空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

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こんな未来もあったかもしれない

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 漠然ばくぜんと抱いていた不安が現実になったことに、私の感情が追い付かない。そのせいか、無表情な上に淡々とした口調になってしまった。

「……貴方たちは……それで、私に何の用なの?」

 思った以上に冷たい声だわ。

 そのせいで、女の子の方はビクッと身をすくませ、男の子の方は女の子を背中にかばいながら、私に鋭い視線を向けてくる。

 完全に警戒されてるね。

「……お前は誰だ!? 俺たちと同じ双子なのか!?」

 あ~そういうことね。

 私を死んだ三奈の双子だと考えてるわけね。っていうか、私の顔を知っていたことに驚いた。

「違うわよ、私は一人っ子よ」

 双子で押し通してもよかったんだけどね。でも、わざわざ学校をさぼってまで、確かめに来た人を無下むげに返すのも気が引けた。

 それに、直ぐにバレる嘘を吐いても意味ないし。

「なら!?」

「取り敢えず、入らない? 玄関でする話じゃないでしょ」

 更に問いただそうとしているのをさえぎり、私は背を向ける。少し躊躇ためらったあと、靴を脱ぐ音がした。

 私はリビングに二人を通した。

「適当に座ってて」

 冷蔵庫から新しいペットボトルと封を開けていないお菓子を持って来る。

 戻ると、二人とも骨壺と小さな写真立てを凝視していた。

「……ほぼ、病院しかいなかったからね、こんな写真しかないのよ。遺影もないしね……それで、貴方たちはどちら側の家族なの?」

 男の子の隣に立ったら、めっちゃ仰け反られた。そして、写真立てを指差し尋ねる。

「…………本人?」

「そうだよ。私は一人っ子だからね」

「いやいや、ないない。だって、あんた、男とめっちゃ飲み食いしてたよな!!」

 男って……こっちが、素ね。

 まるで、猫が毛を逆立てて威嚇いかくしているみたい。可愛いな。

「してたわね。まぁ、それができるのは、四十九日間だけどね。よく言うでしょ、四十九日間は死者の魂は現世に留まっているって。私が、普通の人間と同じようにできているのは、神様のちょっとしたプレゼント。あまりにも、何もない人生だったからね……それで、貴方たちは誰かな?」

「俺は……立木あきら。こいつは、妹の立木立花りっか。一応、佐戸井奈美恵の新しい家族」

 佐戸井はお母さんの旧姓。つまり、お母さんの再婚相手の連れ子ね。

「始めまして、私は松岡三奈と言います。私のことはお母さんにいたの?」

 私がフローリングの上に座ると、双子の兄妹もずとソファーに腰を下ろした。

「聞いてない。写真を見たことがあったから、覚えてて」

 なるほど。そもそも、あのお母さんが、私のことなんて話さないよね。過去なんだから。

「そっか……だとしても、よくわかったわね?」

 当時の写真はやつれてて、一見、私だとわかりにくいものばかり。

「なんとかく。それに、男があんたのこと三奈って呼んでいたの聞こえたから」

「だから、確かめるためにあとをつけたのね」

 私がそう言うと、亮君と立花ちゃんは小さく頷く。

「でも、途中で見失って。ここに来たら、はっきりすると思ったの。住所は、前に、お父さんに聞いたことがあったから」

 答えたのは立花ちゃんだった。

「それで、来てみれば、斜め上の展開だったと」

 私が死んでるとは思わないよね~

「双子だと思ってた。今も信じられない」

「じゃあ、こうすれば信じるかな」

 私はそう言うと、双子の前で手を振ってみた。但し、肘下は半透明で。

 固まってる、固まってる。

 意図的に一部を半透明にしたのは初めてだったけど、上手くいってよかった。

「…………マジで死んでるのか?」

 声が震えてるよ、亮君。

 人を指差すことはマナー違反だけど、その気持ちわかるから許す。

「亮君に立花ちゃん、怖がらせてごめんね。私はもうすぐ消えるわ。この家も売却される。あと少しだけでいいから、このまま、この家に居させてくれないかな?」

 私は二人にお願いする。

「…………奈美恵さんに会わなくていいの?」

 立花ちゃんも亮君も優しい子だね。こんな胡散臭うさんくさい私を信じてくれて、気遣ってくれている。

 もし……私の病気が奇跡的に治っていたら、二人は私の弟妹になっていたかもしれないね。ほんの少しだけ、そんな未来が見えた気がする。

 私は小さく首を横に振り、そんな未来を否定した。

「会う必要はないわ。そもそも、会えないし。お母さんには私が見えてないからね。だから、無理」

 

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