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エピローグ

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「あれから、十年経ったよ……一葉」

 三階に移動するまでの一年、一葉がよく来ていた浜辺で、俺はポツリと呟く。時間があれば、俺はこの浜辺に足を運ぶ。

 陽平先輩の想いと共に受け継いだ研究は、少しづつだけど前進しているよ。

 原因だった遺伝子の活動を、少しだけど弱めることに成功したんだ。それによって、延びる命は二年か三年。短いと思うかもしれないけど、これを足掛かりにもっと進めていきたい。いずれ、狂った遺伝子の暴走を止めるために。

 俺の時代で、研究がどこまで進むかわからないが、必ず、俺たちの後を継いでくれる研究者が現れるはずだ。そう信じている。まぁ現れなかったら、陽平先輩のように、自分の足で探すつもりだ。絶対に、研究を途切れさせはしないよ。だから、安心して、二人とも。

「一葉……俺には、まだ、お前が見ていた景色を見ることはできてないよ。相変わらず、灰色のままだ。自分を許し、愛するって、とても難しいな。でも、いつかは、色の付いた景色を見ることができるって信じている。一葉……お前が信じて、最後まで愛してくれたからな」

 浜辺で一人感傷にふけっていると、俺を呼ぶ子供の声が聞こえた。思考が現実に引き戻される。

「「「先生~」」」

 少し離れた場所で、小学生の低学年くらいの子供が三人立って手を振っていた。三人とも俺が担当している患者だ。

隆史たかしたちか。どうした?」

 新薬のおかげで、三人は若返りの速度が遅くなっている。それでも、未来は決まっていた。

「夕ご飯だよ。今日はカレーだって。早く来ないと全部食べちゃうからな」

 一人の少年がそう大声で言うと、子供たちは病院に戻って行った。

「やれやれ、忙しないな。……また来るよ、一葉」

 そう声を掛け、海に背を向けた時だった。

 ーー兄さんなら見えるよ、絶対。

 ふと、一葉の声が聞こえた気がした。

 反射的に俺は振り返る。

 そこにはーー

「そうだな、一葉がそう言うなら間違いないな」

 微笑みながら、俺はその声に答えた。



 今も食堂に一葉の本が大事に飾られている。

 それを見る度に俺は思う。一葉の代わりに、温かく優しい心で、俺たちをずっと見守り続けてくれているのだと……

 俺は妹が見ていた世界を見ることはできない。でも……今はそれでもいいと思う。

 あの血の繋がらない家族の思い出がこの胸にある限り、いつか、そういつか……俺は自分を愛せる時がくるだろう。皆が迎えにきてくれた時、「俺もこの世界が輝いて見えた」と笑って報告したい。

 いや、絶対にする。

 それができて、俺は家族の想いを受け継いだことになるのだから。

 家族って、ほんといいな……

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みんなの感想(3件)

すずちゃん
2023.12.25 すずちゃん

完結まで書いていただきありがとうございます。
すっきりして暖かい文章が大好きです。
悲しいお話ですがそれぞれの幸せを納得していきましたね。でも本当の最期はどうだったでしょう…
気持ちの良い作品でした。
寒さが厳しい折お身体ご自愛ください。

井藤 美樹
2023.12.25 井藤 美樹

 最後まで読んで頂きありがとうございます。
 重ねて、感想ありがとうございました。

 一葉の最後を詳しく描くべきか考えたのですが、あえてぼかしました。私の主観を入れ込み過ぎるような気がして。作者なのにおかしな話ですね。ただ、伝えたいことは伝えられたと思います。

 これからも、頑張って書いていきますね。

 最後に、暖かかったり寒なかったりと、気温差が激しいようですが、体調を崩さぬようお過ごし下さい。
 

解除
Mugi
2022.10.14 Mugi
ネタバレ含む
井藤 美樹
2022.10.15 井藤 美樹

 感想ありがとうございます。

 この作品は初めてのライト文芸で、私自身、色々な思い込みがある作品です。完全にフィクションですが、一葉に私が投影している部分もあります。色々悩んでいたのを、書きながら解消し、消化している感じですね。

 私の拙い文章が、少しでも慰めになって頂けたのなら、とても嬉しいです。

 これからも頑張って書いていきますね。

解除
すずちゃん
2022.08.19 すずちゃん

このお話に巡り会えた事を幸せに思います。
毎日更新楽しみにしています。暑い日々のお身体ご自愛くださいね!

井藤 美樹
2022.08.19 井藤 美樹

 数多くある小説の中から、選んで頂きありがとうございますm(_ _)m

 これを励みにして、これからも頑張って書いていきますね。
 
 すずちゃん様も、体調気を付けて下さいね。

解除
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