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プロローグ
しおりを挟むその日は、梅雨真っ只中なのに、雲一つない、澄み切った晴天だった。
そして私が今いるのは、晴天の下ではなく、寒いくらいに空調がよくきいた大学病院の待合室。かれこれ、二時間は待っている。
いつまで待てばいいのよ、まったく。だから、病院嫌いなのよ……ほんと良い天気、帰り、柴犬カフェに寄ろうかな。
そんなことを思っている間も、後からきた人が次々と呼ばれ診察を受けている。いつの間にか、待合室には私一人。
まさか、一番最後!?
いやいや、それはないでしょ。手違いじゃないよね。確かめたいけどできない。根っからの小心者だから。
かなり腹が立ったけど我慢する。まぁ、病状によって順番が前後することは珍しくないし、大人気ないよね。だから、なにも訊かずに静かに待つ。
だって、別に体調は悪くないしね。むしろ絶好調。
「……ほんと、私なんで病院にいるの?」
そんな愚痴が漏れる。
始まりは……確か、会社の健康診断に三年連続引っ掛かったからよね。なので仕方なく、近所のかかりつけ医にいったんだよ。病院行けって会社が煩くてね~催促の手紙もきたし。そしたら、一週間後電話がかかってきて、紹介状持って大学病院にいくように言われたの。
正直、大袈裟だって思ったよ。三年連続引っ掛かったといっても、血小板が多いだけだし。それも、ほんの少しだけだよ。他は標準値。深刻になるわけないじゃない。それにまだ、二十五歳だし。
この時まで、引っ掛かったのが血液だから、一応、色々検査してるんだと思ってた。あくまで、念のためにね。だから、健康診断の延長的なものぐらいにしか考えていなかったよ。保険がきく有料の人間ドックだって思っていた。かかりつけ医の先生もそう言ってたから。これっぽっちも疑ってなかった。
二時間待って、やっと名前を呼ばれた。ノックしてから診察室に入る。
あれ? 空気重くない?
どことなく重たい空気が漂っていることに、直ぐに気付いた。
前の患者さんが出てから呼ばれるまで長かったし、てっきり、前の患者さんが原因かなって思ってたよ。まさか自分が原因とはね~
中年の担当医の先生が、神妙な面持ちで私を見る。そして、一呼吸おいてから口を開く。
「長い時間、待たせてしまいすみません。桜井さんの診断結果ですが……桜井さんは、〈原発性非ヘイフリック症〉という病気を知っていますか?」
そんな名前の病気聞いたことがない。原発性非ヘイフリック症!? なにそれ?
私が覚えているのはそこまで。その後はあまり記憶がない。
担当医の先生が緊張と深刻さが入り混じった面持ちで、詳しく病気について説明してくれてるのはうっすらと覚えてるの。
覚えているけど、あまりの急展開に頭が感情が付いてこれていない。聞こえてるのに反応できない。完全にキャパオーバーだった。
私はその日、自分の中にある命の時計が狂っているのを知ったの――七年しかないってね。
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