裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

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第一章 踏み荒らされ花

蛇野郎、俺の勝ちだ【SIDE:ゼル】

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 ゼイゼイ。

 荒い呼吸音が静かな森に響く。

 ゼルはなんとか追手をまき森に逃げ込んだ。そして一息吐く。座り込みたいが、そんな余裕はない。

 この森に逃げ込めば逃げ切れる。

 好き好んでこの森に人は入らない。魔物が襲うからだ。でも、長年この森に隣接して住んでいるゼルにとって、出没する魔物は危険なものではなかった。多少、手負いの傷があってもだ。それに、アイリスがくれた魔物除けがあれば大概なんとかなる。さすが聖女様々だ。

 マジで、やっちまったぜ。

 息を整えながら、内心ゼルはボヤく。

 エルヴァン聖王国の奴らは馬鹿ばかりだから、どうとでもなる。簡単に誤魔化せる。

 だけど、アイツは駄目だ。あの男は危険だ。

 目が合っただけで反射的に逃げ出してしまった。恐怖で体が逃げに走った。そのせいで、こんな羽目に。チッとゼルは舌打ちする。マジ最悪だ。

 何とか森に逃げ込んだが、いつまでも森に留まる訳にはいかないからな。とはいえ、今森を出たら捕まる可能性が高い。

 こうなったら、森を横断するしかないな。まぁ、アイリスの御守があれば大丈夫だろ。

 そうと決まれば。取る道は一つだ。ゼルは歩き出した。

 それにしても、今でもゾッとするぜ。あの目は。まるで、蛇のような目だった。ねとっとした感情がまるでない目。あんな奴が聖教国の大司祭をやってるなんて、世も末だな。あんな奴に教えをこう人間は可哀想だ。

 何とかして、あの男が危険だということを、ライドやアイリスに伝えたいが、今の自分は村には近付けない。下手に森を出て、蛇野郎にみすみす捕まる訳にはいかないしな。村の位置や入り口を悟られる訳にはいかない。

 自分が村に帰らないことで、少なくとも、何か合ったことは容易に想像つくはずだ。それに、優秀なライドのことだ、僅かな魔力の痕跡を嗅ぎ付けられるはず。同時に、自分を追った奴の痕跡もな。

 自分が出来るのはここまでだ。

 そして、愛娘を託すしか出来ない。

 ――ライド、アイリス。マリアを頼む。

 あの子が、マリアが大人になっていく姿をこの目で見ることが出来ないことが、悔やんでも悔やみ切れない。胸がはち切れそうに痛む。

 たった一人の娘だ。目に入れても痛くない程溺愛していた娘だ。どんなものを犠牲にしても護りたい娘だ。悲しませてしまうな。泣くんだろうな。ごめんな……ドジを踏んでしまったせいで、悲しい思いをさせてしまうお父さんを許してくれ。マリア……

「…………なら、貴方の娘は特別に助けてあげましょう。貴方が私に協力してくれるのなら」

 突然背後から声がした。

 反射的にゼルは距離をとる。

「良い反応ですね。やはり、貴方は只者じゃない。追って来て正解だったようだ」

 何もない空間から姿を現す蛇野郎。

「蛇野郎とは酷いですね」

 なっ!? こいつ、心が読めるのか!? ましてや、この魔力!!

 勝てない。圧倒的に違う。格の違いをまざまざと見せ付けられた。

 蛇野郎はニヤニヤと笑いながら、そんなゼルの反応を楽しんでいる。

「単刀直入に訊きますが、貴方はカイナ村の出身ですか?」

「いや。違う」

 当然、ゼルはそう答えた。そう答えるしかない。無言は肯定。否定しか出来ない。表情を消し偽りながら答える。普通ならこれでいい。だけどこいつは……

「そうですか……私は本当に幸運だ」

 心が読める――

 何が面白いのか笑い出す。大司祭とは考えられない程、下卑た笑いだ。ひとしきり笑うと、蛇野郎は真顔になる。感情がまるっきり抜け落ちたような表情。

「…………狂ってやがる」

 歯軋りしながらゼルは吐き出す。

「狂っていませんよ」

 蛇野郎はニヤリと嗤う。

 ゼルは強く拳を握り込んだ。指輪に仕掛けていた仕掛けが作動する。

 ……俺の勝ちだ…………マ…リ……ア………

 その場に崩れる体。近寄る蛇野郎。

「おや。自ら死を選びましたか。その潔さ、結構好きですよ。私が蘇生魔法が使えないと考えたからこそ出来た作戦ですね。でも……おや? 生き返らない。なる程、そうきましたか。クックック。あ~最高ですよ!!  本当に、最高ですよ!! 死と同時に発動する呪いですか!! いいですね!! ならば、その肉体有効に使わせて貰いましょう。必要なのは貴方の肉体ですから。生きていようがいまいが関係ありません。貴方は、自分が勝ったと思っていたようですけど、真の勝者は私ですよ」

 人ひとりいない森の中で、司祭の格好をした男が高笑いする。その声が、木霊となって周囲に響いた。

 その異様さに、魔物も恐れをなしたのか、襲っては来なかった。

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