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覚悟はよろしくて
第二十三話 飢えはしませんわ
しおりを挟む調べてみると、彼女はセフィーロ王国を中心に、手広く商売をしている商会の、当主の愛人でした。正妻ではなく愛人ね。ここ重要ですわ。
その商会の名前は、商売に疎い私でも知っています。結構有名な商会ですわ。色々な意味で。我がコンフォート皇国では、契約を結んでる方は少ないと思いますよ。王都では、まずその商会の店は見掛けませんし。勿論、この町でも。
「商売の手を広げるために、コンフォート皇国に入国したようです」
クラン君の報告は想像通りでした。
確認しましたが、入国の手続きに不備も不審な点もありませんでした。残念ですわ。あれば、すぐにでも対処できましたのに。
「正妻ではなく、愛人を連れてですか……まるで、旅行気分ですわね」
だから、下品なりでも、それなりの装いをなさっておいでだったのね。装飾品もそれなりのものを着けていらっしゃったわ。なのに、醸し出す下品さは消せないのだから、相当なものでしょう。セフィロス公爵家が放逐、追放をしたのも頷けますわ。だって、あの下品さは一、二年で出せるものではありませんわ。
「それも、もう終わりでしょう」
クラン君の口角が上がっています。
「終わり?」
「はい。愛人を牢屋に残し、セフィーロ王国に戻ったそうですよ」
特に驚くことではありませんわ。愛人と旅行気分で仕事をしていても、商会の当主、引き際を知っていただけのこと。愛人より商会が大事だった。ただそれだけですわ。
とはいえ、これから先、コンフォート皇国での商売は今以上に厳しくなると思いますが。だって、そうでしょう。皇女を、平民である愛人が自分の侍女になるよう、公衆の場で強要したのだから。
かなり痛い損失になりそうですね。まぁでも、そんな女を愛人にし自由にさせていた方が悪いですわね。人を見る目がなかった。ある意味、自業自得でしょう。
「そうなの。では、その愛人さん捨てられたのですね。お可哀想に」
同情はしていませんが。
「当然ですね」
クラン君の笑みが深くなります。
「だとしたら、彼女に保釈金を払ってくださる方はいませんね」
保釈金を払わなければ、牢屋から出ることは叶いません。牢屋から出られたとしても、裁判は受けなければならないのですけどね。
「牢屋で、当主の名前や、セフィロス公爵の御子息と御令嬢様の名前を叫んでいるようですが、誰も相手をしていません。あまり煩いと、周りの囚人に差し障りがあるので、猿轡を噛ませると看守は申しておりました」
その姿、簡単に想像できますわね。
「そう……愛人さんにとっては、その方がよかったですわね。……奇跡的に牢屋から出られても、裁判が終わるまでは、この町に滞在しなくてはなりませんし、その費用も持ってはいないのでしょ。牢屋ですが、雨風を凌げて食事が二食出るのです。飢えはしませんわ。……それで宜しいでしょうか? ユリウス様」
「ああ。それで構わない。リーファとレイファには俺から伝えておく。世話になったな。それに、すまなかった」
ユリウス様は私に軽く頭を下げてから、作業室から退出なさいました。その表情がどこかホッとしたように見えたのは、私だけかしら。
私もユリウス様もあえて言葉にしなかった。この後、彼女が二度とセフィーロ王国に足を踏み入れることはないということをーー
コンフォート皇国で犯した罪はコンフォートで償うのが通例ですから。
「お話はお済みになられましたか、セリア様」
ユリウス様が退出した後、代わるようにそう声を掛けてきたのはスミスです。
「ええ、終わったわ。…………スミス、明後日ね……」
ほんと、この日が待ち遠しいかったですわ。
勿論、私が起こした裁判ですよ。
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