婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

文字の大きさ
79 / 344
貴方の傍らで

第二十二話 久し振りの共闘です

しおりを挟む


 苦虫を潰したお父様に例の釣書と書簡を押し付けて、とっととその場から離れました。

 勿論、向かうのは砦です。

 今日は朝早くから、シオン様はアーク隊長の所に出向いています。引き継ぎを兼ねての顔見せ的なものです。もう暫くはアーク隊長の手を借りますが、まぁ目安は私のデビュタントが終わるまでですね。

 砦に行くと、訓練所に人だかりが出来ていました。兵士と冒険者たちです。

 彼らの先で、激しく打ち合う金属の音がします。

「こんにちは。お久し振りです。皆さん一緒なんですね」

 グリフィード王国の時、前領主だったラング様と前ギルマスを見掛け、私は彼らに近寄り声を掛けます。

 例の禁止薬物の責任をとり降格したギルマスの代わりにラング様がギルマスに。前ギルマスは副ギルマスに降格されました。

「これはセリア様。お久し振りです。遅くなりましたが、婚約おめでとうございます」

「ありがとうございます。ラングさん」

「それにしても、二人とも凄いですね……」

 目の前で繰り広げられている剣技に、ラングさんも副ギルマスさんも興奮してます。それはこれを見ている全員ですが。

「肩慣らし程度ですよ。二人が本気になれば、周囲に被害が出ますからね」

「「あれで、肩慣らしですか!?」」

「ええ。三割ぐらいではないでしょうか? もう少し本気になれば、風圧だけで、普通の人間ならふっ飛ばされますよ」

「「…………」」

「どうかしましたか?」

「……もしかして、セリア様は見えているのですか? 二人の打ち合いが」

 副ギルマスが訊いてきました。

 変なことを訊きますね。思わず首を傾げてしまいましたわ。

「勿論、見えてますが」

 何、驚いてるんですか? 

「セリア様は魔術師でしょう」

 その台詞に納得しましたわ。

「確かに、ギルドには魔術師で登録してますが、剣が使えない訳ではありませんよ。だって、魔法に耐性がある魔物に対してどう対象するのです?」

 そんなに呆気にとられること言いました? まぁ大概はパーティーを組んで狩りますが、私は基本ソロで動いてますし、当然知っているとばかり思ってましたわ。

「セリア!!」

 そんなことを話していると、愛しい婚約者が私の名前を呼び飛んで来ました。

「シオン様。アーク隊長の次は私と手合わせして下さいませ!! 久し振りに、思いっ切り剣を振り回したいですわ。勿論、周囲に被害が出ないように結界を張りますから」

「なら、久し振りに俺と共闘しないか?」

 アーク隊長の提案に飛び付きます。

「いいですね。やりましょう!!」

 ストレス解消にはもってこいです。楽しみましたよ。思いっ切りやり合えるのは久し振りですからね。単独も楽しいのですが、組むのも楽しいものです。自分より上の相手なら特に。気を使わないですみますから。

 三時間。

 陽が暮れるまでぶっ通しで。

 あ~~いい汗掻きましたわ。かなりいいところまでいきましたが、全く歯が立ちませんでしたわ。悔しいですが、さすがですわ。これ以上、惚れさせてどうするんですか、シオン様。

 受け取ったタオルで汗を拭っていると、シオン様が訊いてきました。

「何かあったのか?」と。

 ほんと、お見通しですね。剣は嘘を吐かない。前にシオン様が仰った台詞ですね。

「後でお話しますわ。

 それよりも、ちょっと暴れ過ぎましたようですね……」

 周囲に被害はありませんでしたが、訓練所は完全に破壊されてました。取り敢えず、空いた大穴は埋めときますね。

 魔法である程度応急処置をしましたので、一週間程で使えるようになるそうです。よかったよかった。







「……信じたか?」

 ラングが副ギルマスに尋ねる。

 副ギルマスはたった二文字の単語さえ発せずに、コクコクと何度も頷く。

 彼はずっと疑っていた。

 四年前、コンフォート皇国を単身魔物から護った英雄がセリア皇女殿下なのかと。

 それは同時に、セリア皇女殿下が【黒の英雄】ではないと思っていた。いくらラングがそう言っても。まぁラング自身、その気持ちも分かなくはない。

 憧れていたからだ。誰よりも、【黒の英雄】に。それがまさかの小柄な少女とは、信じたくはないだろうな。ラングは頭を垂れている相棒を見ながら、そんなことを思っていた。仕方ない。今日は朝まで付き合ってやろう。

「今日は朝まで飲もうか」

 


しおりを挟む
感想 776

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

離縁した旦那様が、今になって後悔の手紙を送ってきました。

睡蓮
恋愛
乱暴な言葉を繰り返した挙句、婚約者であるロミアの事を追放しようとしたグレン。しかしグレンの執事をしていたレイはロミアに味方をしたため、グレンは逆追放される形で自らの屋敷を追われる。その後しばらくして、ロミアのもとに一通の手紙が届けられる。差出人はほかでもない、グレンであった…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。