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第一章 踏み荒らされ花
襲撃
しおりを挟む夜が少し明け始めた薄暗い早朝なのに、マリアたちが白い息を吐きながら教会にやって来た。俺とライドが、そのまま教会に泊まったのを誰かに聞いたからだ。
ライドが賢明に捜したようだけど、ゼルおじさんは見付からなかった。そうライドが告げると、マリアは肩を落として泣きそうになっていたが、今日は町まで足を伸ばしてみると言った彼の言葉に、少し元気を取り戻していた。空元気だとわかっていても、少しホッとした。
マリアって……本当に強いな。
あらためてそう思った。
俺たちはライドを見送るために、皆で玄関まで向かう。そこまでは、普通に会話していたんだ。普通に。
なのにーー
アイリスが緊迫した声でライドを呼び止めた。「ライド」と。
あまりにも固く厳しい声に、俺たちは全員身を竦ませながら振り返る。名前をよばれただけで、ライドはアイリスが言おうとした事を察したようだった。ライドの顔からサーと表情が消えていく。
ライドとアイリスの急激な態度の変化に、俺たちはただ呆然として言葉を失う。嫌な緊張感に包まれていた。
「…………どうかしたの? アイリスさん、ライド」
そんな中、恐る恐る俺は二人に尋ねた。だけど、答えは返ってこない。
すると、アークはしゃがみ込んで、俺の両肩に両手を乗せ告げた。厳しい表情のまま。
「アーク。少し外が騒がしくなると思うけど、絶対に外に出たら駄目だ。アイリスの言うことを聞いて、大人しく隠れているんだ。分かったな」
何言ってるの……ライド。まるで、教会の外が危ないみたいな言い方だよ。
「……ライド」
俺は情けない顔でライドを見上げる。
「心配するな、大丈夫だ。ジム、レイ、マリア、アークを頼む」
前半は俺に。後半は俺以外に。俺が疑問に思うよりも早く、ジムたちは大きく頷いた。
「「「分かった」」」
その返事にライドは微笑むと、剣を持って玄関を出ようとした。反射的に、行かせまいと、俺はライドの服を強く掴む。
「大丈夫だ。絶対戻って来る」
ライドは優しい。こんな時でも、無理矢理振り払おうとはしなかった。
「嫌だ!!」
俺は益々力を込めて服を握ったまま俯く俺を、困ったような表情でライドが見ているのは分かっていた。でも、離したら駄目な気がして。離したら、もう二度と会えないような気がして、どうしても離せなかった。そんな俺に、ライドはまたしゃがむ。
「アーク。これを預けておく」
それは、アークが常に身に着けていた御守だった。それを俺の首に掛けてくれる。
「アーク」
アイリスが俺の名を呼ぶ。
離したくない。だけど離さなきゃいけない。俺は掴んだまま首を横に振った。ガキだって分かってる。でも嫌だった。
その時だ。
地面が揺れた。縦に大きく。揺れはすぐにおさまる。その拍子に手を離してしまった。
「アイリス!! アークたちを地下に!!」
「分かったわ」
ライドが俺に背を向ける。
「ライド!! ライド!!」
何度もライドの名を叫んだ。だけど、ライドは最後まで振り返りはしなかった。
アイリスは暴れる俺を行かせまいと後ろから強く抱き締めた。その腕が震えているのに気付く。嫌な予感しかしなかった。
その間も、小さな地震が何度か起きた。
「…………もう、保たないわね」
ポツリと呟くアイリス。
保たない……何が?
「行きますよ。地下に」
アイリスは俺の腕を強く掴み引っ張る。教会の奥に進むと、アイリスは石壁に手を当てる。僅かに光ると石壁が消えた。
薄暗い中、石の階段が下まで続いているのが見えた。
「入って」
その声に促されるまま、俺たちはアイリスと共に中に入った。薄暗かった空間に灯りが灯る。だけど、まだ少し薄暗かった。
「足元に気を付けながら降りて」
有無を言わなかった。何の説明もなしに階段を降りる俺たち。後ろを振り返れば、出入口は石壁に戻っていた。
ライド……
ライドを心配して何度も立ち止まる俺を促すように、アイリスがソッと肩に手を乗せる。トボトボと降りだす俺。後ろにはアイリスがいる。
降りかけてすぐに、アイリスが話し掛けてきた。
「アーク。降りながらでいいからよく聞いて。ほんとは、こんな形で話したくはなかった。でも、今伝えなくてはいけないの。アーク。この村はね、初代勇者が生まれた村なの。この村の村人たちは、初代勇者が救い保護した者たちの子孫。ジムもレイも、マリアもそう。そしてアーク、貴方は偽物じゃない。本物の勇者なのよ」
……何言ってるの? アイリスさんは。俺が勇者? そんなのあり得ないよ。
「違う。勇者はユリウスだよ。だって俺は……」
魔力がない。体も小さいし、ジムのようにガッシリとしていない。そんな俺が勇者なんてあり得ない。
「勇者の力はあまりにも強いの。その小さな体では収まらないぐらいにね。だから、勇者は双子で生まれてくるの。一人は力を持たない者。もう一人は高い魔力を持った者として。ユリウスは器なのです。アークの体が成長し、力を受け入れるようになった時、ユリウスの魔力は勇者に返されるわ」
そう諭すよう教えてくれた。でも、正直よく分からない。
分からないまま、俺たちは階段を降りきる。何も置かれていない、ちょっとした備蓄庫のような部屋の床には魔法陣が描かれていた。
アイリスが俺を抱き締める。強く、とても強く。そして、突き放すように押した。
「皆、中央に立って」
俺たちは促されるように中央に立つ。
「ほんとは、まだまだ教えることがあったのに……愛してるわ、アーク」
そう告げるアイリスの目から涙が落ちた。
まるで、最後の別れのような言葉に、俺はアイリスの元に駆け寄ろうとした。その手と肩を、ジムとレイに掴まれ止められた。
そして、床に描かれた魔法陣が光出す。
「アーク、生きて。私の希望…………」
最後、アイリスが何を言ったか聞き取れなかった。ただ……とてもとても優しい笑顔で微笑んでいた。
涙を流しながら――
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