上 下
33 / 34
第二章 ラッシュ港攻略

悪夢【SIDE:国王】

しおりを挟む


「……誰かおらぬか!?…………誰か……」

 人気が全くなく静まり返った廊下を国王は一人歩く。

 国王が発するその声はとても小さいが、生活音が全くしないせいか、廊下までその声はよく響いた。

「私はこの国の王だ。なのに、何故誰も、私の呼び掛けに答えない……何故だ!?」

 吐き捨てるセリフに、やっと答える声があった。

「決まってるではありませんか。教会で神に祈りを捧げているか、既に魔物の餌になったか。後は、己で自分の命を断ったか……そのいずれかでしょう」

 国王の疑問に答えたのは宰相だった。その声は今まで聞いたことがない程、冷たく、呆れ果てたものだった。

「……なっ…………何を……言ってる……」

 宰相が何を言ってるのか、私は理解出来なかった。いや、違う。理解したくはなかったのだ。

「……いい加減に現実を見て下さい、国王陛下。もうこの国は終わりですよ。何百年も続いた我が国が地図から消えるのです。神の加護も精霊王の加護も完全に失われたのですから、当然でしょう」

 加護が失われた……だと……

「…………何を言ってる? 嘘だ……これは、夢「ではありませんよ」

 宰相は否定する。

 こいつは誰だ?

 私の目の前には、乾いた笑みを浮かべている男が立っている。

 この男は宰相を務めていた。務めていた筈だ。その宰相が、国王である私の言葉を途中で遮る。そんな舐めた真似をしたことなど一度もなかったのにーー

「無礼だぞ!!」

 声を荒げると同時に吹っ飛ぶ宰相の体。壁に激しく背中を打ち付ける。

 我に逆らうお前が悪いのだ。

「…………ツッ!! これは骨が折れましたね。ゲホッ……アバラが肺に刺さったようだ……」

 穏やかな口調だが、その口元は血に染まっていた。胸元も床も血で汚している。息を荒くしながらも宰相は告げる。

「私が死んだら、王宮にいるのは国王陛下、貴方一人ですよ……」

 尚も続ける馬鹿げた発言に、私は顔を顰めた。

「冗談も大概にせよ!! 近衛騎士は!? 魔術師は!?」

 取り乱しながらそう尋ねる国王に、宰相は乾いた笑みを浮かべながら答えた。

「……全員、魔物に殺されましたよ。全員、立派な最後でした……」

「なっ!?」

 うっ、嘘だ……ありえない!!

「嘘を吐くな!! 我が国最強の部隊が、壊滅する訳ないだろ!!」

 怒りで目の前が真っ赤になった。唾を飛ばしながら宰相を怒鳴り付ける。何度も何度も同じセリフを吐き続ける。息が切れ肩で呼吸する。

 そして気が付くと、目の前にあったのは宰相ではなく、只の肉塊だった。

 それが、嘗て宰相と呼ばれた男の最期だった。

 ……これは悪夢だ。そうだ悪夢に決まってる。

 フラフラと歩き出す。靴に肉塊が服に返り血を浴び、汚れたままで。行き着いた先は謁見の間の玉座だった。

 私は玉座に座る。

 遠くで獣の鳴き声がした。物が壊れる音がする。悲鳴も聞こえた。

「疲れているのか。やけに、現実的な夢だな……目が覚めたら、医者でも呼ぶか」

 どうやら、思っていたことが口から出たらしい。我の独り言に答える者がいた。

「夢な訳ないだろ? いい加減、現実見ろよ。エルヴァン聖王国、国王陛下」

 そこに立っている少年を、我はよく知っている。しかし、どこか違和感を感じた。
 


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄されたけど前世のおかげで無事復讐できそうです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,192pt お気に入り:31

リセット結婚生活もトラブル続き!二度目の人生、死ぬときは二人一緒!

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:3,578pt お気に入り:42

勇者で魔王の妻やってます!(仮

BL / 連載中 24h.ポイント:462pt お気に入り:14

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:6,196pt お気に入り:2,428

悪役令嬢の去った後、残された物は

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,804pt お気に入り:223

婚約破棄と言われても・・・

BL / 完結 24h.ポイント:6,512pt お気に入り:1,420

小さいぼくは最強魔術師一族!目指せ!もふもふスローライフ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:497pt お気に入り:150

この国に私はいらないようなので、隣国の王子のところへ嫁ぎます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:9,580pt お気に入り:1,415

処理中です...