。
歯軋りすると、美女たちは食堂を出て行った。
(美女が歯軋りって……見た目正反対だけど、内面は肉食系よね。由季が一番嫌いなタイプだわ)
「あれ、諦める気ないわよ」
あの手のタイプって、やたら自分に自信があるからね、否定されることが許せないの。だから、全身全霊を使って勧誘に来るわね。
「心底、面倒くさい。生理的に無理」
吐き捨てるように、由季は言う。その低く静かな怒声は、結構食堂内に響いた。
「一番嫌いなタイプの二人だったよね」
「二度と顔を見たくない」
「でも、来るよ」
(私にも手を伸ばして来そうよね……)
この手の感はよく当たる。
「だよな~」
盛大な溜め息を吐く由季に、私は苦笑する。このやり取り、中学時代に戻った気がする。
「久し振りに、色々対策しないといけなさそうね」
「じゃあ、行き帰りも一緒だな」
至極当然のように、由季は言ってきた。
「なんで、そうなるの!?」
「一人は危ないだろ? あーいう奴らって、言うこと聞かすためになら、なんでもするだろ?」
私もそう考えていた所なので、何も言えない。それを、由季は肯定と受け取ったようだ。
「決まりだな」
「…………分かったわよ」
渋々、私はそう答えた。
内心複雑だけど、正直言えば助かる。あれだけ赤裸々だった分、かなり狡猾になってる気がするんだよね。それに、あれだけ陽キャパワーを発していたら、それなりに発言権があると思うの。それを、間違いなく使ってくるわね。
なので、出来る限り、一人になる時間は避けたかった。由季と行動することで、一人にならない時間が増えたとしても、色々仕掛けてくると思うけどね。
それが成り行きなのか、由季の策略なのかは分からないけど、あっという間に、引いていた線がないものにされようとしている。
大好きなのは変わらない。
大切な人だというのも変わらない。
だからこそ、私は自分の気持ちに蓋をする。
今回は不可抗力。仕方ないこと。そう自分に言い聞かせる。
私は最後まで、由季の幼馴染として振る舞うだけ。形を変えるつもりはないの。そう決意して、私は由季に声を掛ける。
「それで、午後の講義は何を取ってるの?」
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