空っぽの私は嘘恋で満たされる

井藤 美樹

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ラキさんの罪

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「とうとうこの日が来たね、ラキさん」

 四十九日、あっという間に最後の日になったよ。と言っても、まだ十時間ほどあるけどね。

 幽霊だから、暑さも寒さも感じない。なのに、風に吹かれたら、髪が揺れるのはなんでだろうね。普通に、持ってきていたココア飲めてるし、ほんと、最後の最後までよくわかんなかったな。

「そうですね、今回は特に早く感じましたね」

 ラキさんの声、今までの中で一番優しくて穏やかだった。

「そうなの?」

「はい」

「そっかぁ~」

 私はそう答えながら、視線をラキさんから外す。

 ラキさんにお願いした通り、この当たりで一番高い建物の観覧室に私たちはいる。普通に公共機関を利用してきたよ。営業時間はついさっき終わったばかりで、外はまだ薄暗いけど、眼下には車のヘッドライトやビル、工場の明かりが星のように見えてきた。

「……綺麗だね」

「私も、この景色は好きですね」

 私は隣に立つラキさんの顔をチラリと見てから、ずっと疑問に思っていたことを訊いてみることにした。最後だしね。

「……ラキさんって、元は人間なの?」

 結構長い間一緒にいたのに、ラキさんのこと名前しか知らない。それも本名じゃないと思う。詮索したらいけない感アリアリで聞けなかったんだよね。

「知りたいですか? 特別ですよ。私は元は人間です。そして、罪人ですね」

 とんでもない、カミングアウトきたね。でも、少しも怖くないよ。

「罪人? ラキさん、法に触れることしたの?」

「人の法には触れてませんね。でも、冥界の法に触れることをしたんですよ。寿命をまっとうしなかった。途中で終わらせたんです、自分の手で」

「それって……自殺…………」

 ラキさんは小さく頷き心痛な表情で私を見ている。

「三奈様は怒るでしょうね、命を粗末にしたことを。貴女はとても生きたかったのに」

 そう告げるラキさんは、とても悔いてるように見えた。そんなラキさんを見ていると、怒れないし、不快にもなれないよ。

「辛かったんだね、ラキさん」

 代わりに、微笑むことはできるかな。

「……怒らないんですか?」

 そんな驚いた表情されるとは思わなかったな。

「怒る必要ある? ただ、生きるだけなら楽だよ。じーとしてればいいんだし。でもそれすら、難しくて辛かったってことだよね。思うんだけど、死ぬって勇気がいるよね。どんな死に方でもさ。普通でもそれなのに、ラキさんは自分の手で終わらせた。その行為は褒められないし、擁護もできない。したらいけないことだから。でも……そうするしか、救われなかったんでしょ。ラキさんはそうするまで、必死で足掻あがいたんじゃない? それでも無理だったから、その道しか進めなかった。立ち止まることさえもできなかったから、最悪な結果が救いになったんだよね。そんな人を、私は責められないよ」

 そもそも、そんな偉そうなことが言えるほど徳なんて積んでないからね。

「…………貴女という人は……」

「ラキさん、これだけは覚えていて。私はラキさんに救われた。ラキさんが隣にいてくれたから、泥沼コースに行かなくてすんだの。ラキさんだからかだよ」

 別に慰めてるわけじゃないよ。事実を言っているだけ。俯いているラキさんに私はさらに続けた。

「ラキさん、本当にありがとう。私の導き手が貴方で、心からよかったと思うよ。これから先、ラキさんが許されて生まれ変わることができたら、今度こそ、幸せな人生を歩めるよ。だって、今のラキさん、最高だから」

 無責任な台詞かもしれないけど、私は心からそう思うよ。そうならないとおかしいよ。もしまた、辛い人生を歩ませようとするなら、私が怒鳴り込みに行くからね。

 だから、安心してよ、ラキさん。


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