裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹

文字の大きさ
11 / 34
第一章 踏み荒らされ花

襲撃

しおりを挟む

 夜が少し明け始めた薄暗い早朝なのに、マリアたちが白い息を吐きながら教会にやって来た。俺とライドが、そのまま教会に泊まったのを誰かに聞いたからだ。

 ライドが賢明に捜したようだけど、ゼルおじさんは見付からなかった。そうライドが告げると、マリアは肩を落として泣きそうになっていたが、今日は町まで足を伸ばしてみると言った彼の言葉に、少し元気を取り戻していた。空元気だとわかっていても、少しホッとした。

 マリアって……本当に強いな。

 あらためてそう思った。

 俺たちはライドを見送るために、皆で玄関まで向かう。そこまでは、普通に会話していたんだ。普通に。

 なのにーー

 アイリスが緊迫した声でライドを呼び止めた。「ライド」と。

 あまりにも固く厳しい声に、俺たちは全員身を竦ませながら振り返る。名前をよばれただけで、ライドはアイリスが言おうとした事を察したようだった。ライドの顔からサーと表情が消えていく。

 ライドとアイリスの急激な態度の変化に、俺たちはただ呆然として言葉を失う。嫌な緊張感に包まれていた。

「…………どうかしたの? アイリスさん、ライド」

 そんな中、恐る恐る俺は二人に尋ねた。だけど、答えは返ってこない。

 すると、アークはしゃがみ込んで、俺の両肩に両手を乗せ告げた。厳しい表情のまま。

「アーク。少し外が騒がしくなると思うけど、絶対に外に出たら駄目だ。アイリスの言うことを聞いて、大人しく隠れているんだ。分かったな」

 何言ってるの……ライド。まるで、教会の外が危ないみたいな言い方だよ。

「……ライド」

 俺は情けない顔でライドを見上げる。

「心配するな、大丈夫だ。ジム、レイ、マリア、アークを頼む」

 前半は俺に。後半は俺以外に。俺が疑問に思うよりも早く、ジムたちは大きく頷いた。

「「「分かった」」」

 その返事にライドは微笑むと、剣を持って玄関を出ようとした。反射的に、行かせまいと、俺はライドの服を強く掴む。

「大丈夫だ。絶対戻って来る」

 ライドは優しい。こんな時でも、無理矢理振り払おうとはしなかった。

「嫌だ!!」

 俺は益々力を込めて服を握ったまま俯く俺を、困ったような表情でライドが見ているのは分かっていた。でも、離したら駄目な気がして。離したら、もう二度と会えないような気がして、どうしても離せなかった。そんな俺に、ライドはまたしゃがむ。

「アーク。これを預けておく」

 それは、アークが常に身に着けていた御守だった。それを俺の首に掛けてくれる。

「アーク」

 アイリスが俺の名を呼ぶ。

 離したくない。だけど離さなきゃいけない。俺は掴んだまま首を横に振った。ガキだって分かってる。でも嫌だった。

 その時だ。

 地面が揺れた。縦に大きく。揺れはすぐにおさまる。その拍子に手を離してしまった。

「アイリス!! アークたちを地下に!!」

「分かったわ」

 ライドが俺に背を向ける。

「ライド!! ライド!!」

 何度もライドの名を叫んだ。だけど、ライドは最後まで振り返りはしなかった。

 アイリスは暴れる俺を行かせまいと後ろから強く抱き締めた。その腕が震えているのに気付く。嫌な予感しかしなかった。

 その間も、小さな地震が何度か起きた。

「…………もう、保たないわね」

 ポツリと呟くアイリス。

 保たない……何が?

「行きますよ。地下に」

 アイリスは俺の腕を強く掴み引っ張る。教会の奥に進むと、アイリスは石壁に手を当てる。僅かに光ると石壁が消えた。

 薄暗い中、石の階段が下まで続いているのが見えた。

「入って」

 その声に促されるまま、俺たちはアイリスと共に中に入った。薄暗かった空間に灯りが灯る。だけど、まだ少し薄暗かった。

「足元に気を付けながら降りて」

 有無を言わなかった。何の説明もなしに階段を降りる俺たち。後ろを振り返れば、出入口は石壁に戻っていた。

 ライド……

 ライドを心配して何度も立ち止まる俺を促すように、アイリスがソッと肩に手を乗せる。トボトボと降りだす俺。後ろにはアイリスがいる。

 降りかけてすぐに、アイリスが話し掛けてきた。

「アーク。降りながらでいいからよく聞いて。ほんとは、こんな形で話したくはなかった。でも、今伝えなくてはいけないの。アーク。この村はね、初代勇者が生まれた村なの。この村の村人たちは、初代勇者が救い保護した者たちの子孫。ジムもレイも、マリアもそう。そしてアーク、貴方は偽物じゃない。本物の勇者なのよ」

 ……何言ってるの? アイリスさんは。俺が勇者? そんなのあり得ないよ。

「違う。勇者はユリウスだよ。だって俺は……」

 魔力がない。体も小さいし、ジムのようにガッシリとしていない。そんな俺が勇者なんてあり得ない。

「勇者の力はあまりにも強いの。その小さな体では収まらないぐらいにね。だから、勇者は双子で生まれてくるの。一人は力を持たない者。もう一人は高い魔力を持った者として。ユリウスは器なのです。アークの体が成長し、力を受け入れるようになった時、ユリウスの魔力は勇者に返されるわ」

 そう諭すよう教えてくれた。でも、正直よく分からない。

 分からないまま、俺たちは階段を降りきる。何も置かれていない、ちょっとした備蓄庫のような部屋の床には魔法陣が描かれていた。

 アイリスが俺を抱き締める。強く、とても強く。そして、突き放すように押した。

「皆、中央に立って」

 俺たちは促されるように中央に立つ。

「ほんとは、まだまだ教えることがあったのに……愛してるわ、アーク」

 そう告げるアイリスの目から涙が落ちた。

 まるで、最後の別れのような言葉に、俺はアイリスの元に駆け寄ろうとした。その手と肩を、ジムとレイに掴まれ止められた。

 そして、床に描かれた魔法陣が光出す。

「アーク、生きて。私の希望…………」

 最後、アイリスが何を言ったか聞き取れなかった。ただ……とてもとても優しい笑顔で微笑んでいた。

 涙を流しながら――

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...