婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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これって、乙女ゲームのサブストーリーでしょうか

第十六話 とんだ醜態ですね

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 あまりにも派手な音がしましたからね。奥から店員が飛び出してきたのも無理はありませんわ。

 あらら。店員の目がまんまるになったと思ったら真っ青に。この惨状ですもの仕方ありませんわ。でも直ぐに、シスターを見て店員は慌てて奥に戻ります。タオルや布巾を持って来るためですね。まぁ拭いても、染みになって取れないと思いますけどね。

 ケーキと紅茶だけでなく、ジーナ様はホットチョコレートを飲んでいましたから。それはそれは悲惨な状態になってますわ。

 髪にも顔にも焦茶色の染みが。生クリームも制服にベッタリと付いています。

 ほんと、制服が黒で良かったですわね。染みが目立たなくて。後一週間遅ければ、もっと悲惨な状態になっていたでしょう。夏服に変わりますもの。夏服は白ですからね。夏服なら即廃棄しなければなりませんものね。いくら綺麗に洗濯しても、茶色い染みを付けたまま通うのは絶対嫌ですわ。

 平民の方なら無料で制服を交換出来ますが、貴族籍に属している方は有料になります。これに関してはどのクラスも関係ありません。Sクラスも同様です。

 一応、シスターは貴族籍になっていますから有料ですわね。だって、他国からの留学生ですもの。貴族、平民関係なく余程のお金がない限り留学は出来ないでしょ。ましてや、山脈を越えてまでって。どれだけの距離をって話です。まぁ中身は、平民の方でも顔を顰める程、無礼で醜悪、良いように言えば本能に忠実、幼児のような素直さってところかしら。

「どうぞ。これをお使いになって」

 内心、毒を吐きながら、私はシスターに持っていたハンカチを差し出します。本当は、シスターにハンカチ一つも貸したくなかったのですが、そういう訳にもいきませんからね。勿論、即ゴミ箱いきですよ。

「触らないで!!」
 
 折角差し出したのに、乱暴に払い除けられてしまったわ。鋭い声と一緒に。まぁ、そうよね。一応、恋敵である私の物なんて使いたくないわね。私も嫌だわ。とはいえ、シスターみたいに払い除けたりはしませんよ。

「そんなに私のが嫌なら、店員が持って来たのでさっさと顔と髪を拭きなさい。染みが余計に酷くなりますよ」

 親切心で言ってあげたのに、返ってきたのはやっばりと納得してしまう態度でした。

「酷い!! 私に命令しないで!! そもそも、貴女が避けたせいじゃない。制服弁償してよね。それと、私のシオン様と勝手に婚約したんだから、まとめて慰謝料払いなさいよ!!」

 制服の弁償? 

 慰謝料?

 はぁ!? 何仰ってるの。頭大丈夫かしら? よくそんな台詞吐けるわね。そんなに死にたいのかしら。でも、楽に死なせてあげるのは面白くないわね。どうしようかしら。悩むわ。

 そんな事を考えていると、さっきまで呆気に取られていた下僕たちが復活したみたいです。シスターの金切り声で。

「店で乱暴な真似は止めて下さい!!」

 店員が私と下僕の間に入ります。下僕の一人が掴み掛かってきたからです。

「煩い!!!! 引っ込んでろ!!」

 下僕が怒鳴ります。皆仲良く破滅の道まっしぐらなのは構いませんが、無関係の店員に怪我をさせる訳にはいきまんね。

「無関係な者に手を出すのは許しませんよ」

 店員の胸ぐらを掴んでいる下僕の腕を握ります。力を込めて。私、子供に見えますが、握力はそこそこありますの。幼い頃から太刀を持ち続けていますので。このまま折るのもアリですね。

 あまりの痛みに、下僕は悲鳴を上げ手を放します。これ以上は過剰防衛になりますわね。仕方ありませんね。ヒビぐらいで済ませてあげましょう。残念。

 腕を押さえ蹲る下僕に、シスターは寄り添うと尚も私に攻撃を仕掛けてきました。口実の一つになったみたいです。

「酷いわ!! これが、貴女のやり方ね。私に勝てないからって、暴力に訴えるなんて!! やっぱり、貴女にシオン様は任せられないわ!!」

 何!? この上から視線。任せられないって、誰に言ってるのかしら。もしかして、私。接点一つないのに。今すぐぶちのめしたくなりましたわ。別にいいですよね。私、結構我慢しましたよね。

「…………いい加減にその口を閉じなさい。貴女がシオン様の名前を口にする度に、シオン様が穢れていきますわ。
 あら? さっきまでの威勢は何処にいきましたか?」

 下僕と一緒に腰を抜かして、後退る様は笑えますね。更に圧を掛けましょうか。

 それにしても、さすがリーファとジーナ様。直接ではないにしろ、間近でこの威圧を余波を浴びても平気でいらっしゃりますね。店員を庇ってくれてます。これなら、安心ですわね。自然と笑みが浮かびます。

 あらあら。とんだ醜態ですね。その年でお洩らしですか。

「…………何んだ? この悪臭は」

 男子学生の声が響きます。

 まぁ二人分ですからね。悪臭も倍ですわ。

「これは、風紀委員長」

 さっきの声は風紀委員長でしたのね。

「何があったのです? セリア皇女殿下」

 風紀委員長は袖口で鼻を押さえてこちらに来ます。黄色い水溜りを避けながら。中々良いタイミングでの登場ですわね。

「詳細はこれに。後は店員に訊いて下さいませ」

 私は魔法具を風紀委員長に手渡します。そうしている間も、風紀委員たちはテキパキと動き、悪臭の元は半ば引き摺られるようにカフェから出て行きました。当然、下僕たちも。風紀委員たちも災難ですわね。下半身ズブ濡れの二人を引き摺るなんて。私なら絶対嫌ですわ。心底風紀委員の方に同情しますわ。

 それもですが、その姿で校内を連行されるなんて、私なら耐えられませんわ。因みにこのカフェ、風紀委員室から一番離れた場所にありますの。


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