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第二章 超ハードモードの人生を終わらせるために頑張ります
呪われていても殿下は通常運転です
しおりを挟む「マリエール、お疲れ様。それで、暮らしはどうだ?」
王太子妃勉強が一段落ついた頃、殿下がひょっこりと顔を出した。
いつもタイミングいいのよね。タイミングが良すぎて、却って疑ってしまうわ。もしかして、私に何か仕掛けてない? それとも、この部屋に仕掛けてる? 侍女がいなかったら絶対問いただしているわ。
「…………日々、安眠出来ますわ」
内心、苦笑いをしながら答える。若干引いてるけどね。
「なら良かった。ところでマリエール、そろそろ、名前で呼んでくれないか?」
来たか~~。いつかは言い出すと思ってたわ。
「王族の方を、名前呼びなど到底出来ませんわ」
当然、やんわりと、そしてきっぱりと断った。
だって、名前で呼んで、仲の良さをアピールしてどうすんの。これ以上敵を作りたくはないわ。それでなくても、ポーター公爵家がちょっかいを掛けてきているに。殿下も知ってるでしょ。
「マリエール。君もいずれは王族に入るんだからいいんだよ。それに、俺はマリエールに名前で呼ばれたいな。駄目か?」
そうお願いするような言い方なのに、全然目が笑ってないよ。これ、呼ばなかったら面倒くさいことになるパターンだわ。
「……分かりましたわ。カイン殿下」
「カインでいいよ」
「それは駄目ですわ」
「じゃあ間をとって、カイン様で」
呼べないって。ていうか、絶対に呼ばない。
「いえ。カイン殿下で」
そこは絶対譲るか。静かな攻防が続く。
「……分かった。でも、いずれはカインって呼んでもらうからね。マリエール」
折れたのは殿下。今回の勝者は私でした。
それからの私たちは、たわいのない話をして時間を過ごした。
まぁ、こんな時間もそれはそれでいいんだけど……例の件どうなってるのよ。全くの音沙汰なしだよね。言いたいけど、侍女の目があるから言えないし。ちょっとイラッとしたけど、そこは日々の訓練で表情には出さないわよ。代わりに、目で文句を言ったけどね。私から目を合わせた時に。
殿下は気付いている筈なのに気付かない振りをしている。難しいってことは重々分かってるけど、何か一言が欲しいわ。これでも、少し不安になるの。私の我儘だって分かってるけどね。でも……それは言えない。殿下の方が不安だって分かってるから。
楽しい時間はあっという間に終わって、その帰り際だった。殿下が私を抱き締めようとしてきた。焦る私の耳元で、
「今晩、夢の中でマリエールに会いに行くから。早く寝るんだよ。夜更しは駄目だからね」
殿下は小さな声で告げる。満面な笑みを浮かべながら。うん。今日も爽やかだ。
「返事は?」
近い。近い。離れようと、殿下の胸を手で押すが、僅かな間しか開かない。
「返事は?」
もう一度尋ねてきた。
「……分かりましたわ」
そう答える他ないよね。
「いい子「殿下!!」
チュッと頬にキスされて、思わず声を上げてしまったわ。ほんと油断出来ないんだから。でも、幸せそうに笑う殿下を見てると、本気で怒れないんだよね。だけど、
「いきなり何をなさるのですか!」
抗議はしますよ。
「恥ずかしがるマリエールも、とても可愛いな」
なんて言われたら、それ以上は言えないでしょ。控えている侍女たちは、そんな私たちを温かい目で見ているし。顔から火が出るわ。
「…………ほんとに可愛いな」
その声は低く小さい。
背中がゾクッとしたわ。身の危険を感じて離れる私。そんな私に殿下はクスっと笑う。
「いいかい。今日は早く寝るんだよ。起きてちゃ駄目だからね」
もう一度、殿下は同じ台詞を繰り返した。
本当に寝てろって意味なの? マジで夢の中に来るつもり。いやいやまさかね。さすがに、殿下でもそれは無理でしょ。無理だよね……
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