空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

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君と初めて遊んだ日

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 確かに私は世間知らずの子供だけど、人の善し悪しくらいは判断できるよ。だから、直ぐに気付いたの。蓮君がとても優しくて、周りをよく見ていて気づかいができる人だってね。

 私がお願いしなくても、自然に歩調を合わせてくれるし、歩くのが遅い私に、文句一つこぼさない。反対に、文句を言ってきた人をにらみ付けて黙らせてくれたよ。蓮君が睨むと、皆真っ青になって逃げ出す人多いのには驚いた。こんなに格好いいのにおかしいよ。身長は百八十センチ超えてそうだし、身体つきもしっかりしてるし、目付きも悪い。でもね、ハンサムなんだよ。伝わらないけど。

 たぶん、前にお父さんが言ってた、アクが強い顔なんだね。かなり損してるよ。蓮君、不憫ふびん

「お前、俺のこと怖くねーのかよ」

 ベンチに座って季節限定のジュースを飲んでると、蓮君がぶっきらぼうな口調で訊いてきた。

「さっき、松岡三奈みなって自己紹介したばっかだよね。まぁ、蓮君らしいからいいけど。私は蓮君のこと、少しも怖くないよ」

 そう答えた時の蓮君の顔、ポカンとしてて傑作だったよ。いきなりの名前呼びにも驚いたかもね。

 馴れ馴れしすぎた? 
 
 でも、名字よりも名前呼びの方がしっくりくるんだよ。後でその時のことを話したら、君はすっごく嫌がったけどね。

「お前、馬鹿だろ。普通、怖がるぞ」

 そう当人に断言されてもね……怖くないから、怖くないって素直に答えただけだし、怖い要素皆無だし。

「そうかな。確かに顔は強面だし、目付きも鋭いし、口も悪いけど、蓮君は優しくて、とても良い人だよ」

 容姿は関係ないって、言いたかっただけなんだけど……

「あぁ!? いい度胸してるな、お前。面倒向かってディスられたの久し振りだ」

 台詞は物騒だけど、怒ってはなさそう。怒気っていうのが出てないからね。安心したよ。ちゃんと、伝わっていたみたい。

 もしかして、照れ隠し?

「でも、悪い気はしてないよね」

 内心、嬉しかったくせに。素直じゃないよね。少し笑いながら言ったら、蓮君に睨まれた。

「お前、ダチいないだろ」

 今度はマジだ。声のトーンも少し低いし。からかったように思ったのかな? 違うのに……少し、素直になりすぎたよ。無神経だったと思う。蓮君優しいし、包容力があるから甘えすぎたみたい。

 いつも、大人の顔色をうたがって話していたから、それをしなくてもいいと知って、浮かれすぎたよ。会って間もないのに、なぜか、なんでも許してくれるって思ってしまった。馬鹿だね、私。

「……ごめんなさい。ちょっと、調子にのりすぎたよ。でもね、からかってないから、本当にそう思ったから、それだけは信じて」

 もし、このままお別れになるにしても、蓮君を怒らせたまま別れたくはなかった。

「なに、必死になってんの? おかしなやつ」

 爆笑しながら、蓮君は私を許してくれたんだ。

「もう、怒ってない?」

「いいよ、別に。俺も大概たいがい無神経だし、別に構わない」

 その台詞に、私は胸を撫で下ろしたよ。

 よかった……蓮君と私を結ぶ糸が切れなくて。

 私の自由時間は限られてる。

 だから、その時間を大事にしたい。

 親以外に、一緒にいたいって本気で思ったの。会って間もない男子に。もしかして、私ってチョロいのかな。でも、それでいいよ。

「結構休んだし、そろそろ行くか」

「うん」

 私は蓮君にうながされて立ち上がる。もちろん、イルカショーを見に行くために。

 イルカショーって、思っていた以上にずぶれになるんだね。一応、ずぶ濡れゾーンの二列後ろに座ってたけど、スカートが濡れちゃった。前に座るお客さんが、レインコート着てたの正解だよ。

 隣で、小さな笑い声が聞こえた。

 蓮君だ。楽しそう。

 口元が緩んでるよ。私の口元も緩む。

 蓮君を見てから、イルカショーに視線を移して、ふと……想像したの。もし、私一人で水族館に来ていたら、これほど楽しめたかなって。

 きっと、楽しめなかったね。

 そして、私は最後まで、この楽しみを知らないまま終わるのだと思う。

 蓮君、人と一緒に楽しむことを教えてくれてありがとう。

 大好きだよ。

 
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