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第二章 ラッシュ港攻略
悪夢【SIDE:国王】
しおりを挟む「……誰かおらぬか!?…………誰か……」
人気が全くなく静まり返った廊下を国王は一人歩く。
国王が発するその声はとても小さいが、生活音が全くしないせいか、廊下までその声はよく響いた。
「私はこの国の王だ。なのに、何故誰も、私の呼び掛けに答えない……何故だ!?」
吐き捨てるセリフに、やっと答える声があった。
「決まってるではありませんか。教会で神に祈りを捧げているか、既に魔物の餌になったか。後は、己で自分の命を断ったか……そのいずれかでしょう」
国王の疑問に答えたのは宰相だった。その声は今まで聞いたことがない程、冷たく、呆れ果てたものだった。
「……なっ…………何を……言ってる……」
宰相が何を言ってるのか、私は理解出来なかった。いや、違う。理解したくはなかったのだ。
「……いい加減に現実を見て下さい、国王陛下。もうこの国は終わりですよ。何百年も続いた我が国が地図から消えるのです。神の加護も精霊王の加護も完全に失われたのですから、当然でしょう」
加護が失われた……だと……
「…………何を言ってる? 嘘だ……これは、夢「ではありませんよ」
宰相は否定する。
こいつは誰だ?
私の目の前には、乾いた笑みを浮かべている男が立っている。
この男は宰相を務めていた。務めていた筈だ。その宰相が、国王である私の言葉を途中で遮る。そんな舐めた真似をしたことなど一度もなかったのにーー
「無礼だぞ!!」
声を荒げると同時に吹っ飛ぶ宰相の体。壁に激しく背中を打ち付ける。
我に逆らうお前が悪いのだ。
「…………ツッ!! これは骨が折れましたね。ゲホッ……アバラが肺に刺さったようだ……」
穏やかな口調だが、その口元は血に染まっていた。胸元も床も血で汚している。息を荒くしながらも宰相は告げる。
「私が死んだら、王宮にいるのは国王陛下、貴方一人ですよ……」
尚も続ける馬鹿げた発言に、私は顔を顰めた。
「冗談も大概にせよ!! 近衛騎士は!? 魔術師は!?」
取り乱しながらそう尋ねる国王に、宰相は乾いた笑みを浮かべながら答えた。
「……全員、魔物に殺されましたよ。全員、立派な最後でした……」
「なっ!?」
うっ、嘘だ……ありえない!!
「嘘を吐くな!! 我が国最強の部隊が、壊滅する訳ないだろ!!」
怒りで目の前が真っ赤になった。唾を飛ばしながら宰相を怒鳴り付ける。何度も何度も同じセリフを吐き続ける。息が切れ肩で呼吸する。
そして気が付くと、目の前にあったのは宰相ではなく、只の肉塊だった。
それが、嘗て宰相と呼ばれた男の最期だった。
……これは悪夢だ。そうだ悪夢に決まってる。
フラフラと歩き出す。靴に肉塊が服に返り血を浴び、汚れたままで。行き着いた先は謁見の間の玉座だった。
私は玉座に座る。
遠くで獣の鳴き声がした。物が壊れる音がする。悲鳴も聞こえた。
「疲れているのか。やけに、現実的な夢だな……目が覚めたら、医者でも呼ぶか」
どうやら、思っていたことが口から出たらしい。我の独り言に答える者がいた。
「夢な訳ないだろ? いい加減、現実見ろよ。エルヴァン聖王国、国王陛下」
そこに立っている少年を、我はよく知っている。しかし、どこか違和感を感じた。
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