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今度は私が君に初めてをあげる
しおりを挟む蓮君の背中が段々小さくなっていく。
私は呆然と座り込んで、遠ざかるその背中を見ていた。
まさか、私の嘘に気付いてたなんて思わなかった。考えもしなかったよ。蓮君って凄いよ。全然、おくびにも出さなかったじゃない。訊きたいこと一杯あったよね。問い質したかったよね。
なのに、送られてきたラインは、いつも私を気遣う言葉ばかりだった。
私を愛しているからって……そんなの、とっくに気付いてたよ。はっきり気付いたのは、映画館だったけどね。そこまで、私鈍くないよ。
私も大好き。
愛してる。
言葉にできないほど、蓮君のことが好き。だから、私は叫ぶ。
『……い…………かないで、お願い、置いて行かないで!!』
胸がはち切れそうに痛むのに耐えながら、引き止め、叫び続けた。身体が鉛のようで、足が動かなかったから。
聞こえないはずなのに、蓮君が足を止め振り返った。
その時、後ろから突風が吹いた。
「…………三奈……三奈!!」
蓮君が私の名前を呼ぶ。そして、必死な形相で私の方に走ってきた。
「「三奈さん!!」」
亮君と立花ちゃんも私を呼ぶ。
「……えっ!? もしかして、見えてるの……」
私がそう口にした時。蓮君が私を抱き締めようと腕を伸ばした。でも、私は蓮君の体温を感じることは出来なかった。
掻き消されるように消えてしまったから……二度目の奇跡は起きなかったみたい、残念。
「三奈、どこに行った!? 近くにいるんだろ!?」
蓮君が必死で私の姿を探す。周囲を見渡したあと、蓮君は崩れるように両膝を地面に付けた。
『いるよ、君の後ろに』
私は背後から、蓮君の大きな背中を抱き締めた。
伝わるかな、私の体温と気持ち。
『蓮君、次に会った時、私を君の彼女にしてね……約束したからね』
私はそう告げると、蓮君の背中から離れた。
「三奈!!」
私が離れたことに気付いたのかな?
蓮君の前に回り込んだ私は、両膝を付き、両手で彼の両頬にそっと近付けた。蓮君が大人しくなる。
やっぱり、私が傍にいることわかってるんだね。
なんだか、それだけで幸せな気持ちで胸が一杯になるよ。そして、幸せな分苦しくなる。だけどそれもまた、幸せなんだと思う。
鼻の奥が痛い。目頭が熱くなる。
すっごく、すっごく、泣きそうになった。でも、今は泣かない。代わりに、笑うの。
『私を見付けてくれて、ありがとう、蓮君』
切符売り場で、蓮君が私を見付けてくれた。
そこから、私の物語は始まったの。
蓮君はいつも、私に色んな初めてを与えてくれたね。ゲーセン行ったり、美味しいものも一杯食べたね。蓮君の苦手な甘いものが多くてごめん。なのに、嫌な顔をしないで付き合ってくれたね。
大切なものを一杯くれたから、今度は私が君にとっておきの初めてをあげる。
私は蓮君の唇に自分の唇を重ねた。
体温なんて感じないはずなのに、蓮君の荒れた唇の感触だけは感じた気がした。
蓮君、貴方に会えて、私はとてもとても、幸せだったよ。どれくらいって訊かれたら、ここまで、なんて表現できないくらい幸せ。
私の細胞一つ一つが、蓮君を欲してるの。愛してるって、叫んでる。
愛してるって言葉は、蓮君を縛るから言えない。私のことが見えなくても、声が届かなくてもね。その代わり、私は貴方にこの言葉を贈るわ。
『……ありがとう、蓮君』
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