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43 あえて、呼び方を変えてみました

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「未歩ちゃん、起きて!!」

 ふて寝している未歩ちゃんの掛け布団を引っ放す。

「うーん、何するのよ、桜ちゃん」

 剥ぎ取った掛け布団を奪い取り、また寝ようとする未歩ちゃん。

「いつまで、不貞腐れているつもり」

「うるさいな!! 桜ちゃんには、私の気持ちなんてわかんないよ!! こんな世界を書けるんだもん、桜ちゃんは家族がいて愛されてるんだよ!! そんな人に、私の気持ちなんてわかんない!!」

 そう怒鳴ると、またベッドの上でだんご虫になっている。

 大人気ないと思うけど、未歩ちゃんの台詞に少しムカついた。

 愛されてない? 

 なら、未歩ちゃんの〈願い〉を叶えるために、寝る間も惜しんで走り回った人たちは何なの? 

 ただの義務だから? 

 未歩ちゃんが望む愛じゃないかもしれない。でもね、彼らが皆義務で動いたとは思えないよ。もし、未歩ちゃんがそう思っていたら、私は凄く悲しいよ。

「うん、わかんないよ。そもそも他人の気持ちなんてわかるわけないじゃない。でもね、未歩ちゃんのために頑張った人たちの気持ちを否定しないで」

「うるさい!! 説教なんて聞きたくない!!」

 頑なな未歩ちゃんに、私は大きな溜め息を吐く。

「なら、いつまでもそうしてなさい。私たちはここを出て行くから」

 私はそう告げると、未歩ちゃんの部屋を出た。

「…………え? ここを出て行く? 冗談だよね?」

 私が部屋を出た後、ムクリと起きる未歩ちゃん。慌てて部屋を出ると、私の部屋に飛び込んだ来た。そして気付く。私の部屋に置いてあったスーツケースがなくなっていることに。

 山中さんも日向さんの部屋も、最低限の荷物以外綺麗に片付いていた。

 私の言葉の信憑性が増す。

 ヘタリと、未歩ちゃんは腰が抜けたように、山中さんの玄関に座り込む。

「…………どこに行ったの……? やだ~私を置いて行かないで~~」

 這って出てきた未歩ちゃんは、とうとう、廊下の真ん中で盛大に泣き出した。

 そんな未歩ちゃんに、私はさっきとは違う意味で溜め息を吐く。そして、手の焼く妹に苦笑する。さっきから、エレベーターの前で待ってるんだけどね。未歩ちゃんには、見えなかったみたい。

 ほんと、困った妹よね。

「置いて行くわけないでしょ。早く用意しなさい。わよ、未歩。日向も陽平兄さんも、私たちを待ってるんだから」

 声を張り上げる。

 私は、わざと未歩ちゃんを呼び捨てにした。日向さんと山中さんの呼び方も変える。

 その方が家族らしいし、私の書いた小説らしいからね。やるからには、徹底的にやらしてもらいます。もちろん、了承もえてますから。ちなみに、呼び方を変えることを提案したのは日向さん。

「……桜ちゃん?」

 目をまん丸くさせて、未歩ちゃんは私を凝視する。そんな未歩ちゃんに、私は言った。

「未歩、十分以内に用意しなさい」

 その言葉に、未歩ちゃんはパァーと顔を明るくして、立ち上がると袖口で目元を拭った。

「わかった!! 待ってて!!」

 そう私に言うと、未歩ちゃんは自分の部屋に急いで戻った。必死で荷物をまとめてるんだろうな。簡単に想像できて、私は自然と口元が綻んだ。


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