空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

文字の大きさ
2 / 64

君と初めて会った日

しおりを挟む

 蓮君が私の保護者になったのには、ちゃんとした理由があるの。

 あんまりにも、その時のインパクトが強過ぎて、今だに独り立ちできないのが悲しいけどね。まぁ、無理もないかな。

 当時のことは、はっきりと覚えてるよ。

 私が蓮君と出会ったのは、二月の終わりだった。その日は久し振りの快晴で、初めて私が一人で外出した日だったの。

 雑誌を見て、チェックしていた水族館に行きたくなって駅に来たまではよかったんだけど……恥ずかしい話、実は私、切符の買い方知らなかったんだよね。ましてや、色んな路線があって、プチパニック。途方に暮れてると、呆れたように声をかけてきてくれたのが、蓮君だったの。他の人は、皆見て見ぬ振りをして避けてたのに。優しいよね。

「もしかして、あんた、切符の買い方わかんねーの?」

 反射的に後ろを振り返ると、強面こわもての目付きの悪い男子が不機嫌そうに立っていた。知らない人から声を掛けられて、吃驚びっくりしてビクついてる私に、少し苛つきながら、さらに彼は訊いてきたの。

「どこまで行くんだ?」

「……水族館に行きたくて」

 声、震えなくてよかった。

「あぁ、新しくリニューアルしたあの水族館か? なら、この駅だな。で、あんた一人で行くつもりなのか?」

「うん……」

 小さく頷くと、蓮君は大きな溜め息を吐いた。

「切符一枚買えない世間知らずが、一人で水族館に行くって、無謀すぎるだろ。乗り換えあるし」

 蓮君は心底馬鹿にした口調で言ってきた。新鮮で、嬉しい。さすがに、これ以上変な子って思われたくないから口にはしなかったよ。反論もね。蓮君の立ち位置だったら、同じこと思ったし。

 それでも、私は行きたかったの、どうしても。だから、切符の買い方だけ教えてもらった。スマホを見れば、わかると思うし。

「ご親切に、ありがとうございます」

 私は蓮君に軽く頭を下げてから、再度切符を買おとしたら、蓮君が隣で買ってくれて渡してくれたの。「ほら」ってね。

 ほんと、その時の蓮君って、やけにキラキラして見えてね、すっごく格好良かったの。私が君を好きになったのは、たぶん、この瞬間かな。

「ありがとう、切符代「いい」

 血液が一気に顔に集まるの自分でもわかったよ。真っ赤になりながらも、切符代を払おうとしたら、なんと蓮君がさえぎったの。

「俺も一緒に行くからいい」

「えっ!?」
 
 耳を疑ったね。一気に、顔に集まっていた血液が戻ったよ。

 どういうこと!? 

 普通戸惑とまどうよね、初対面だよ私たち。
 
 戸惑う私を無視して、蓮君はイラッとしながら怒鳴ってきた。まぁ実際は怒鳴ってはいないんだけど、私にはそれくらいのインパクトがあったの。

「グスグスするな、早く来い」

 口調は厳しいけど、それでも私が来るのを待ってる蓮君。付いて行くの一択しかないでしょ。

 当時の私はとても大胆だったと思うよ。初めての一人のお出かけで、かなりテンションが高くておかしくなっていたんだよね。警戒心皆無だと、後で蓮君に怒られたよ。いや、来いって言ったの君だよね。

「……連れて行ってくれるの?」

 人一人分開けて座る、私と蓮君。

「ああ。前から、俺も行きたかったからな。それに、今日暇だし」

 ほんとかな、でも隣に誰かいるのは嬉しい。

「ありがとう」

 少し緊張が取れて微笑む私に、蓮君は呆れながらにらんできたんだよね。普通、睨む?

「お前、どっかのお嬢様? 普通、切符の買い方ぐらい知ってるだろ?」

 当然の疑問だよね。私は軽く首を左右に振り答えた、

「……実は、今日、初めて一人で外に出たの。ずっと入院してたから、電車に乗るのも初めてで。移動は、いつも父さんの車だったから」

 同情されるの嫌だなって思っていたけど、特に表情も口調も変えずに蓮君は言った。

「ふ~ん、なら、今日は楽しまないといけないな」  

 その瞬間、見えていた世界が十倍ぐらい明るくなったの。

 恋に落ちたのは、君が切符を渡してくれた時。それが錯覚じゃないって思ったのは、この瞬間だった。

 私のまま許してくれるかな?

「イルカのショー見たい!!」

 ――君と。

 ちょっとだけ、願望を口にしてみる。
 
「はいはい、わかったよ」

 乱暴な言い方だったけど、承諾してくれた。この時、私はとても嬉しかったんだよ、蓮君。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

処理中です...