空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

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俺はあいつの嘘に気付かない振りをする

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 かすみ草の種を買ったあと、蓮君たちが向かったのは立木家だった。

「……でけ~」

 そうだよね。圧倒される大きさよね~私も初めてこの家に来た時同じ反応したよ。

「こっち」

 立ち止まっている連君に、亮君は一言声を掛けると立花ちゃんと一緒に歩き出す。蓮君は二人のあとをついて行く。

 少し歩くと、庭に出た。庭を横切り奥に進むと、何も植わっていない花壇があった。庭の奥から、亮君がスコップと軍手を持ってくる。

「肥料とかいいのか?」

 蓮君が尋ねた。

「肥料なら、とびきりのものを撒いてあるから大丈夫です」
 
 亮君は感情が見えない表情と声で答える。そして、小さな穴を掘り始めた。

「土も柔らかくなってるな……ん? どうした?」

 蓮君がポツリと呟いたあと、いぶかしげな様子で亮君と立花ちゃんを見た。

「北林さんって、ガーデニングに詳しいんですか!? 意外すぎて言葉を失いました」

 亮君、超素直だね。まぁ、私も同じこと思った。だって、百八十度違うでしょ。蓮君がガーデニングをしている所なんて想像できないよ。詳しいのも無理。

「似合わねーからな。たまに手伝わされてるんだよ、母親に」

 そう言えば、蓮君のお母さんって、全体的にちまっとしてたわね。亮君を囮にして盗撮した時に見たわ。動物に例えると、ハムスターみたいな感じの女性だったな。

「……素直に手伝っているんですね、意外すぎます」

 驚愕した様子を隠そうとすらしていない、亮君と立花ちゃん。

「お前らの中の俺の評価がどうなのか、今はっきりとわかった」

 そう文句を言いながらも手を動かす、蓮君。

 一時間ぐらいで種蒔きと水やり、全てが終わった。

「それで、聞かせてもらうぞ、三奈は今何処にいる? 知らないは通用しねーぞ」

 真剣な顔の蓮君。

 難しい顔をした亮君と立花ちゃん。

 蓮君は何かを察しているようで、亮君たちが口を開くのを静かに待っていた。

「…………遠くにいます。とてもとても、遠くに」

 もう、この世にいない。死んだって言えば楽なのに、ほんと……優しいな。

「………………そうか、わかった」

 蓮君は小さな声でそう呟くと、制服に付いた泥を払い鞄を手に取った。そのまま、門に向かおうとしている。

 もしかして、このまま帰るの!?

 これには私も驚いたよ。

「何も訊かないんですか!?」

 焦った亮君が、蓮君の背中に向かって叫ぶ。蓮君は立ち止まり身体半分だけ振り返る。

「訊く必要がないだろ」

「それって、あまりにも冷たくないですか!!」

 立花ちゃんが顔を真っ赤にして蓮君を非難した。

「……三奈は俺に最後まで真実を話さなかった。自分が死んでいたことも、留まれる時間が限られていたことも、何もかも」

 怒ることもなく、悲しみさえ感じない、淡々と語るその口調に私は固まる。

「知ってたんですか!?」

 亮君は驚いて訊き直している。

「ああ、お前の親父さんが三奈を迎えに来た時、俺は玄関にいたんだ」

『……えっ!? いたの…………』

 じゃあ、あの時のラキさんとの会話を全部聞かれてた……嘘……

 幽霊でも脱力するんだね。座り込んだ私の隣に、ラキさんがいつの間にか立っていた。

『……ラキさん気付いてたの?』

『はい、気付いてました』

『なら!!』

『途中で止めれましたか?』

 そう言われたら、何も言い返せない。あの時は一杯一杯で、正直、周囲に気を配る余裕なんてなかったよ。ポカしちゃった……。唇を噛み締め、黙り込む。

「……でも信じられなくて、何度もラインを送ったけど、この三日程は既読すらつかない。電話も出ねー。だから、真実を確かめたくてここに来たんだ。そして、答えが出た。なら、これ以上いる必要ないだろ」

 そう告げると、蓮君は背を向け歩き始めた。

「なんで、平然としていられるんですか!? 三奈さんのこと、そこまで好きじゃなかったの!!」

 真っ赤な顔が泣き顔に変わっていた。

「好きだよ。愛している、誰よりも。俺は三奈に心底惚れ抜いてる。だから、俺はあいつの嘘に気付かない振りを、死ぬまでし続けてやる。今度は、俺が嘘を吐く番だ。それが、あいつが望んだことだからだ。そして、今度会った時、思いっきり怒って、今度こそ、気持ちを伝えて離れてやらない。そう決めたんだ」

 そう告げると、蓮君は亮君と立花ちゃんに背を向け歩き出した。

 
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