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45 家族

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「あれ? 未歩は?」

 日向さんを起こして階段を下りてきたら、いつもいるはずの未歩ちゃんの姿がダイニングになかった。コーヒーの香りもしない。

 まだ寝てるのかな? 珍しい。

 昨日、夜遅くまで、日向さんとクリスマス旅行の計画練ってたし……でも、どんなに夜ふかししても、朝は必ず起きて来てたよね。

 心配になった私は、ノックをしてから未歩ちゃんの部屋を覗いた。

 室内はカーテンが開いてないので薄暗い。

「……未歩ちゃん?」

 つい、前の呼び方になってしまう。

 部屋に入り、カーテンを開け、ベッドに横たわる未歩ちゃんを見た。

 そこには、息を切らし、苦しそうに胸を押さえて苦しんでいる未歩ちゃんがいた。

「未歩ちゃん!!」

 大きな声で、未歩ちゃんの名前を叫んだ。しゃがみ込み、額に手を当てる。

「熱っ!!」

 かなりの高熱が出ていた。昨夜、熱を計った時は平熱だったのにーー

「一葉!! どうした!?」

 私の叫び声を聞いて、日向さんが未歩ちゃんの部屋に飛び込んで来た。

 私が言葉を発するよりも早く事態を把握した日向さんは、急いで陽平さんに連絡をとった。

「一葉!! 未歩の体を冷やせ!!」

 陽平さんと話しながら、日向さんは私に指示する。

「わかった!!」

 私は冷凍庫から保冷剤を四つ持ってくると、両太股と両脇に保冷剤を挟んだ。

「一葉!! すぐに、陽平と国谷さんが来る」

 背後で、日向さんが教えてくれた。

「聞いた、未歩ちゃん。もうすぐ、陽平さんと国谷先生が来るからーー」

 私は苦しそうに呻く未歩ちゃんの手を掴み、少しでも力付けようとした。

「……ご…ごめんね……熱なんて出しちゃって…………嫌だよ……これで……この生活が終わるの……やだ…………」

 未歩ちゃんは私の言葉を遮り、ボロボロと涙を流す。

「未歩、私たちは家族よ。私は貴女の姉よ。家族に終わりなんてないわ!!」

 私は握っていた手を力を込め断言した。

 大丈夫。また、一緒に暮らせる。

 それは願望、そんな保証はない。

 それが元気付け、慰めるためだとしても私は夢を大きな声で語る。無責任で残酷な言葉だったとしても――

 当然よ。私は身近で見てきたの。未歩ちゃんが、どんな想いで、この〈願い〉を口にしたのかを。どんな想いで生活していたのかを――

「…………か、ぞく?」

 苦しい中、見開いた未歩ちゃんの目。

 誰よりも寂しくて、一人で死の恐怖に耐えていた。それが、未歩ちゃんだった。だから未歩ちゃんは、寄り添ってくれる家族が、欲しくて欲しくて堪らなかったの。

 私が書いた小説はきっかけに過ぎない。未歩ちゃんが欲しかったのは、別にあったのたから。

「家族に決まってるじゃない。貴女は、私の大事な妹よ」

「妹……そっか…………私、桜ちゃんの………」

「未歩ちゃん!!」

 スーと目を閉じた未歩ちゃんの意識を必死に繋ぎ止めようと、私は叫ぶ。

「一葉!! もう、大丈夫だ。国谷さんが来た」

 日向さんが私の肩を掴む。

 私は手を離し脇に寄る。国谷先生が脈をとり、陽平さんが処置を始めた。手早く処置を終えると、未歩ちゃんを運び出し、病院に運ぶ。

 残された私は、腰が抜けたかのようにその場に座り込む。

「……落ち着いたら、病院に行こうか?」

 今度は、私の肩に手を置き日向さんは言った。

 私はすぐに返事ができなかった。暫くして、小さな声で「……うん」と呟いた。ボロボロと涙を流しながら。


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